先週16日、格付け会社「ムーディーズ・レーティングス」は米国債の格付けを最上級の「トリプルA相当」から「ダブルAクラス」へと、1段階引き下げました。これで、S&P、フィッチと並んで世界三大格付け会社全てが、米国債を最上位から2番目に引き下げました。現在、世界には「トリプルA」の格付けを持つ国は、ドイツを筆頭にカナダ、オーストラリア、デンマークなど数えるほどになってきました。ただ、それでも米国債は世界で最も安全で、流動性の高い債券であることに変わりはありません。日本をはじめ、世界の多くの機関投資家が「安全資産」として米国債を保有しています。中でも日本は、保有額が1兆ドル(約145兆円)を超え、世界で最も米国債券を保有しています。かつては中国が世界1の米国債保有国であった時期もありましたが、米中関係の悪化に伴い、米国債を売り、その資金を金に振り向けていることが分かっています。
ただ、格下げとなった米国債が今後売られる可能性はあります。米国債が売られると金利が上昇するため、「米金利上昇=ドル高」といった傾向がありますが、米国の債券が売られるということは、「米国売り」と捉えることも出来、併せて株式とドルが売られる「トリプル安」になる可能性も否定できません。そうなると金利が上昇したからと言って単純にドルを買えばいいという話でもありません。一方で、では米国債に代わる資金の受け皿があるのかと言えば、探すのは簡単ではありません。金が買われる可能性は高いと思われますが、それでも市場の規模からいったら米国債とは比較になりません。そうなると、結局投資先としての米国債はそれほど大きく崩れるとも思えません。ムーディーズの引き下げを受けて東京市場ではドル円が145円を割り込み、一時144円80銭辺りまで売られる場面もありましが、執筆時には145円台前半まで戻っています。今夜のNYでもその影響が限定的であれば、市場の関心は直ぐに遠のいて行くものと思われます。
4月22日に、「トランプ減税」に端を発した混乱から、一時は140円を割り込み、139円88銭まで下落したドル円はその後、米中の関税交渉の合意もあり、先週12日には148円台半ばまで値を戻しました。本欄でも何度か触れていますが、この戻りは、基本的は「ショート筋の買い戻し」が主因で、決してドルを積極的に買ったものではない、と考えていました。従って、目先短期的なドル買いは強まったものの、トレンドが変わるほどのものではないと自分自身では分析していました。ところが、先週末発表されたシカゴ先物市場の円のポジションには、正直驚きました。5月12日時点での円の買い持ち(ドルショート)枚数は「17万2000枚」で、ピークだった4月29日の「17万9000枚」からほとんど減っていないことが判明しました。つまり、この間の約9円近い反発は、ヘッジファンドなど投機筋によるショートカバーではなかったことになります。では、一体だれがドルを買い上げたのか、疑問は残りますが、9円近い戻しを実現させるには相当な額のドル買いが発生する必要があります。同時に、投機筋はまだこの先「ドル安」を想定していることになります。また、彼らが本格的にポジションを閉じた場合、150円は優に超えることにもつながります。ムーディーズの米国債格下げは、彼らにとって「追い風」になるのでしょうか。今週は「G7」と、赤沢大臣とベッセント財務長官との協議も控えており、相場が梅雨入りするのはまだ早そうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。