トランプ大統領は先週4日、日本との貿易合意を実施する大統領令に署名しました。これによって合意の履行が懸念されていた日本からの輸入自動車に対する関税は、7日以内に現在の「27.5%」から「15%」に引き下げられることになります。元日本銀行調査統計局長の関根敏隆一橋大学教授は、ブルームバーグとのインタビューで、日銀が米関税政策の影響を見極めるのには時間がかかるとし、市場が有力な時期の一つとみている10月の追加利上げは難しいとの見解を示しました。仮に今月18−19日の決定会合では利上げが見送られるとしても、10月会合で利上げを予想する向きは決して少なくはない状況での「10月は難しい」といった見方です。関根氏は、仮に現職の調査統計局長として米関税の影響を10月までに見極めてくれと言われれば「ノーと言わざるを得ない」と述べています。関根氏はその理由として、関税政策の影響の見極めに相応の時間がかかるとして、トランプ政権では合意事項ですら先行きどうなるか分からないと説明。その意味で市場は楽観的とし、「そう簡単に霧は晴れないことをマーケットも理解してほしい」と述べていました。ブルームバーグが8月に実施したエコノミスト調査では、最多の4割超が次の日銀の利上げ時期を10月と見込み、年内の利上げ予想は53%でした。関根氏は、トランプ政権の関税政策に伴う不確実性は、市場が想定している以上に大きいことを強調し、為替や政治などの動向も踏まえた市場の織り込みを「間違っているというつもりもない」とも語っていました。個人的には、日銀が利上げを決定しやすい環境が以前より好転していることを踏まえ、10月会合での利上げの可能性は排除できないと考えています。
本日8日(月)発表された日本の4−6月期GDPの改定値は、速報値の「1.0%」から「2.2%」に上方修正されました。設備投資が速報値から引き下げられましたが、個人消費が上方修正され、日本経済の回復基調が続いていることが示されました。今後、経済・物価が見通し通りに推移すれば、日銀の利上げを後押しする内容だったと言えます。
昨日、石破首相が突然辞任することを発表したことを受け、ドル円は大きく窓を開けて取引を開始しました。ドル円は寄り付き後の9時過ぎには148円台半ばまで買われ、先週末の雇用統計発表前の水準を上回りましたが、その後はやや軟調な展開となっています。驚いたのは東京株式市場の動きです。「石破辞任は買い」とばかり、前場では日経平均が一時800円を超える上昇を見せ、東証株価指数(TOPIX)は最高値を更新しました。株式市場では「高市トレード」が活発となり、株価を大きく押し上げています。高市氏は昨年の自民党総裁選の折、候補者として政策金利に触れ、「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言し、日銀をけん制した経緯があります。市場は、同氏が総裁になれば「日銀の利上げが遠のく」と読んで、株を買っているようです。ただ、これも裏腹で、総裁選を巡り政治的混迷が増すようだと、株価はいつ下落しても不思議ではありません。
今週は、「ブラックアウト期間」に入ったため、FOMCメンバーの発言はありませんが、11日(木)に発表される「8月の消費者物価指数」が極めて重要になります。労働市場の伸びの鈍化が鮮明になったことで、市場は「利下げバイアス」に傾いています。インフレが再び市場の懸念材料になるようなら、利下げ観測の修正にもつながります。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。