先週末の雇用統計に関する大きな「ポジティブ・サプライズ」により、ドル円は109円85銭までドルが買われ、3月下旬以来のドル高水準を付けました。この日は好調なユーロドルでもドル高が進み、米長期金利が上昇したこともあり、ドル「全面高」の様相でした。ドルに対して主要通貨が売られましたが、その中でも特に円の弱さが目立っています。クロス円の代表格でもあるユーロ円は実に昨年5月以来となる、124円26銭まで「円安」が進み、豪ドル円も、同じ様に昨年5月以来の高水準になるなど、「リスクオン」の流れが円安を加速させています。また金や米国債なども売られ、一方で一時はマイナス40ドルまで売られたWTI原油が、一転して上昇に向かい、今度は40ドルに迫る水準まで買われています。OPECと非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」で、歴史的規模の協調減産を7月末まで延期することで合意したことと、コロナからの脱却で、今後各国の生産活動が正常化に戻るといった思惑が働いているようです。
コロナ騒動とその後にミネソタ州で発生した黒人に対する死亡事故が、11月の米大統領選にも微妙な影響を与え始めたと考えられます。首都ワシントンで連邦軍の投入まで示唆し、その後の抗議デモにも強硬姿勢を変えないトランプ大統領への風当たりは日増しに高まっています。7日には共和党のブッシュ(子)政権時代に、国務長官を務めたコリン・パウエル氏が、トランプ大統領への懸念を表明し、大統領選では民主党のバイデン氏に投票することを公表しています。また、トランプ大統領の強硬姿勢は共和党内部でも批判の声が上がっています。一方対立候補のバイデン氏は、経済最優先の政策や白人主義を主張するトランプ氏を厳しく批判し、支持を拡大させています。7日に公表された世論調査では、激戦州のミシガン州では、トランプ氏の支持率は41%に対し、バイデン氏への支持率が53%だったと報じられており、同州の無党派層の間では、バイデン氏への支持率が63%に対し、トランプ氏への支持率は23%といったデータも報告されています。(ブルームバーグ)この他、多くの州でバイデン氏が支持率を伸ばしており、ひょっとしたら、「バイデン大統領」誕生の可能性もあるかもしません。もちろん2016年の大統領選では、選挙戦当日までクリントン候補有利との調査結果がありながらも、結局、トランプ氏が勝利した経緯もあり、最後まで分からないのが選挙です。ただ、もしトランプ氏が負けるようなことがあれば、ウオール街が落胆し、株が売られる展開も予想されリスクオフが進む可能性もあり、今後は大統領選も非常に大きな材料になります。ここ数カ月のドル円のレンジを105−110円と見ていましたが、足元の動きはその上限を試す展開になっています。
東京時間ではドルの上値が重いものの、海外ではリスクオンが強まる度にドルが徐々に上値を切りあげる展開が続いています。株価の上昇がリスクオンの源泉になっており、実体経済からの乖離を指摘する声が多いものの、株価の調整はまだ見られません。今週の材料は言うまでもなく、10日のFOMCです。政策変更はなく、現状維持の発表かと思われますが、それだけにパウエル議長の発言が注目されます。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。