目下のところ最大の懸念材料であった先週末の米中通商協議の行方と、本日15日発動予定だった中国への制裁関税引き上げは、瀬戸際で回避されました。中国が米農産物を400−500億ドル(約5兆4000億円)輸入することで、部分的に合意することが出来、トランプ大統領は関税発動の延期を指示しました。ドル円はこの決定を受けて、先週末には8月1日以来となる108円62銭までドル高に振れました。
振り返ってみれば、8月1日というのは、その前日にトランプ大統領が突然、「9月1日から中国製品3000億ドルに対して10%の関税を賦課する」と発表し、ドル円が109円台から急激に円高に振れた日です。制裁関税はその後何度か変更されながら、本日15日の発動日を回避するに至っています。109円から104円台まで落とされたドル円は、結局は中国に対する関税を引き上げる、あるいは、延期するといったトランプ氏の発言で上下してきたということになります。今後はさらに12月15日に発動予定の関税引き上げもあり、今回延期された2500億ドルとともに、今後も延期、発動が繰り返される可能性が高く、その度に為替が乱高下する展開が予想されます。特に大統領選が近づくにつれ、「目に見える成果」の欲しいトランプ氏は、過激な発言を繰り返す可能性が高まると思われます。
部分的合意が成立し、今後は人権問題や安全保障といった、核心的な問題も議論されることになりますが、ムニューシン財務長官は、11月16〜17日に南米チリで開催されるAPEC首脳会議の席で、トランプ大統領と習近平主席が会談し、署名する見通しだと述べています。ただ同時に、今後の中国との交渉次第では12月15日の追加関税の発動もあり得ると発言しています。従って、米中通商協議の行方はまだまだ紆余曲折が予想され、ましてやこの戦いが最終的には米中の覇権争いであるのなら、相当の年月がかかると考えざるを得ません。
ドル円は先週末に108円62銭までドル高が進み、これまでの「壁」であった、108円台半ばを抜きましたが、その後108円前半での攻防が続いています。まだ、目線を完全にドル高に修正するには時期尚早と言えるでしょう。上値のメドとしては「200日移動平均線」のある109円前後と見ていますが、中東での地政学的リスクの高まりもあり、このまま108円台半ばが抜け切れない状況が続くと、再び108円を挟んだ展開に戻る可能性があります。テクニカルではドルの上昇を示唆していますが、仮にここからもう一段ドルが上昇するにしても、そのスピードは緩やかなものになると思います。特に、東京タイムではドルの上値が重い展開が続いており、米長期金利の推移と株価に左右される動きが予想されます。今週109円台乗せが実現すれば、今年のドル円最安値は、8月26日早朝に記録した104円46銭で決まりと考えていますが、どうでしょう。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。