やはりと言うか、ついにと言うのか、米債務上限問題を巡る与野党の政治的な主張の違いは27日、基本的合意に達しました。そもそも、当初から「最後の最後には合意する」と読んではいましたが、それでもNY市場では株式が売られ、債券も売られ、スタンダード・アンド・プアーズ社(現S&Pグローバル)は米国の債券を格下げ方向で検討していることを発表しました。いずれにしても、世界最大の債券発行国である米国がデフォルトに陥る可能性はゼロではないとしても、非常に低いものであるとみていました。この認識はバイデン大統領、マッカーシー下院議長も共有しており、だからこそ、先週両者の主張に隔たりがあることが確認された際でも、合意に対すると楽観的な言葉を発していたものと思われ、「政治的な駆け引き」とも言われていました。米国からは「チキン・レース」といった言葉さえ出ていた状況でした。
債務上限問題が一応片付き、今週の注目の一つは、明日連休明けの米債券市場がどのような反応を見せるのかという点です。先週まで、債務上限問題の不透明さから株と債券が売られ、金利が上昇したことがドル高の大きな要因の一つでした。常識的に考えれば、同問題が合意に達したことで逆の動きとなり、株高、債券高、そして金利が低下することでドルが売られる展開が予想されます。ただ、その様な予想を前に、今朝の東京市場では140円92銭近辺までドル高が進み、先週末のNYの高値を更新しています。先週の流れを引き継いだとも、今朝は日経平均株価が急騰したことで円が売られとも解釈できますが、焦点は米債券が買われるかどうかです。そもそも、株式と債券は、前者が「リスク資産」で、後者が「安全資産」です。従って、市場が「リスクオン」、「リスクオフ」といった具合に振れる度に、概ね逆の動きをみせることになります。つまり、「リスクオン」の流れが強まると、株高、債券安となり、「リスクオフ」になると株安、債券高に振れる傾向が見られるということです。先週のように、株と債券が揃って売られるというケースはむしろ稀なことです。そこで、考えられるケースでは、30日のNY市場で株価が大きく買われ、「リスクオン」がさらに進み、投資家が一段とリスクを取る姿勢を見せることで、安全資産の債券が売られるというシナリオです。金利が再び上昇し、ドル高がさらに進む可能性があります。今週は2日に「5月の雇用統計」が発表されますが、言うまでもなく、ここで労働市場の好調さを確認できるようなら、6月会合での利上げも確実となり、ドル高要因になります。円高に振れる可能性もあったなか、140円台まで買われたドルがこのまま上昇を続けるのかどうか、今週はしっかりと見て行かなければならないと思っています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。