シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻に端を発した今回の金融不安の波は、先週にはさらに拡大し、シグネチャーバンクの破綻も表面化し、そして危機の波は欧州にも及び、クレディスイスも「危ない」との不安から米債券が買われ、一時4%を超えた長期金利は3.42%台まで低下してきました。幸い、週明け月曜日の報道ではスイス最大の銀行であるUBSがクレディスイスを買収することで合意し、金融市場はやや落ち着きを取り戻しています。ドル円も朝方には131円台後半で推移していましが、午前中には132円65銭前後まで上昇する動きを見せています。FRBと日銀、ECBなど中銀6行は19日、市場のドルの流動性を維持するために、米ドルスワップ取り決めのもと、市場にドルを供給することを発表しています。市場にドルを供給する措置は2008年のリーマンショック時にも行われましたが、この時は合意に時間がかかり始動が遅れましたが、今回はFRBを中心に行動は早く、市場の不安払拭に役だっているとみられます。ただUBSの買収報道やドル資金供給の報道にもかかわらず、主要市場の中でも世界で最も速く取引が始まる東京市場では、リスク資産である株が大きく売られており、市場の不安は払拭されておらず、くすぶり続けている状況です。その結果、日経平均株価は先週末比300円を超える下げを見せています。
今週の注目は何と言っても、22日のFOMC会合で、昨年3月の会合以来連続で行ってきた利上げを一旦休止するのかどうかという点です。SVBの破綻は降って沸いたような印象ですが、それまでの予想は米インフレの再燃懸念を背景に、再び0.5ポイントの大幅利上げを行うといった見方が強まり、ドル円は今月8日には137円92銭前後までドル高が進む場面もありました。その後、米金利の低下にともなってドル売りが進んだことはご承知の通りですが、引き続きドル円は上値を重くする展開が続いています。「今日のアナリストレポート」でも触れましたが、利上げ見送りか、それとも粛々と0.25ポイントの利上げを断行するのか、パウエル議長は非常に難しい判断を下すことになります。インフレ抑制を最優先として利上げを行えば、再び株価が下げ、ドル円は上昇に向かう可能性が高いと思われますが、金融不安拡大を防ぐ観点から今回は利上げ見送りを決断することも十分考えられます。
利上げが実施されたとしても、会合後のパウエル議長の会見は、まず慎重な発言になることは容易に想像できます。「市場のボラティリティーの高まり次第では、利上げを休止する可能性はある」とし、「FRBは今後もインフレの動向を注視すると同時に、金融システムの安定にも最大の努力をしていく」といった趣旨のコメントが想定されます。筆者は、今回FRBはインフレ抑制を最優先し、0.25ポイントの利上げを予想していますが、その根底にはこれ以上金融不安は増幅しないと考えていることがあり、その基本が崩れてしまえば、今後の会合では利上げ見送りを超える、「利下げ」の可能性も排除できない事態もあり得るかもしれません。「リスクオフ」が進み、個人の消費意欲も急激に後退し、「守り」に入る可能性もあります。個人消費がGDPの7割を占める米国では、個人消費の落ち込みは、消費だけではなく、労働市場の減速につながることも考えられます。先週末に発表された3月のミシガン大学消費者マインド速報値は「61.5」と、2月の「64.7」を下回っただけではなく、市場予想の「64.8」をも大きく下回っていました。すでにその兆候が出ているのかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。