トランプ大統領がカナダ、メキシコ、そして中国への追加関税引き上げに署名したことで、各メディアは一斉に「貿易戦争は避けられない」といった論調で、記事を配信しています。高関税の賦課はいずれ日本にも向けられ可能性があるということで、週明け月曜日の日経平均株価は1100円を超える大幅な下げを見せる場面もあり、ほぼ全面安の展開です。中でもトヨタ自動車など、自動車メーカーの株価が大きく売られていますが、これは同社をはじめ多くの日本車メーカーがメキシコに生産拠点を持ち、そこで生産した完成車を米国へ輸出していることが材料視されています。引き上げられた関税は、4日午前0時1分(日本時間同日午後2時1分)に発効することになっており、米国内での日本車販売にもブレーキがかかるとの懸念から自動車株が売られています。トヨタ自動車は25%の関税が適用された場合、7600億円のマイナス要因になるとの試算もあるようです。
そもそもトランプ氏の基本的な考え方は上記国々との貿易取引で発生する「膨大な貿易赤字」が許せないのでしょう。そのため、上記3カ国からの輸入品に対して関税を大幅に引き上げれば、販売価格が上昇し、それによって販売量が落ち込み、貿易赤字の解消が進むはずといった単純な論理で進められているとみられます。しかし、翻って考えれば、米国民は国内に、安くて品質の良い品物があるから買っているのであって、それがたまたま米国以外で作られた物だったということです。彼らにとって生産国はどこでもかまわないわけで、これは、われわれが100円ショップのダイソーで物を買うのと同じことです。ダイソーの品物は殆んどが海外で生産され、日本に輸入された物のはずです。同じ物を日本国内で作ったとしてもあの値段では販売できないはずです。それは、人件費が大きく異なることが主因です。ましてや、米国ではさらに人件費が高く、先週末の報道ではホールセールで有名な「コストコ」では、米国の大半の時間給従業員の時給を30ドル(約4600円)に引き上げるとの報道もありました。結局、米国内では同じ品質の商品を同じ値段では作れないということになります。
関税の引き上げで米国内のインフレが高まるだけではなく、国内消費の減速にもつながるリスクもあります。米調査機関タックス・ファンデーションが試算した結果を公表していますが、このシナリオでは、輸入業者などが支払う増税分は今後10年間で1.2兆ドル(約186兆円)にも達し、GDPは0.4%減少するそうです。また、輸入価格の上昇は米国民に価格転嫁される公算が大きく、2025年には一世帯あたり830ドル(約12万9000円)以上の実質増税になります。このように、輸入関税の引き上げは回り回って米国民にも負担を強いることになります。この金額は米国の富裕層には、痛くも痒くもないでしょうが、これによってさらなる貧富の差は拡大しそうです。「関税程美しい言葉はない」と豪語したトランプ氏の暴走。誰がこれを止めるのでしょうか。先ずは、世界の反応を確かめたいと思います。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。