米中通商協議の部分合意を受けて始まった今週ですが、投資家のリスク選好が高まったせいか、安全資産が売られ、リスク資産が買われる展開が目立ちました。ドル円は108円台半ばを抜き、109円に迫る水準まで円安が進み、他の主要通貨に対してもおおむね円安方向で推移しました。もっとも、この動きは、これまでのショートポジションの巻き戻しの域を出てはおらず、「新規のロングメイク」ではないと思われます。まだ「ドル円ロングの積み増し」を考えるほど、ドルの上昇傾向が強まったわけではないと思われます。
為替を取り巻く環境を見ても、英国のEU離脱協定案では合意に至ったものの、先週末の英議会で採決を見送られたことから、ジョンソン首相は離脱期限の延期をEUに申請しました。だが、同首相はその書簡にはサインをすることはせず、まだ今月末の離脱を断念していません。ジョンソン氏は週明け21日に離脱案の基本方針についてあらためて議会の同意を求め、22日にもEU離脱協定案の審議を始めたいとしています。北アイルランドを基盤とする民主統一党(DUP)が法案に反対していることから、議会で承認されるかどうかは依然として不透明だと言わざるを得ません。
米国は先週、EUとの関税引き上げに踏み切りEU側も報復関税の選定に着手しています。対中国だけではなく、EUとも関税戦争が開始され、ユーロ圏にとっては中国の景気減速の影響に加え、あらたに米国との貿易取引にも懸念が広がってきます。IMFが警告するまでもなく、米国が仕掛けた貿易戦争の影響が今後確実に世界景気への足かせになると思われます。
今週木曜日のECB理事会を皮切りに、今月末までにFOMCと日銀の政策決定会合が行われます。ECBは追加緩和へのステップという位置づけから、今回は政策変更がないと予想されていまが、今会合がドラギ総裁にとって「最後の会合」になります。ドラギ氏がどのようなメッセージを残していくのかということと、ラガルド新総裁の手腕に期待が集まります。
先週末までに英国の「ソフト・ブレグジット」の可能性が高まって来たことで、ユーロドルは反発し、1.11台後半までユーロの買い戻しが進み、2カ月ぶりのユーロ高をつけています。日足を見ると、1.12台前半に「200日移動平均」があり、ここを抜けると、もう一段のショートカバーが入りそうな予感もします。ユーロ圏の景気を考えると、この水準を抜けて大きく上昇する可能性は低いと見ますが、ショートが溜まっているだけに、ファンダメンタルズとはかけ離れた動きを見せるかもしれず、注意が必要です。ドル安が強まると、1.12近辺をテストする可能性はあります。またドル円についても「200日移動平均線」が109円前後にあるため、この水準が、足元ではレジスタンスポイントであると同時に、完全に抜けたらさらなるドル高もないとは言えません。
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来週の「ウィークリー・レポート」は海外出張のため、お休みとさせていただきます。読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程お願い申し上げます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。