ドル円は緩やかな「ドル高円安」傾向が続き、先週は終始円が売られる展開でした。先週1週間だけでもドル円ではおよそ2円70銭ほど円安が進み、円は他の主要通貨に対しても「独歩安」の展開で、円の安さが際立った週でした。パウエル議長が米上下両院議会で年内に2回の利上げの可能性があると、具体的な回数にも言及したことで株と債券が売られ、金利が上昇したことが直節的な円安要因でしたが、さらに円売りに拍車をかけたのが、日銀総裁を始めとする、決定会合のメンバーの発言でした。発言では、現行の金融緩和政策の維持は適切だという点で一致しており、年後半には日本の物価上昇率が2%を下回るとの見方を共有していました。
先週23日(金)には日本の5月の消費者物価指数(CPI)が発表されました。総合とコアCPIはともに「3.2%」と、先月よりも上昇率は減速していたものの、目標である2%は大きく上回っていました。またより物価の基調に近い「生鮮食品とエネルギーを除くコアコア指数」では「4.3%」と、上昇率は4月から0.2ポイント拡大していました。日経新聞(6月24日朝刊)によると、「日本は米欧に比べて製造コストの上昇分を価格に転嫁する率は低く、国内物価がプラスになった2021年3月〜23年5月で比較すると、米国は8割、ユーロ圏は4割程度で、日本は3割にとどまり、当面は価格転嫁の動きと円安が物価に一定の上昇圧力をもたらす可能性が高い」と分析しています。
ただそのような状況下でも、日銀は「生鮮食品を除く総合が23年度半ばかけて2%を割り込むとみている」ことが、現行政策の維持を正当化させているようです。逆に言えば急速に円安が進み、その結果日本のCPIが高止まりするか、さらに上昇するようなら日銀は直ちにYCCを修正することもあり得るということと理解できます。植田総裁が今月の会合後の記者会見で、YCC修正は、「ある程度のサプライズはやむを得ない」と発言した言葉に、その可能性が含まれていると考えています。また、26日に公表された「日銀金融政策決定会合における主な意見(6月15、16分)」では、ある政策委員はYCCについて、「将来の出口局面における急激な金利変動の回避や市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案すると、コストが大きい。早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきである」と主張したとありました。このような意見があったことも理解した上で、YCCの修正があった場合には一気に円高が進むリスクがあるため、常に意識は持っておきたいものと思います。
週明けの東京市場では小動きながら、ややドルの上値が重い展開になっています。もっとも、このような傾向は先週何度も見られたもので、NYで一気に水準が変わる可能性もあります。今週も引き続き、金融当局による「口先介入」には注意しながら、ドルの上値がどこまであるのかを探る展開が予想されます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。