先週4月2日、トランプ大統領はホワイトハウスの前庭で、各国が米国に対して賦課している関税と、それに対応する米国からの関税賦課一覧を掲げ、「相互関税」発動を宣言しました。その後、この「相互関税」が世界を震撼させたことは、説明するまでもありません。正直なところ、内外の金融市場に与えたその影響の大きさには、トランプ氏自身が驚いていることでしょうが、それでも振り上げた刀を元の鞘に戻すことはありません。
週明けの東京では、予想された様に円高、株安が加速し日経平均株価は一時先週末比2900円程下げ、3万1000円の大台を割り込みました。今年の1月に4万の大台を回復したあの頃とは一変しています。先週末のNYでは147円台半ばまで反発したドル円も、一時は144円83銭辺りまで売られましたが、その後は株価が下げ幅を縮小したことに伴い、ドル円も146円台後半まで戻すといった荒っぽい動きが続いています。ただ、それでも株価の戻りは限定的で、今日はマイナスで引ける可能性が高く、今夜のNYで再び株価が大きく下げることになると、明日の東京でもさらに下値を試す可能性は否定できません。株価の大幅な下げが、日米でキャッチボールを行い、「負のスパイラル」に陥っている様相です。依然として底値が見えないところが、ドル円の上値を抑えていると言えます。
トランプ氏は「相互関税」を決めた後の先週3日に、「仮に他国・地域が何か驚くべきものを提案することができれば、関税引き下げにはオープンである」と語ったと伝えられています。もっとも、日本に対する24%関税の適用開始は9日(水)と、残された時間も限られている中で、政府が「驚くべきもの」を提案できる公算は低いと見られますが、どうでしょう。株価の急落が日本の景気にも深刻な影響を与える水準まで下落していることを受けて、石破首相は、「トランプ大統領との電話会談や早期訪米などで、関税引き下げを強く求めていく」と述べていますが、当のトランプ氏は株価の大幅下落でも「われわれは、再び豊かな国になる。かつてないほど豊かにだ。アドバンテージはわれわれにあり、マーケットのことは少し忘れて欲しい」と、かつてほどの強気の言葉ではないものの、突き進んでいく姿勢を維持しています。「相互関税」を決めた日の演説では、米国への黒字を計上している国々は、米国から富と雇用を奪っていると結論づけていました。しかし、株価急落前の今年1月時点では、時価総額世界のトップ10のうち9社をアップルなど米国企業が占めていました。8位辺りにいたのが、台湾のTSMC1社だったと記憶しています。また、世界の大富豪を見ても上位10名のうち8名が米国人でした。米国から富を奪っているとは決して言えません。むしろ、中間層との格差が広がっているのは税制など、米国内の制度の問題であり、トランプ氏はまずこのあたりから手を付けるべきだったのではないかと思います。米国では、富める人はますます富を拡大し、中間層との格差は拡大する一方です。
ドル円も、株価の行方も、全てはトランプ氏にかかっています。米国の大統領は、一夜にして世界の金融市場を崩壊させることが出来る、かくも絶大な権力を有しているということです。
4月4日の日経新聞社説は、「品揃え豊富で手ごろな価格の輸入品を享受してきた米国の消費者が、トランプ関税の最大の被害者かもしれない」と論じていました。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。