先週末に発表された「12月の雇用統計」は、依然として好調でした。これで、より傾向が判断できる直近3カ月平均でも「17.0万人」と、7−9月の「17.6万人」に比べれば鈍化してはいるものの、まずまずの数字と言っていいと思います。失業率の方も「4.1%」と、こちらも歴史的に見れば極めて低い状況で、米金融当局とすれば、労働市場を基準にする限り金融緩和の必要性はないと考えても不思議ではありません。今後は20日に就任する第二次トランプ政権の政策で、どの程度インフレが進むのかに注視することとなり、この点に関しては依然として「不確実性」が高い状況です。焦点は貿易戦争がどの程度進むのかということで、「全面戦争」になるのか、あるいは「部分戦争」で収まるのかという点になります。
トランプ次期大統領はすでに歯に衣着せぬ発言を繰り返しており、中国に60%、カナダとメキシコに25%、さらにはデンマーク統治領のグリーンランドを手に入れるため、同国にも高関税をかけることを示唆しています。これに対してカナダのトルドー首相は、「次期米政権との貿易戦争を望んではいないが、米国がカナダ製品に関税を課す場合には報復措置を講じざるを得ない」と、場合によっては米国からの輸入品に対して高関税を課す可能性に言及しています。12月の中国貿易統計が発表されましたが、中国の「貿易黒字額は過去最大」でした。これは、トランプ政権が始動し、高関税が課せられる前の「かけこみ輸出」の影響と見られており、各国はトランプ次期政権の「アメリカファースト」を意識して、すでに動いていることがうかがえます。
ドル円は、常識的に考えれば今後も「ドル高の可能性が高い」ことに異論はないと思われますが、先週以来一貫して米長期金利が上昇していますが、その割には158円台半ばから上値が壁になりつつあります。
介入警戒感と金利高が進む一方、その影響で株価の軟調が続き、リスク回避の円買いが作用しているのかもしれません。
日銀の永見野副総裁が14日、横浜市で講演を行いました。副総裁は、「政策運営にあたってはタイミングの判断が難しく、重要だ」と述べ、「23、24日の会合では、経済・物価の見通しを基に、利上げを行うかどうかを議論し、判断したい」と話すにとどまりました。利上げのタイミングについての言及がなかったことで、157円台半ばで推移していたドル円は一時158円台に乗せる場面もありました。副総裁はまた、海外での注目点の一つは米新政権の政策とそれが米経済・世界経済・日本経済に与える影響だと指摘した上で、「来週の就任演説で政策の大きな方向は示されるのではないか」とも話していました。トランプ氏の大統領就任式は来週の20日。幸いなことに日銀の決定会合は23―24日と、トランプ氏の就任演説後に開催されます。就任演説でトランプ政策の大まかな方向性が確認できるとすれば、決定会合ではその内容を分析した上で、利上げをすべきかどうかを決める、「時間的余裕」があります。このように考えると、現時点でも追加利上げの可能性は排除できないと考えます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。