ドル円は消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)が市場予想を下回ったことで133円台まで売られ、長期の期待インフレ率が高かったことで135円台後半まで反発するなど、引き続き、米金融政策の動向が相場のカギを握る展開が続いています。その先にあるのが6月会合で、これまでのFOMCで10会合連続の利上が「据え置かれる」のかどうかが焦点で、6月13−14日の会合までの残された期間に、ここでの金融政策をどのように予想するのかということです。現時点での個人的な予想は、これまで述べてきたように、「利上げ見送り」という予想を引き続き維持しています。その根拠は、金融不安がやや解消に向かってはいるものの、今度は米連邦債務上限問題が不透明になってきたという点とリセッション入りの可能性の高まりという2点です。
今朝の「アナリストレポート」でも触れたように、連邦政府の資金は10日現在で880億ドル(約11兆9400億円)しか残っておらず、早ければ6月1日にも「Xデー」が、来るという予想もあります。マッカーシー下院議長も、もし米国がデフォルトに陥るような事態になれば、その影響は世界経済にも甚大な影響を与え、リーマンショックを上回る金融混乱が発生することは理解していると思われ、すでに多くの専門家が警告を発しています。バイデン大統領は、明日16日にもマッカーシー下院議長との会談を再開し、上限引き上げの「合意」を得た上で17日には「G7広島サミット」へ参加する目論見のようです。またその後には、シドニーで開かれる日米豪印4カ国の枠組み「クアッド首脳会議」にも出席する予定のようです。これらの予定を組んだことからも、バイデン政権が債務上限引き上げへの合意は可能であるとの見込んでいる証とみることもできそうです。ただ、それでも米株式市場の動きなどでは、万が一のリスクを織り込むような動きもあります。最後の最後まで気を緩めることはできません。
米国のインフレ率は、4月のCPIとPPIの結果を見る限り、明らかに鈍化していることがうかがえます。ただ、そのスピードはFRB当局者が期待するほど速くはなく、そのため依然として先行きに対する慎重な姿勢を崩していないというのが実態かと思います。一方で今回のインフレは粘着性が強く、簡単には物価目標の2%に戻らないことも当初より想定されていました。FRBは10会合連続で利上げを行う中で、合計5%もの大幅な利上げを実施してきました。14日にジェファーソン理事が講演で、「金融政策は経済とインフレに長期かつ様々な時間差を伴って影響を与えるもので、われわれの急速な引き締めの十分な効果は依然としてこれから表れる公算が大きい」と指摘したように、短期間で5%もの大幅利上げの効果は徐々に確認できることと思います。
今週はFOMCメンバーの発言機会が多く予定されています。基本的には市場をけん制する意味で「タカ派発言」が想定されますが、金融不安や債務上限問題を意識した「ハト派発言」が思いのほか目立つようだとドル円も再び下値を試す可能性もあります。135円を中心に上下2円〜2円50銭程度のレンジが今週も続くと思われます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。