4月22日に一時139円台後半まで売られたドル円は、先週末の5月2日には145円90銭前後まで買われ、この間6円程ドルが買い戻されました。筆者は今でも、いずれ米国のインフレ率が再燃しFRBが利下げ出来る環境が極めて限定され、ドルが再び上昇する可能性が残っていると考えています。もちろん、このシナリオは今日、明日といった短期的なものではありません。「トランプ関税」がある程度高関税率をもって始動される公算が高く、これが米国のインフレを押し上げるというシナリオをイメージしているからです。
また先月中旬から今月初めにかけて、ゴールドマンや、バンカメ、さらには、みずほや野村といった多くの金融機関が、これまでのドル円の見通しをこぞって引き下げることを発表しました、これはちょうど、4月の22日にドル円が節目の140円を割り込んだ事実とも関係しているものと思われます。英バークレーズは「テクニカル分析では、ドル円は140円近辺にある2024年の安値を割り込むと、132円または130円割れへの下落が視野に入る」と、説明しています。
もちろんその可能性は残っていると思います。2024年9月に記録したドルの安値は139円57銭前後であって、実際にはまだその水準を割り込んではいません。その意味では139円台半ばは極めて重要な水準だと言えます。ただ一方で、多くの専門家がさらなる下落を予想し始めたら、その通りにはならないことも市場の常です。日本の株式市場にも、「人の行く裏に道あり花の山」という格言が、古くから言い伝えられています。歴史的にも有名な米国発1929年の「世界大恐慌」でも、これに似た事象もありました。1929年のNYダウの急落前までダウは上昇し続け、株式市場は黄金時代でしたが、暴落のわずか数日前に、自身が保有する株を全て売却し、その後巨万の富を築いた人がいました。「ジョセフP.ケネディ」という人物で、あの有名な「JFケネディ」の父親です。彼はウォール街で靴を磨いている時、靴磨きの少年が「石油株と鉄鋼株を買ったらいい」と話したことにヒントを得て、「ここまで株を買うという雰囲気が広まっていることは、そろそろ天井だ」と感じ、保有株を全て売却したとういう逸話です。その後、株式は紙屑同然となり、世界恐慌に突入したことはご存知の通りです。この時の富でJFケネディは大統領選に勝利できたとも言われています。市場では常に「オーバー・シュート」が付き物です。重要なことは、その行き過ぎた状況を何かをきかっけに掴むことで、それには常にアンテナを張っていなければなりません。難しいことですが、何かの参考になればと思います。
先週末の雇用統計では、「4月の非農業部門雇用者数(NFP)」が「17.7万人」でした。その前に発表された「ADP雇用者数」が予想を大きく下回ったこともあり、下振れ懸念がありましたが、労働市場は依然として堅調のようです。上でも触れましたが、FRBの利下げの機会は徐々に減ると予想しています。ただ、FRBの二大責務である「労働市場の減速」が明らかになれば、FRBも利下げに追い込まれる可能性があることから、今後も労働市場の動向には目配せが必要です。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。