今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「利下げ観測の台頭、ドルの上値を抑制」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は小幅に続落。FRB議長の早期退任や、GDP確定値の下振れなどで早期利下げ観測が再び台頭。ドル円は欧州時間に143円75銭辺りまで下げたがNYでは終始144円台で推移。
  • ユーロドルは続伸し、欧州時間で1.1745と、2021年9月以来となる高値を示現。NYでは1.1740まで買われる。
  • 株式市場では3指数が揃って大幅に上昇。利下げ観測の高まりに、S&P500は一時最高値を更新するも、引け値では維持できず。
  • 債券は続伸。長期金利は4.24%台へと低下。
  • 金と原油は小幅ながら続伸。
********************
新規失業保険申請件数 → 23.6万件
1−3月GDP(確定値) → −0.5%
5月耐久財受注 → 16.4%
5月中古住宅販売成約件数 → 1.8%
********************
ドル/円 144.07 〜 144.53
ユーロ/ドル 1.1690 〜 1.1740
ユーロ/円 168.64 〜 169.21
NYダウ +404.41 → 43,386.84
GOLD +4.90 → 3,348.84ドル
WTI +0.32 → 65.24
米10年国債 −0.049 → 4.240%

本日の注目イベント

  • 日 5月失業率
  • 日 6月東京都区部消費者物価指数
  • 欧 ユーロ圏6月消費者信頼感(確定値)
  • 米 5月個人所得
  • 米 5月個人支出
  • 米 5月PCEデフレータ(前月比)
  • 米 5月PCEデフレータ(前年比)
  • 米 5月PCEコアデフレータ(前月比)
  • 米 5月PCEコアデフレータ(前年比)
  • 米 6月ミシガン大学消費者マインド(確定値)
  • 米 ウィリアムズ・NY連銀総裁、BISで議長を務める
  • 米 クリーブランド連銀総裁とクックFRB理事がイベントに参加

本日のコメント

赤沢経済再生相は26日、7回目の日米閣僚協議に臨むため羽田から飛び立ちました。出発前の会見で赤沢氏は、7月9日に上乗せ関税の停止期限を迎えることから、「それも念頭に置きながら交渉していく」と話し、「日本企業は投資や雇用創出を通じて米経済に貢献している。いずれにしても、自動車関税25%はわれわれの受け入れられるものではない」と述べ、米国側に見直しを求めていく姿勢を強調していました。赤沢氏のこれまでの6回の訪米では、土曜日に羽田を発ち日曜日には帰国するというハードなスケジュールでしたが、今回は2日も余裕を持っての訪米でした。周到な準備を行い、気合を入れているということなのでしょうか?

ホワイトハウスのレビット報道官は、「上乗せ関税の一時停止措置が終了する7月9日の期限は重要ではない」と述べ、各国が合意案を提示しない場合、トランプ大統領が自ら税率を設定できるからだと説明しています。期限延長を巡る記者からの質問には、「延長の可能性はあるかもしれないが、それは大統領が判断することだ」として、具体的にどうなるのかには触れていません。これまでの6回の協議と、カナダで行われた「G7会合」に合わせた日米首脳会談、さらには石破首相が語った、トランプ大統領との会談を経ての言葉などから判断すると、協議はほとんど進展しておらず、日米には依然として深い溝があると予想します。上記レビット報道官の発言も、それを見越したものと理解することができそうです。

パウエル議長の議会証言と、その後のFOMCメンバーの発言を総合すれば、多くの政策メンバーは「利下げを急がない」方向で一致していると見られますが、昨日のNYでは、GDP確定値が下方修正されたこともあり、再び利下げ観測が強まった一日でした。サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は26日、ブルームバーグとのインタビューで「私の中心的な見方としては、秋ごろから金利の調整が開始できるというものであり、その考えは特に変わっていない」と語っています。また、「労働市場には減速の兆しはあるものの、悪化を示す警告サインは見られない」と指摘していました。NY株式市場では再び株価が最高値に迫る勢いで、これは利下げをある程度織り込む動きと捉えることも出来ます。ただ上記デーリー総裁の発言も、直近7月会合での利下げの可能性に触れたものではなく、「秋ごろには」と語っています。筆者も年内は1回の利下げがあると予想しているので、違和感はありません。ポイントとなるのは、年内利下げ回数が1回なのか、2回になるのかという点です。

一方で、「利下げを急がない」との発言もありました。リッチモンド連銀のバーキン総裁は「どの方向にせよ、性急に進むことには得るものがほとんどない。現在の経済の強さを踏まえれば、われわれには情勢の展開を辛抱強く見守り、見通しが明確になるまで待つ時間がある」と語っていました。またシカゴ連銀のグールズビー総裁は「インフレが当局の目指す2%へと明らかに減速し、経済見通しを巡る不確実性が後退すれば利下げ再開もあり得る。良好なデータが得られており、関税の影響も限定的にとどまるかもしれないと楽観しているが、確証を待ちたい」と話しており、ボストン連銀のコリンズ総裁も「7月会合までに得られるデータは、あと1ヵ月分に過ぎない。それ以上のデータを確認したいと考えるだろう」と述べています。このように、これまでの発言を総合すれば、ボウマン副議長が7月利下げを支持し、ウォラー理事とサンフランシスコ連銀総裁が利下げにはオープンで、それ以外のメンバーは「利下げを急ぐ必要はない」あるいは、「もう少しデータを見るべきだ」との考えに立っていると言えます。

やはりと言うか、いよいよと言うべきか、トランプ大統領は任期満了を待たずして、次期FRB議長の指名を行う可能性があると、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じています。同紙は「9月ないし10月までかそれよりも早い、今夏に前倒しになる可能性がある」とし、「候補者としては、ウォーシュ元FRB理事、ハセット国家経済会議委員長、マルパス元世銀総裁、ウォラーFRB理事、そしてベッセント財務長官」の名前を挙げていました。この記事が流れるとドルが売られる場面もありました。筆者も以前に述べましたが、仮にトランプ氏が正式に任期満了前に次期候補者を指名すれば、それはFRBの信頼を失墜することとなり、さらに独立性も棄損されると市場は判断し、ドル売り、株・債券売りにつながる恐れがあります。政権による金融政策への介入です。パウエル議長に対して公然と「彼はきらいだ」と述べたトランプ氏のこと、その可能性は十分あると思います。

本日のドル円は143円80銭〜145円80銭程度を予想します。

佐藤正和の書籍紹介

これだけ! FXチャート分析 三種の神器

これだけ! FXチャート分析 三種の神器
著者:佐藤正和
出版社:クロスメディア・パブリッシング

チャートがしっかり読めるようになるFX入門

チャートがしっかり読めるようになるFX入門
著者:佐藤正和
出版社:翔泳社

What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
6/26 コリンズ・ボストン連銀総裁 7月会合までに得られるデータは、あと1ヵ月分に過ぎない。それ以上のデータを確認したいと考えるだろう」 --------
6/26 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「インフレが当局の目指す2%へと明らかに減速し、経済見通しを巡る不確実性が後退すれば利下げ再開もあり得る。良好なデータが得られており、関税の影響も限定的にとどまるかもしれないと楽観しているが、確証を待ちたい」 --------
6/26 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「どの方向にせよ、性急に進むことには得るものがほとんどない。現在の経済の強さを踏まえれば、われわれには情勢の展開を辛抱強く見守り、見通しが明確になるまで待つ時間がある」 --------
6/26 デーリー・SF連銀総裁 「私の中心的な見方としては、秋ごろから金利の調整が開始できるというものであり、その考えは特に変わっていない」、「労働市場には減速の兆しはあるものの、悪化を示す警告サインは見られない」 --------
6/25 パウエル・FRB議長 「関税が消費者物価に及ぼす影響を金融当局としてまだ見極めきれていない。関税のうちのどの程度がインフレとして表面化するのか、前もって予測するのは非常に困難だ」 --------
6/24 ハマック・クリーブランド連銀総裁 「現行の金利はわずかに景気抑制的な水準だが、当局の目標達成までにはまだ一定の距離がある」、「政策金利はFOMCがごく緩やかな利下げで中立的な水準に戻す前に、かなりの期間据え置かれる可能性が高い」 --------
6/24 バー・FRB理事 「経済は現在、堅調な足どりを見せている。失業率は低水準で、インフレはFRBの目標の2%に向けて低下してきている」、「ただ今後を見据えると、関税の影響でインフレは加速すると予想する。短期のインフレ期待の高まり、サプライチェーンの調整、そして二次的影響により、インフレはやや長引く可能性がある」 --------
6/24 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「関税やその他の政策論争がどのように進展するか見守るための、余裕と時間はある」 --------
6/24 ウイリアムズ・NY連銀総裁 「政策変更が労働市場とインフレに及ぼす影響を当局者が分析する間、金利を据え置くことは完全に適切だ」 --------
6/24 パウエル・FRB議長 「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、経済の進路についてより多くの情報が得られるのを待つ体制が整っている」、(7月の利下げの可能性について問われ)、「インフレ圧力が本当に抑制されたままだということになれば、早めに利下げに踏み切ることになるだろう」、「特定の会合を指すことは避けたい。経済は依然として強く、急ぐ必要はないと考えている」 --------
6/23 ボウマン・FRB理事 「インフレ圧力が抑制されたままであれば、政策金利を中立水準に近づけ、健全な労働市場を維持するために、次回の会合で利下げを支持する」、(「トランプ関税」について)、「関税などの政策によって重大な影響が出ているという明確な兆候はデータには表れていない。多くの企業が事前に積み増していたため、関税によるインフレへの影響は当初の予想より表れるまでに時間がかかり、影響の度合いも当初予想より小さくなる可能性が高いと考えられる」 中東情勢の好転もあり、ドル円は148円前後から146円台前半まで下げる。
6/18 パウエル・FRB議長 「政策スタンスの調整を検討する前に、経済の見通しについてより多くの情報を持てる状況にある」、(経済の不確実性が高いことを踏まえ)、「誰もこうした金利の道筋に強い確信を持っていない。景気見通しに関する不確実性は低下したが、依然として高い」 ドル円は144円台半ばから145円台に。
6/18 FOMCの議事録 「最近の複数の指標は経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆する。失業率は低いままで、労働市場の状況は堅調を維持している。インフレは幾分高止まりしている」 --------
6/11 ベッセント・財務長官 「誠意を持って交渉している貿易相手国に対しては、発動時期をさらに延長する可能性が極めて高い、そうでない国に対しては延期をしない」・・議会証言で。 --------
6/6 トランプ・米大統領 「FRBの『手遅れ』は最悪だ」(『Too late 』at the Fed is a disaster )とSNSに投稿。「欧州は利下げを10回実施したが、われわれは一度も行っていない。彼にもかかわらず、我が国は好調だ。1ポイント利下げを実施せよ、ロケット燃料になる」 --------
6/5 ラガルド・ECB総裁 「私たちは、新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機など、複合的なショックに対応してきた金融政策サイクルの終盤に差し掛かっていると考える」、「現在、異なるプレイヤー、異なるパートナー、異なる政策を有する異なる時代に入っている。私たちは分析、評価、測定を継続し、2%の中銀目標を達成するため努力する」、(自身の任期満了前の辞任については)、「自らの使命を果たすこと、そして任期を全うすることを完全に決意している。私がECBを去る日はまだ来ない」 ユーロドルは1.13台後半から1.1495まで買われる。
6/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 (このところ良好な物価データを目にしているものの)、「目にすべき進展という意味において、道のりはまだ長い。インフレに対する勝利宣言はまだしない」 --------
5/22 ミラン・米大統領経済諮問委会(CEA)の委員長 「米国は強いドル政策を維持している」、(国際的なドル安協定の憶測について)「われわれが密かに進めているという事実はない。まったく根拠のない話だ」 ドル円は143円台半ばから144台前半まで買われる。
5/21 米財務省声明文 「為替レートは市場で決定されるべきで、ドル円相場は現時点ではファンダメンタルズを反映しているとの共通認識を再確認した」(日米財務相会談を終えて) ドル円は143円台半ばから144円40銭まで上昇
5/20 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「米国債市場のボラティリティにより、すでに高い不確実性がさらに高まる可能性があるが、市場の機能は現時点ではリスクになっていない」、「さらに不確実性が.加わることになれば、より正常なスタンスに戻るまでの時間が長引くと想定する必要が生じるだろう。なぜなら、状況の収束に今以上の時間がかかると考えるからだ」 --------
5/20 ムサレム・セントルイス連銀総裁 「米中が関税の大幅引き下げで合意して、5月12日に対立激化が和らいだ後でも、関税は短期的な経済見通しに大きな影響をもたらすように思える」、「今はインフレとの闘い継続に対する国民の信頼を維持すべき時だ。当局はインフレ期待を注視すべきだ」 利下げ観測の後退により、ややドルが買われる。
5/7 パウエル・FRB議長 「発表された大幅な関税引き上げが維持されれば、インフレ加速と経済成長減速、そして失業増加をもたらす可能性が高い」、「インフレへの影響は、物価水準の一時的な変化を反映して短期的なものにとどまる」、「そのインフレ効果がより根強いものになる可能性もある」、「やることはこれまでと変わらない」、「今は予防的になれる状況ではない。さらなるデータを目にするまで、どのような対応が正しいのか実際のところ分からないからだ」 ドル円は143円台から144円まで上昇。
5/7 FOMC声明文 「経済見通しに対する不確実性は一段と強まっている」、「失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと判断している」 --------
※尚、このサイトは情報提供を目的としており、投資勧誘を目的とするものではございません。投資の最終判断はご自身でなさるようお願い致します。本サイトの情報により皆様に生じたいかなる損害については弊社及び執筆者には一切の責任を負いかねます。

外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和