為替、とりわけドル円を取り巻く環境に変化があったものの、ドル円の水準はほとんど変わっていません。先週31日、財務省は「為替介入実績」を発表しました。4月29日にドル円が160円台まで上昇した際、「ドル売り・円買い」介入に踏み切り、その後も5月2日に、今回の局面では2回目となる介入を行っていたことが判明しました。この動きについては、「今日のアナリトレポート」で何度か「介入以外には考えられない」と記述したこともあり、驚きはありませんでしたが、介入の規模については過去の円安局面では「過去最大」となる約9兆8000億円にも達しており、やや驚きでした。「過去最大」規模のドル売り円買いを行ったことで8円36銭ほど、水準を円高方向に押し下げましたが、それから1カ月が経過した本日の水準は157円台前半と、それほど変わってはいません。根本的な要因である「日米金利差」が劇的に縮小しない限り、円売りの流れを変えることが出来ないことが証明された形になりました。
もっとも、力で市場の流れを変えることが出来ないのは、当たり前と言えば当たり前です。2023年1年間の東京市場の出来高は、個人投資家が中心のFX取引だけでおよそ1京(けい)3000兆円ほどありました。(出所:金融先物業協会2023年12月発表データより)さらにデータはやや古くなりますが、国際決済銀行(BIS)が公表した「2022年外国為替及びデリバティブに関する中央銀行サーベイ」によると、この年の東京市場の取引高シェアーは「4.5%」で、LDN、NY、シンガポール、香港に次ぐ第5位でした。為替市場がいかにグローバルで大きな市場であるかが理解できます。このように、政府・日銀による市場介入は「大きな池に小石を投げ込むようなもので、小石が池に落ちた瞬間は波紋が広がりますが、やがて元の静けさに戻る」といった様子に似ています。重要なのは、金利差であり、実質金利であり、市場のセンチメントだと考えます。
11月米大統領選でバイデン氏との一騎打ちが予想されるトランプ前大統領がNY地裁で「有罪」の評決を受けました。「有罪」でも、大統領選には出ることが出来るようですが、さすがにこれまでの流れであった「トランプ優勢」というわけには行かないようです。事前調査ではトランプ氏再選の可能性が高いことで、「もしトラ」にどのように備えるのか、頭を痛めている投資家も多かったのでないかと思いますが、これで再び白紙に戻る可能性もあります。実際、「もしトラ」に備えてどのような準備をすべきかは、筆者も模索中ですがどちらが大統領になっても米国の財政赤字の縮小が望めないのは確かかと想われます。つまり、国債の大量発行が避けられず、債券は常に売り圧力にさらされる可能性が高いということになりそうです。裏を返せば米金利の上昇が続くということになり、ドル高はそう簡単には収まらないということにつながりそうです。今週は6日(木)にECBの政策金利発表があり、翌週にはFRBと日銀が続きます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。