2度の市場介入と見られるドル売りと、4月の雇用統計の想定外の下振れによって5月3日には、151円86銭まで売られたドル円はその後ジリジリと値を戻しています。「半値戻し」にあたる水準が156円04銭近辺にあることから、156円手前では足踏みをしている状況ですが、それでも底堅い動きが続いています。
日本商工会議所の小林会頭は9日の記者会見で、円安が進んでいることに関して、「日本は堂々と通貨操作をやればいい。あらゆる手を使って、協調、覆面でも結果として産業が見やすい経済環境を作ってもらうことが国の役割だ」と述べ、「為替操作、介入、も含めて国の経済政策、通貨政策の基本」と語り、「日本の姿勢を示す、お金はいくら使ってもいい」などと、市場介入には前向きな認識を示しました。日商の会員の多くが中小企業であることを念頭に置いて述べた言葉だとは思いますが、実際問題としてはそう簡単な話ではないように思います。欧州各国では、「レートは市場が決めるもの」とのスタンスを従来から維持しており、米国でもイエレン財務長官も先月ロイター通信とのインタビューで、「市場が決定する為替レートを持つ大国にとって、介入はめったにない状況に限定されるべきだ」と、微妙な言い回しをしており、その上で、「介入がまれであることを願う。そのような介入がめったに起きず、過度な変動がある場合に限定され、事前に協議があることが期待される」と話しています。この発言からすれば、「市場介入はそうあるべきものではない」といったニュアンスが汲み取れます。仮にそれでも日本が強引に介入を行えば、米財務省から「為替操作国」に認定され、米議会で相当な批判を浴びる可能性もあります。また、場合によっては通商問題にも発展することも考えられます。いずれにしても、市場介入が簡単でないことは、財務省自身が十分認識していることと思われます。
それに関連して財務省は先週、国債や短期借り入れなどを含めた「国の借金」が1297兆1615億円だと発表しました。これで、8年連続で過去最大を更新したことになります。この金額は、仮に金利が1%上昇しただけで、利払い額だけでおよそ13兆円も増えることを意味します。日本はまだ欧米など比べ長期金利が低く、本日(5月13日)でも0.92%台です。日銀が利上げできない理由も、この辺りにあるのではないかと勘ぐる向きもあります。財政の悪化は当然国の各付けにも影響しており、今や日本の格付けは中国や韓国よりも低く、今後さらに格付けが下がる可能性もあります。これも円の弱さの一因になっていると考えられます。
今週は15日の「米4月の消費者物価指数(CPI)」が最大の注目材料になります。現在の予想は総合CPIが前年同月比で「3.4%」(3月は3.5%)、コアCPIが同「3.6%」(3月は3.8%)と見込まれています。ドル円が再び上昇して158円を目指すのか、あるいは152円方向に向かうかの試金石となることから非常に注目されます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。