ドル円は先週149円台後半まで上昇し、ついに150円も視野に入ってきました。さすがに週明けの東京時間では久し振りのドル高水準だということもあり、実需のドル売りに押し戻されてはいますが、大きくドルが売られる地合いでもありません。ドル高の要因の一つに米長期金利の上昇傾向が挙げられます。米長期金利は先週4.1%台まで上昇しました。9月の消費者物価指数(CPI)が予想を上回り、市場の注目がほぼ「労働市場の動向」に傾注し始めていただけに、再びインフレ懸念が台頭しなかなか金利が下がりにくくなっています。ただドルが上昇傾向だとはいえ、このまま150円台に乗せ、155円方向に向かって上昇し続けるかどうかは難しい判断です。
仮に、ドル円が先週と同じ歩調を辿り150円台に乗せるようなことになると、今度は日銀の追加利上げの可能性にスポットが当たることになるからです。今や、日銀にとって為替の水準は金融政策を決める上で重要なファクターになっています。「日銀の金融政策は『為替従属』の色彩を強めているので、輸入物価が抑制されていれば、物価見通しを上振れ方向に脅かすリスクは低下し、利上げを急ぐ必要性は低下する」(第一生命経済研究所主席エコノミスト藤代宏一氏)と見られているからです。さらに円安が大きく進むと、足許の原油高もあり、再びインフレ率が上昇するリスクがあります。9月20日の会見で植田日銀総裁は、「すぐに利上げとはならない」と述べながらも、「現在も実質金利が極めて低い状況であることを踏まえると、経済・物価の動向が日銀の見通し通りであれば利上げを検討することになる」と述べていました。
「実質金利」は、一般的には「表面金利」から「インフレ率」を引いたものをいうことから、先ずは表面金利を上昇させるため、政策金利を引き上げ、それに伴って「表面金利」が高めに推移するよう誘導したい考えのようです。円安がさらに進めば、インフレ率が上昇してしまうことから、政策金利を引き上げても追いつかないことになります。日銀としては極端な円安を回避し、金融正常化を早く達成したいという意向もあるようです。また政策金利をある程度高めに維持しておかないと、いざという時に金融政策では対応できない点もあります。例えば、リーマンショックのような事態が再び起きた場合、政策金利が0.25%であれば、非常時に対応出来るとしても、わずか0.25%の引き下げしか出来ません。これはFRBにも当てはまることですが、彼らの政策金利は50bp下げた今でも、4.75−5.0%です。8月5日には米国株の大幅下落を受け、日経平均株価が過去最大の下げ幅となる4450円も下落したことを思えば、リーマンショック級の金融危機がないとは言えません。「金融正常化」とは、このように非常時にも対応できるような政策金利を維持している状況であることも、広い意味では当てはまるものと思われます。
今週は17日にECBの政策金利発表があります。先月、今年2回目となる政策金利の引き下げを決めましたが域内の成長鈍化、とりわけ、けん引役のドイツが2期連続のマイナス成長になる可能性が高いことも、利下げを急がせる理由になっています。ドルに対してユーロが売られていることも、円売りにつながり易いと言えます。ECBは先月に続き、主要政策金利である中銀預金金利を25bp下げ、3.25%にすると見られています。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。