良好な経済指標の発表が続き、幾人かのFOMCメンバーが利下げは急がないとのスタンスに傾く中、パウエル議長も先週の講演では、「経済は、利下げを急ぐ必要性についていかなるシグナルも発していない。労働市場の状況は概ね均衡し、インフレ期待もかなり安定する中で、インフレ率は時に起伏のある道をたどりながらも、2%の目標に向かって引き続き低下していくと予想している。また、経済データが許せば、利下げをゆっくり進めるのが賢明だろう」と発言し、「利下げは急がない」姿勢を見せたことで、ドル円は順調に上値を切り上げて来ました。先週末の東京時間には156円75銭辺りまでドルが買われ、7月3日の161円95銭から9月16日には139円57銭まで急落した下げ幅の「76.4%戻し」にあたる156円67銭を上抜けしました。
ただ、この上抜け幅はわずか8銭と小幅であったことと、その後ドル円がその日の内に153円台まで急落したことを考えれば、「上抜けしたというよりも、76.4%戻しのフィボナッチ・リトリースメントの節目に当たって、上昇を抑えられた」と考えることもでき、「8銭の上抜けは誤差の範囲」と捉えることも出来そうです。因みに、今回のドル円の153円台後半は「2時間足」の雲の下限に見事に止められ、反発しています。NYでのドル円の急落は特段これといって明確な理由もなく、これまでの「トランプトレード」の巻き戻しを受けた株式市場の大幅安から「リスク回避の円買い」が加速した結果だと思われます。米長期金利は小幅に上昇しており、またこの日発表された「小売売上高」と、「NY連銀製造業景況感指数」はいずれも市場予想を上回る良好な結果でした。本来なら良好な経済指標を受け、利下げ観測の後退から円が売られても可笑しくはなかった状況でした。
今後の動きですが、ドル高傾向は変わらないと予想します。実際にトランプ政権の政策が始動してみないと何とも言えない部分はありますが、注目の関税引き上げ、移民問題、さらには減税など、実際の政策を見極め、米長期金利にどのような影響を及ぼすのか、確認したいと思います。また、足元の動きは今夏に観られた「円全面安」の動きではなく、「ドル全面高」の展開になっています。1.05台前半まで売られたユーロドルがどこまで下げるのかも、ドル円に波及する可能性もあり注目です。チャートでは1.05台を割り込むと、1.03台まで下げる可能性があると考えられます。ドイツの景気浮揚がカギになりますが、トランプ政権の公約であるドイツ車への関税引き上げリスクや、国内の政治的混迷、さらには欧州の戦争拡大リスクもあり、折からのドル高の中、ユーロの上値は徐々に重くなっています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。