新型コロナウイルスの感染拡大が再び猛威をふるい、中南米や米国、あるいはインドで新たな感染者が急増しています。主要先進国では感染の第一波に「ロックダウン」といった強硬策を講じたことで、感染拡大を封じこめることに成功しました。だがその後、徐々に経済活動を再開し始めたことに伴い、再び感染拡大の足音が迫っています。結局、まだ手綱を緩めてはいけないということのようですが、米国などでは再度「ロックダウン」を行う計画はないことから、コロナと景気という「相反するこの2つの事柄」をどのようにコントロールしていくのか、政権の判断にも注目が集まります。
このような状況の中でも、米株式市場はある程度の上昇を見せ、大きな調整が見られなかったものの、先週後半あたりからはさすがに、米国内でも感染拡大が株価の上昇傾向にブレイキを掛けはじめた印象です。株価の下落と長期金利の低下がやや進み、金融市場がリスクオフに舵を切り直す気配も見せそうな状況ですが、それでもドル円は上値は重いものの、円が急速に買われるセンチメントではありません。リスクオフが急速に進むと、ドルの調達が困難となり、調達コストは上昇することから、株価が下がってもドルを手当てしようという動きが出て、これがドル円で円高が進まない理由の一つになっているようで、「有事のドル買い」ということのようです。ただ、日欧の主要中銀は米国との間でドルのスワップ協定を結んでおり、それほどドル資金の調達に困難を極めることにはならないと考えていますが、新興国ではそうではありません。取り分け、トルコでは自国通貨安を防ぐ市場介入や、コロナによる輸出の減少により、外貨準備が急速に減っており、すでに500億ドルを下回っているとの報道もあります。さらに外貨の債務がドル建てであることから、自国通貨安は名目上の債務の増加につながり、さらに財務内容の悪化につながる傾向にあります。早めにドルを手当しておくという動きが出るのも「むべなるかな」といったところもあります。
今週は月初めに当たるため、ISM製造業景況指数や雇用統計といった重要な経済指標が発表されます。その結果次第ではドルの急落につながる可能性もないとは言えません。特に6月の雇用統計は、原則第1金曜日(月によっては第2金曜日)に発表されますが、今回は3日の金曜日が「独立記念日の振り替休日」に当たるため、前日の木曜日に発表されます。前回5月の発表では、非農業部門雇用者数が事前予想の「マイナス740万人」から「250.9万人増加」のポジティブサプライズでした。ドル円はこの結果に反応し、直近高値の109円85銭までドル高が進んだことは記憶に新しいところです。今回はすでに前月より改善していると予想されています。ロックダウンが段階的に解除されたことで、雇用も戻ってはいると思います。仮に、予想を上回った結果であっても、ドル円が110円を超えていく可能性は低いと予想しています。反対に、予想を下回った場合にはリスクオフが一気に強まり、「有事のドル買い」が機能しなくなる可能性もないとは言えません。もちろん、事前予想からどの程度下回るのかにもよりますが、リスクは依然としてドルの下方にあると思います。コロナの感染拡大状況に加えて、今週は経済データにも注意が必要です。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。