ドル円は膠着状態を強めてきました。先週は概ね、106円台半ばから107円台半ばで推移し、前の週よりも値幅を縮小しています。相場を動かす材料はあったものの、例えば小売売上高が急激な落ち込みを見せましたが、悪い結果は予め想定されており、結果が悪いからといってドル売りが強まるわけでもなく、むしろ「想定内」といった反応を見せています。また、トランプ政権が中国通信大手のファーウェイに対して厳しい制限を発表しましたが、こちらも相場には影響していません。
今後の材料は、米中関係の推移と、11月の米大統領選の2つが中心的材料になるだろうと考えていますが、今のところ、トランプ大統領と、そのトランプ氏を厳しく非難したオバマ前大統領の非難合戦にはなっていたものの、市場への影響はありません。ただこれからはこの2つが大きな材料になる可能性は十分にあり得ます。特に対中国関係では、米国の新型コロナウイルス感染による被害が甚大であり、大統領選を意識した場合、中国への強硬姿勢を避けて通るわけにはいかない事情があります。国内の感染者数が146万人を超え、死者数も9万人に迫る状況の中、国民の中国への敵対心もかなり高いと思われます。米国内では感染源は中国武漢との認識が広まっており、ナバロ米大統領補佐官も非難していたように、ウイルスを武漢内にとどめておくことが出来たにも拘わらず、パンデミックを引き起こし、米国内に多くの死者を出した中国の責任は重く、トランプ大統領もバイデン候補も、どちらも選挙戦を有利に進めるためには中国批判を強めることが予想されます。中国に対する制裁を強め、それに対して中国側も報復措置を講じるといった状況も想定できます。将来の円高要因がジワジワと、ゆっくりと進行することも考えられます。
今週は、パウエル議長の議会証言や講演が予定されている以外、大きな材料はありません。引き続き値動きは緩やかかと思われ、米長期金利も動きがありません。これまでと同じように、方向性を決めるのは株価の動きがキーであることには変わりがないと思われます。また同じように、レンジを形成しているユーロドルも1.07台後半から1.08台で推移しており、この後どちらの方向に動くのか注視する必要があります。上値は徐々に切り下がっていますが、一方で下値の方も、3月23日に1.06台前半まで下落した後は緩やかに切り上がっているように見受けられます。再び1.06台まで売られるようだと、「ユーロ安」がドル円にも波及して「ドル高円安」に振れることもないとは言えません。結局これらの3通貨の組み合わせでは、「ユーロ円の戻り売り」が最もリスクの少ない取引のように思えます。足元の外出自粛と同じように、為替も我慢の日々が続きそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。