ドル円は8月5日に141円68銭まで急落した後149円台まで、これまた急速に値を戻し、そして再び下落に転じたものの、今度は143円台で下げ止まり、先週末のNYでは146円台まで戻すといった、荒っぽい動きが続いています。現時点では、141円台が「大底」で、143円台が「二番底」という形態を見せてはいますが、ただ本当に「大底」、「二番底」を確認したのかどうかという点については確証がありません。市場には依然として、「今後円高が進み、140円を割込む」といった予想を維持している専門家が多くいるのも事実です。一方で金融市場全体が落ち着きを取り戻し、株価の上昇に伴い「リスクオン」から円がさらに売られると予想する向きも少数派ですが散見されます。筆者もどちらかと言えば「後者」に属する立場です。ドルの急落からほぼ1カ月が経ち、本当にドルがもう一段安を記録するのであれば、この1カ月以内にその局面があってもおかしくはなかったと思っています。値幅には、時間的な要素が非常に重要です。株式市場に「日柄」という概念があるように、為替にも時間軸のような「日柄」があると考えています。
この先相場が上に行くのか下に行くのかは、今週末の「8月の雇用統計」が全てだと思います。「今日のアナリストレポート」でも触れましたが、「16.5万人」と予想されている8月の非農業部門雇用者数(NFP)ですが、仮にこの数字が出た場合、市場がどのように反応するのかは未知数です。米労働統計局が、今年6月までの雇者数を「81万8000人」下方修正したこともあり、毎月発表される雇用者数よりも実態の労働市場はすでに鈍化していたわけで、その信ぴょう性に疑問符が付くということになりかねません。NFPは先ず「速報値」が発表されますが、その数字は翌月、翌々月まで修正されることが、ほぼ定例化されているのが現状です。従って、仮に市場予想を下回った場合には、「実際には、もっと減速している」といった見方が出て、「9月会合では50bの利下げ」が現実味を帯びて来る可能性もあります。最終的には「年内にどの程度の幅で利下げがあるのか」という点が重要だとは思いますが、50bpの利下げが確実視されるようだと、ドル円は143円割れを試す動きになりそうです。
また今回は「失業率」も注目されます。7月は「4.3%」と、ややサプライズでしたが8月については「4.2%」と予想されています。この数字が拡大するようだと、これもドル売りで反応しそうです。雇用市場の動向はFRBにとっては、インフレと並ぶ重要な「デュアル・マンデート」だからです。物価上昇はある程度FRBの目標である2%に近づいてきました。従って、もう一方の「労働市場の最大化」というマンデートが脅かされるような事態は、FRBとしても決して許容できないはずです。大幅な利下げを決断する大きな圧力になる可能性があります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。