今朝(7月8日)の「今日のアナリストレポート」では、ややドル高の流れも変わるのではないかといった、これまでとは異なり、ドル買いには慎重であるべきだという意味のコメントを書きました。もちろん現時点では少数意見であり、筆者自身もそれほど自信があるわけではないのですが、先週の一連の米経済指標の結果を踏まえて考えたものです。「5月のISM非製造業景況指数」や「同ADP雇用者数」、さらには先週末の「6月の雇用統計」で示されたように、5月、4月の非農業部門雇用者数(NFP)が揃って大幅に下方修正されたこと、また毎週発表される「新規失業保険申請件数」も増加傾向にあるなど、発表される米経済指標が、これまでより下振れする傾向がより多くなったことを踏まえてのコメントです。これは単に「印象」というより、「実体に近い」ものであると思います。
それを確認するため、ブルームバーグデータを使い、集計している「シティグループ・エコノミック・サプライズ指数」、(通称「びっくり指数」)をみてみると、やはり下振れする傾向が鮮明です。これは、米シティグループが算出・公表する、各種経済指標と事前予想との食い違い(乖離幅)を指数化したもので、ゼロ(予想通り)を挟んで、上下(プラス・マイナス)で示した指数をいいます。今日現在の数値は「−6.24」で、この指標が創設されて以来の低水準に沈んでいます。言い換えれば、事前予想に比べ、発表された数値が下振れしているものが多いことを示しています。因みに同指数が直近高値を付けたのは2023年7月の「+0.595」でした。もちろん為替は、経済指標だけで動いているわけではありません。金利差、市場のセンチメント、地政学的リスク、あるいは政治的要因など様々な要素が絡まって水準を決めています。中でも重要なのが金利差であることは言うまでもありませんが、金利差も、米経済指標が下振れすれば米金利は低下します。ただ今年だけでもすでに20円も「円安」が進んだ現在のドル円の水準は最早、金利差だけでは説明できないのかもしれません。そこには、毎月1兆円にも上る「NISA」による円売りや、いわゆる「デジタル赤字」など、実需面からのドル買いの影響も多いにありそうです。
テクニカル面では、ドル高傾向は依然として鮮明ですが、こちらも良く目を凝らして観れば、「4時間足」ではローソク足が雲の上限を割り込み、現在雲の中を下落中という状況が見て取れます。もちろん、雲抜けは完成させていないことから、このまま下げ止まり反発する可能性もありますが、足許の雲入りの深さは6月13日以来、およそ1カ月ぶりの水準であり、一応注意しておく必要があります。結局、このまま再びドル高が進行するかもしれませんが、ドル円を取り巻く環境に変化が出て来たことから、早めの注意喚起をしたということです。そして今週は半期に一度のパウエル議長による「議会証言」が予定されています。「FRBが利下げに踏み切るには、さらなる確信の持てるデータが望まれる」といった内容になるのではないかと市場は予想していますが、上述のように、下振れ指数が相次いでいることから利下げに対するより前向きな発言が出る可能性もあるかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。