4月29日に160円台に乗せ、160円22銭前後を付けた際、ついに市場介入と見られるドル売り円買いがあり、その後も157円70銭台で同じ様な動きと、さらに米雇用統計の下振れを受け、結局ドル円は151円86銭まで急速に値を下げました。この4日間で8円を超える値動きを見たことで、ひとまず上値も下値もほぼ達成した感もあります。そのためかここ数日は大な値動きもありません。言い換えれば、上記どちらの水準もさらに次の大きな材料がない限り抜けない印象です。足許の155−156円台は、介入のリスクはあまりなく、そうかと言って日米金利差が劇的に縮小するとも考えづらく、居心地の良い水準なのかもしれません。ただ、日本の長期金利の動きをよく見ると、ジリジリと上昇しています。
週明け2日月曜日の債券市場では、日本の新発10年債利回りが「0.97%」まで上昇し、昨年11月以来およそ半年ぶりの高い水準を記録しています。先週、日銀が国債買い入れの減額を行ったことで、早期の利上げ観測が台頭し、債券市場では「売りが優勢」になっていることが背景です。足許では介入後も円安の動きは止まらず、日銀も想定される以上に早く利上げに動くのではないかといった見方が強まっています。5月10日に「令和6年第5回経済財政諮問会議」が開催されました。本会議は、岸田首相が議長を務め、マクロ経済運営(金融政策、物価等に関する審議)が議題で、植田日銀総裁も議員として出席しています。
この会議の中で議員の1人である十倉雅和氏(住友化学会長)は、「これまでも申し上げているが、物価がモデレートである必要がある。円安による過度の物価上昇も懸念される中、政府・日本銀行におかれては、これまでの共同声明に基づき、2%程度の物価上昇の実現を図っていただきたい」と述べています。また同じく議員である、中空麻奈氏(BNPパリバ証券)は、「金融市場にいる立場から申し上げるが、米国の景況感はこれまで思っていたより強く、米国の金利低下が想定より遅れる可能性がある。日米金利差の縮小タイミングが遅れると、円安との闘いは少し長期化する可能性があるのではないか」との意見を述べています。さらに日商会頭の小林氏は、ブルームバーグ・テレビジョンとのインタビューで、さらに具体的な言葉を発し、市場介入を徹底すべきだとの持論を展開させていました。このように、足元の円安の要因の一つが低すぎる円金利の水準であることに触れており、日銀は徐々に外堀を埋められてきた印象があります。円の長期金利が上昇してきたことも、その動きを反映したものと思われます。また発行市場でも、将来円金利が上昇することを想定して、社債発行が増えています。金利の低い内に低金利の資金を確保しておこうという動きです。企業が市場からの資金調達を早め、金利上昇に備える姿勢が窺えます。週明け20日には、ソフトバンク・グループが、個人向けに過去最大規模に並ぶ5500億円もの社債発行を準備していると報じられています。期間も7年と、長めの発行のようです。
ただ、外堀が埋められても、簡単に大幅な利上げに踏み切る訳にはいきません。先週発表された1−3月期のGDPは前期比で年率「−2.0%」とマイナス成長でした。ブルームバーグは、「3期連続で成長が見られない状況になっており、物価高の影響で個人消費の低迷が続く中、既にスタグフレーション状態に入りつつあるとの見方も出ている」と伝えています。低成長どころか、マイナス成長が見られる状況での大幅利上げは論外です。円売り進めている投機筋も、この辺りの事情を見据えているものと思われます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。