6月のADP雇用者数が市場予想の2倍を超える結果に、ドル円は144円台半ばまで反発したものの、先週末金曜日の雇用統計では、今度は雇用者数が予想を下回ったことで、ドル売りが加速し、久しぶりに142円07銭まで落とされました。賃金は依然として底堅い動きを見せているため、まだ本格的な雇用への逆風の気配はありませんが、目先、145円台はやや重くなったと感じてきているのは、多くの市場参加者の共通した認識かと思われます。一方で、ここからもう一段ドルが売られ140円を割り込むような事態になると、昨年10月以降のドル急落を思い起こさせます。ドル円は市場介入があったとはいえ、151円94銭から127円台前半までわずか3カ月強で24円弱のドル安円高が進みました。ドルが売られる際のスピードの速さは相変わらずでした。
ドル円が140円台を割り込むかどうかは今後のデータ次第ですが、今週は早速12日(水)に6月の消費者物価指数(CPI)が発表されます。ここで、140円割れを試すのか、あるいは再び145円を目指すのか、方向性が見て取れる可能性がありそうです。市場予想は、総合CPIでは「前月比では」5月よりも上昇していると見られますが、「前年比」やコアCPIでは「前月比、前年比」ともに5月からは鈍化していると予想されています。市場予想通りだとすれば、インフレ率の伸びは鈍化するものの、依然としてFRBの目標値からは遠く、この結果を持って7月の利上げが見送られる材料にはなり得ないと思われます。引き続き市場は9月以降も追加利上げの可能性があるのかどうかを探る動きになろうかと思います。
7月のFOMC会合は25−26日に開催されることから来週からは「ブラックアウト」期間に入ります。そのせいか、今週はFOMCメンバーの発言機会が沢山あります。現時点でのメンバーの立ち位置は、アトランタ連銀のボスティック総裁が明らかに「ハト派」で、シカゴ連銀のグールズビー総裁はニュ―トラルと見られますが、その他パウエル議長を始め残りの多くのメンバーは追加利上げが必要との立場で「タカ派」です。これらのメンバーは「好調な雇用が賃金上昇をサポートし、それが消費者の購買意欲を支える」といった構図が継続されていると見ており、FRBにとってはある意味好ましくない状況が続いています。逆に言えば、好調な雇用が崩れた際にはインフレ率も大幅に鈍化する可能性があると見ています。FOMCに続く27−28日には日銀政策決定会合もあります。政策変更はないと予想されていましたが、ここにきて「サプライズ」の政策修正も、可能性は低いものの、「ノーマーク」という訳にはいかなくなったように思います。6月28日に行われたECB主催のフォーラムで、植田日銀総裁はこれまでの金融緩和継続の意思は見せながらも言い回しが微妙になってきたように思います。また先週の内田副総裁の発言も同様に微妙な言い回しだったと受け止めました。もともと、植田総裁は「金融政策の修正にはサプライズは避けられない」といった発言も行っていました。BNPパリバ証券は「7月にもYCCが修正されるのではないかとの観測が高まっており、今週の5年債、20年債入札に対して調整が要求されそうだ」と指摘しています。可能性は極めて低いものの、注意は必要です。個人的には、年内の修正もしくは変更はあると予想していますが、仮に7月会合でもないとすれば、年内の会合は残り3回になります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。