先週のドル円は値幅も大きく、上へ下へと大きく動きました。シーソーのような展開は今月5日に発表された7月の雇用統計が幕開きでした。139円39銭を記録してからのドル円は、リセッション入りリスクの台頭や、今後の大幅な利上げペースが鈍化するといった観測を背景にこれまでのドル上昇の勢いが鈍り、上値の重い展開が続いていました。そこに、7月の雇用統計では非農業部門雇用者数が市場予想の2倍を超える結果に、9月のFOMCで0.75ポイント引き上げが実施されるとの観測が再び盛り返し、ドル円は135円台半ばまで買われました。ところが先週は7月の消費者物価指数(CPI)が6月の「9.1%」を下回っただけではなく、市場予想の「8.7%」をも下回ったことでドル売りが加速して、132円ぎりぎりのレベルまで円高が進みました。さらにその後も卸売物価指数(PPI)が予想を下回ったことで131円台までドル売りが進みましたが、そこを底辺にドル円は133円台まで値を戻しています。上値は重く、135円を大きく超えていく地合いではないように思える一方、130円台は底堅く、ドル高基調が続くと予想する投資家にとっては、「ドルの絶好の買い場」として今後も機能しそうです。ただそれでも130円台を明確に割り込むようだと、そういった投資家も相場観切り替えを迫られ、大きく円高方向に振れる可能性があることも頭の片隅には入れておきたいものです。
今週のレンジ予想としては131円〜137円程度を予想しますが、今月のインフレ関連指標としては26日発表のPCEデフレータなどが意識されます。ここでもインフレ圧力が低下してきていることが確認できるようだと、米国のインフレがピークを付けたか、もしくはピークを付ける段階にいることが確認でき、株高、ドル安につながり易いとみられます。もっとも、今週はその前に17日にはFOMC議事録(7月26、27日開催分)が公表されます。同会合では6月に次いで0.75ポイントの大幅利上げが決定された会合でもあり、タカ派的な議論が交わされたものと思われます。内容次第ではドル円に影響を及ぼす可能性はありますが、その後、上述のように物価上昇が一服したことが確認されていることもあり、同議事録の公表だけでドルが大きく買われることにはならないと思われます。
足許のドル円はどちらにも振れる可能性があり、明確なトレンドは掴みにくい状況です。この状況を「ドル高局面の調整」とみるのか、あるいは「ドル高終焉の踊り場」とみるのか、意見の分かれるところです。ブルームバーグは「どこから見てもドルが負ける理由はなさそうだ」といった「ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)」のコメントを掲載しており、ドル安に転じる要因としては「地政学的リスクの後退、利回り差の改善、リセッション懸念の後退、インフレのピークアウトに関する確認の高まりなどが転換材料になるかもしれない」としながらも「いずれの兆候もまだ現れていない」としています。いましばらく方向感はないながらも、市場参加者がトレンドに追随することで「流れに乗ろう」とするため、神経質で足の速い相場展開は続きそうです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。