今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「好調な雇用統計にもドル円上昇できず」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は雇用統計発表前の151円10銭近辺から上昇。151円75銭まで買われたが引き続き介入警戒感が壁となり押し戻される。
  • ユーロドルも1.08台半ばから売られ、1.07台後半まで下落。
  • 株式市場は3指数が揃って上昇。雇用統計の上振れに安心感が広がり大型株が買い戻される。
  • 債券は反発。長期金利は4.4%台まで上昇。
  • 金は大幅に続伸し2345ドル台に。原油も6営業日続伸。
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3月失業率 → 3.8%
3月非農業部門雇用者数 → 30.3万人
3月平均時給 (前月比) → 0.3%
3月平均時給 (前年比) → 4.1%
3月労働参加率 → 62.7%
2月消費者信用残高 → 14.125b
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ドル/円 151.28 〜 151.75
ユーロ/ドル 1.0792 〜 1.0851
ユーロ/円 163.70 〜 164.43
NYダウ +307.06 → 38,904.04ドル
GOLD +36.90 → 2,345.40ドル
WTI +0.32 → 86.91ドル
米10年国債 +0.092 → 4.402%

本日の注目イベント

  • 日 2月国際収支・経常収支
  • 日 3月景気ウオッチャー調査
  • 独 独2月貿易収支
  • 独 独2月鉱工業生産
  • 米 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、タウンホール会議に参加
  • 米 グールズビー・シカゴ連銀総裁、ラジオ局の番組に出演

本日のコメント

予想を大きく上回る雇用統計の結果に、FRBによる利下げ開始のタイミングが遅れるとの観測からドルが買われ、株も買われ、債券が売られるなど、「定石通り」の動きを見せましたが、それでもドル円は151円台後半に入ると「介入警戒感」が高まり、152円をテストするには至っていません。市場では好調な労働市場や消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)の上振れなど、インフレ再燃懸念から利下げ見直しの議論も出て来る状況ですが、ドル円は上値を抑えられる展開が続いています。やや理解できないのは、金価格の動きです。ドルが買われ、金利も上昇しているにもかかわらず、先週末の金価格は前日比37ドル近く買われ、連日で最高値を更新しています。今月だけでも100ドルを超える上昇を見せている金価格は、中国人が買っているというだけでは説明がつかないと専門家は話しています。

3月の非農業部門雇用者数(NFP)は「30.3万人」と、市場予想の「21.4万人」を大きく上回り、さらに2月分は「5000人程」下方修正されましたが、1月分は「22.9万人」から、「25.6万人」に上方修正され、先のADP雇用者数の結果を含め、労働市場の好調さを示しています。失業率は「3.8%」と、市場予想と一致していました。この結果を受け金利スワップ市場では、利下げの完全な織り込みが9月に後ずれしています。

これらを受け、ボウマンFRB理事は講演で、「インフレ率が当局の2%に向かって持続的に低下していることが今後のデータで引き続き示唆されれば、金融政策が過度に抑制的にならないよう政策金利を徐々に引き下げるのがいずれ適切になるだろう」と述べながらも、「しかし、政策金利を引き下げるのに適切な地点にはまだ至っていない。複数のインフレ上振れリスクが引き続き見られる」と指摘しています。この日の雇用統計と、CPI、PPIの上振れを念頭に置いた発言と見られます。また、ダラス連銀のローガン総裁はさらに利下げには慎重な意見で、インフレ率の上昇や、借り入れコストが以前考えられていたほど景気を抑制していない事実を理由に挙げ、「こうしたリスクを踏まえると、利下げについて考えるのはあまりに早過ぎる」と発言しています。これまでの多くのFOMCメンバーの発言を総合すると、6月は当然ですが、7月会合でも利下げがない可能性が高そうです。もっとも、それまでにはなお複数回のインフレ指標が確認でき、その結果次第では一気にセンチメントが変わる可能性もあります。

イスラエルのネタニヤフ政権に強い逆風が吹き始めています。イスラエルとパレスチナ自治区イスラム組織ハマスとの闘いは、昨日7日で6カ月にもなります。6日にはイスラエル全土で総選挙の実施や人質の迅速な解放を求めた大規模なデモが開かれ、テルアビブでは4万5000人が参加したと伝えられています。デモでは政府への抗議の看板を掲げ、ネタニヤフ政権への批判の声が高まっていました。世論調査でもガンツ前国防相がネタニヤフ氏を上回り、ガンツ氏は早期の総選挙の実施を求めています。ネタニヤフ氏の独善的で強硬な姿勢に対し、これまで「生ぬるい」批判を繰り返していた米国が態度を硬化させたこともネタニヤフ政権にとって誤算です。バイデン大統領は4日、ネタニヤフ氏に「強硬路線を改めなければイスラエルへの支援を見直す」と警告していました。ただ、ネタニヤフ氏は7日、ハマスとの戦闘における「勝利まではあと一歩だ」と述べ、「ガザで拘束されている人質の帰還なしに停戦することはない」と発言しています。

ドル買い材料を連日目にしてはいますが、「152円の壁」は思ったより厚いようです。ドル円は少なくとも「152円突破は無理」といった「明確な材料」が出て来るまでは、上昇したがっているように思えます。その明確な材料とは、やはり「米国の利下げが1回、もしくは来年に後ずれ」といったものと思えます。

本日のドル円は151円〜152円30銭程度を予想します。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
4/5 ローガン・ダラス連銀総裁 (インフレ率の上昇や、借り入れコストが以前考えられていたほど景気を抑制していない事実を理由に挙げ)、「こうしたリスクを踏まえると、利下げについて考えるのはあまりに早過ぎる」 --------
4/5 ボウマン・FRB理事 「インフレ率が当局の2%に向かって持続的に低下していることが今後のデータで引き続き示唆されれば、金融政策が過度に抑制的にならないよう政策金利を徐々に引き下げるのがいずれ適切になるだろう」、「しかし、政策金利を引き下げるのに適切な地点にはまだ至っていない。複数のインフレ上振れリスクが引き続き見られる」 --------
4/4 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「一段の明瞭さを得るべく利下げまでに時間をかけるのが賢明だ」 --------
4/4 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「年初に予想を上回るインフレ指標が示されたものの、物価の伸びが鈍化しているという全体像が変わることはないだろう」 --------
4/4 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁 「現在の状況はあるべき姿ではない。インフレはなお高すぎる」 --------
4/4 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「インフレの横ばい推移が続くようであれば、利下げを実施する必要があるのかどうか疑問が生じる」、「特に、経済が堅調を維持する場合はなおさらだ」 NYダウ530ドル下落。ドル円はリスク回避から151円70銭台から151円13銭まで売られる。
4/3 クーグラー・FRB理事 「堅調な供給を背景に需要の伸びが鈍化しているため、失業率がかなり上昇することなく、さらなるディスインフレが実現するというのが私の基本的な予想だ」、「ディスインフレと労働市場の現状が私の予想通り進めば、今年中に政策金利をいくらか引き下げるのが適切だろう」 --------
4/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「今年末、つまり第4四半期の利下げを開始するのが適切になると思う」、「インフレの軌道が鈍化すれば、多くの人が予想している以上に辛抱強くなる必要があるだろう」 --------
4/3 パウエル・FRB議長 最近のインフレデータは予想を上回ったものの、全体像を有意に変えるものではなかった」、「年内どこかの時点で利下げを開始するのが適切になる可能性が高い」、「経済の強さと、インフレ面でのこれまでの進展を踏まえれば、今後発表されるデータに政策判断を導いてもらう時間はある」 --------
4/2 デーリー・SF連銀総裁 「成長は好調なので、金利を調整する緊急性はない。これは非常に合理的な基本シナリオだと思う」 --------
4/2 メスター・クリーブランド連銀総裁 「利下げを開始する前にインフレが鈍化しているというさらなる証拠を目にしたい。今年は3回の利下げが適切になる可能性が高いが、それより少ない回数が必要になるのかどうかは五分五分だ」 --------
3/29 パウエル・FRB議長 「米経済が非常に堅調なペースで成長し、労働市場も極めて強いという事実は、われわれが利下げという重要な一歩を踏み出す前にインフレ率の低下についてもう少し確信を強める機会を与えてくれる」、「早過ぎる利下げがインフレの再燃を招く一方、遅すぎる対応は、不必要ダメージを経済に与えることになり、慎重な対応が必要だ」、「利上げを急ぐ必要はない」 --------
3/27 ウォラー・FRB理事 利下げに踏み切る前に、少なくとも数カ月分の良い内容のインフレデータを目にしたい」、「最近の経済データでは年内に予想される利下げを遅らせるか、利下げ回数を減らすことが裏付けられる。金利引き下げを急ぐことはないと」 --------
3/27 神田・財務省財務官 「最近の円安の進展はファンダメンタルズに沿ったものとは到底言えず、背景に投機的な動きがあることは明らかだ。行き過ぎた動きに対してはあらゆる手段を排除せずに適切な対応を取る」、「最近の円安傾向はなだらかなものとは到底言えない」 介入警戒感が強まり、151円97銭まで買われたドル円は、その後151円03銭前後まで下落。
3/25 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「これに関して私の予想は中央値だった」(3回の利下げを見込んでいた) --------
3/25 クック・FRB理事 「雇用とインフレの2大責務はより良いバランスになりつつある」、「しかしながら物価の安定を完全に回復するためには、時間をかけて金融政策を緩和する慎重なアプローチが必要になるだろう」 --------
3/25 ボスティック・アトランタ連銀総裁 (年内の利下げは1回にとどまるとの見方を改めて示し)、「自身の見通しに沿って経済が推移すれば、忍耐強くいられると思う」 --------
3/22 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「インフレの軌道について昨年12月時点よりも確信がない。主要な数字の陰には厄介なことがいくつかある」、「今年の利下げは1回に留まると現時点では予想している」 --------
3/20 パウエル・FRB議長 「インフレ率が目標の2%に向う全体的なストーリーは変わっていない。たとえ労働市場が堅調であっても、利下げ開始を止められないだろう」 ドル円は151円台半ばから150円74銭まで下落。株価は大幅高。債券も小幅に買われる。
3/20 FOMC議事録 「最近の複数の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆している。雇用の伸びは強さを維持しており、失業率は低いままだ。インフレはこの1年で緩和したが、依然として高い水準にある」、「委員会は目標実現を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標レンジを5.25−5.5%に据え置くことを決めた。FF金利誘導目標レンジに対するいかなる調整も、委員会はそれを検討する上で、今後入手するデータや変化する見通し、リスクのバランスを慎重に見極める。委員会はインフレ率が持続的に2%に向っているとの確信を強めるまで、誘導目標レンジの引き下げが適切になるとは見ていない」 --------
3/18 ウォーレン・サンダース議員などからの書簡 「利下げに向けた明確かつ迅速なタイムテーブルを提示するよう」、(利下げは)「理想的には5月のFOMCから開始するのが望ましい」 --------
3/9 バイデン大統領 「保証はできないが、金利はもっと下がるのは間違いない」、「金利を決定する小さな組織が今後引き下げに動くと確信するからだ」 --------
3/7 パウエル・FRB議長(議会証言) 「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が強まるのを待っている」、「その確信を得た時点で、今から遠くないその時点で、景気抑制の度合いを巻き戻し始めるのが適切になるだろう」 株と債券が買われ、ドル円は147円52銭まで下落。
3/7 中川・日銀審議委員 「2%の物価安定目標の実現に向けて、着実に歩みを進めている」 ドル円は148円台後半から148円台半ばまで売られる。プラス圏で推移していた日経平均株価も大きく下落。
3/6 パウエル・FRB議長(議会証言) 「インフレとの闘いで勝利したとの確信を得るまでは性急に利下げに動く考えはない」、「年内いずれかの時点で、利下げを開始するのが適切になる可能性が高い」、「当局としてはまだその用意はない」 株と債券が買われ、ドル円は149円10銭まで下落。
3/4 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「7−9月に1回利下げを始めるのが適切だ」、「利下げが連続したものになることは恐らくないだろう」、「不確実性を考えると、行動を起こした後に市場参加者や企業幹部、および家計がそえにどう反応するかを見ることがある程度望ましいのではないかと思う」 株と債券が売られドルが買われる。
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和