日米金融当局が金融政策の転換に踏み切れば、筆者も含め多くの市場関係者がドル円はある程度「ドル安円高」に振れると予想していました。それは円の金利が上昇しドルの金利が下がることで、足元のドル高の最大の要因である「日米金利差」が縮小すると見られるからです。しかし実際には円売り圧力は想定以上に強く、先週末の東京時間には151円86銭までドルは上昇し、2022年10月に記録したドルの直近最高値である151円96銭も視野に入ってきました。日銀は3月19日に開催された金融政策決定会合で17年ぶりに「マイナス金利解除」を決め、さらに長期金利の上限もコントロールする「イールドカーブコントロール」(YCC)の撤廃も決めました。ただ日銀の植田総裁はその後の会見で、「緩和的な金融環境は変わらない」と述べ、本来なら円金利が上昇するとの見方から今回の政策変更は「円買い材料」のはずでしたが、この会見を境に円が大きく売られました。
一方米国の方も、2月のインフレ指標である消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)が市場予想を相次いで上回り、2月までは年4回のFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げを見込んでいた市場も、徐々に利下げ開始のタイミングが後ずれするとの見方に傾き、現時点では3回が見込まれています。そんな中、アトランタ連銀のボスティック総裁は22日、「インフレの軌道について昨年12月時点よりも確信がない。主要な数字の陰には厄介なことがいくつかある。今年の利下げは1回に留まると現時点では予想している」と、利下げにはかなり慎重な発言を行いました。今後雇用統計など、米景気の状況を見極める必要がありますが、日銀が余程極端な利上げを行わない限り、日米金利差が大幅に縮小する可能性は低いと見られ、ドルの支援材料になろうかと思います。財務省の神田財務官はドル円が再び151円台後半まで上昇したことを受け、25日には「明らかに投機的」と指摘し、円買い介入については「常に準備はできている」と口先介入を行っています。今後は政府・日銀による市場介入に対する警戒感が急速に増しますが、実弾を伴う介入が実施されるまでは、ドルが底堅い動きを続けると予想しています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。