FRBのパウエル議長は先週末のNYでの講演で、追加利下げについて、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」と、話していました。トランプ政権の関税政策が定まらず、今後インフレの再燃につながる可能性が高いことから、「今利下げを急ぐ必要はない」姿勢を明確に示していました。当然と言えば当然です。いま利下げを行い、仮にインフレが再燃した場合、今度は「利上げ」を余儀なくされるケースも考えられ、仮に「利上げ」に踏み切れば、今度は金融当局の信頼性を損なうことになります。「トランプ関税」では「朝令暮改」が行われていますが、金融政策は、ある程度長いスパンで「緩和政策」あるいは、「引き締め政策」が行われるのが一般的で、そう度々政策が180度変わるものではありません。あらゆる条件の下で景気が移り変わる中、政策変更のタイミングを的確に見極めるのが、金融当局の大きな仕事と言っても過言ではありません。鉄鋼とアルミニウムに対する関税は12日(水)に発効されます。
12日には、「米2月の消費者物価指数(CPI)」も発表されます。市場予想は総合で0.3%(前月は0.5%)、コア指数でも0.3%(前月は0.4%)です。(いずれも対前月比)先月よりも低下すると見込まれてはいるものの、依然として高水準です。まだ関税は発効されてはいませんが、CPIは実体を離れて、人々が、将来物価が上がると考えると上がるという側面もあります。自動車については突然1カ月の猶予を与えられましたが、今後カナダ政府が大きく譲歩する姿勢を見せれば、トランプ大統領も再び同国に対する強硬姿勢を緩める可能性もあります。しかしその可能性は低そうです。9日に開票が行われた選挙では、カナダ与党・自由党の党首であるマーク・カーニー氏が選出され、1月に辞意を表明したトルドー首相に代わり、次期首相に就任します。ご存知の方も多くいるかと思いますが、カーニー氏は2013年から2020年までイングランド銀行(BOE)の総裁だった人物です。同氏は、BOE総裁の前にもカナダ中銀の総裁も務め、その手腕が認められ、長いBOEの歴史の中で初めて英国人以外の人が総裁に抜擢されました。英国のオックスフォード大学出身とはいえ、カナダ人を英国中央銀行のトップに据えるといった人事に、驚いた記憶があります。そのカーニー氏、政治家としての手腕は未知数ですが、経済学者としては一流で金融市場には極めて造詣が深いと思われます。選出されたカーニー氏は、「米国はカナダではない。いかなる形でもカナダが米国の一部になることは決してない。この闘いはわれわれが求めたわけではないが、(殴り合いのため)誰かがグローブを投げ捨てれば、カナダ人は常に相手をする用意がある。貿易でもホッケーでもカナダは勝つ」と宣言し、トランプ氏と対決する姿勢を見せていました。少なくとも、現トルドー首相よりは強気の対米政策を打ち出すと、個人的には予想しています。トランプ氏も、手ごわい人物が次期カナダ首相になったと感じているはずです。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。