シカゴ・マーカンタイル取引所が発表した5月27日時点での投機筋のポジションを見ると、円の買い持ち(ドルショート)ポジションは減少してはいるものの、思ったほど減ってはいませんでした。ネットの「円買い」枚数は「16万4000枚」で、ピークの「17万8000枚」からはわずかに1万4000枚しか減少しておらず、依然として高水準の「円買い」ポジションであると言えます。トランプ関税による混乱や景気後退によるドル下落か、あるいは米労働市場の減速傾向が鮮明になり、追加利下げによるドル安なのかはわかりませんが、彼らが引き続き円高ドル安を予想していることは明らかです。円とドルの金利差を考えると、早期に円高が進まないと、彼らのキャリーコストも増えるばかりです。筆者の手元にある資料によると、ここ10年余りで彼らの「円買い」ポジションの最長キャリー期間は、2020年3月から2021年3月にかけて行った「13ヵ月」が最長で、これは「円売り」ポジションに比べると極めて短いことが分かります。その理由は上記円とドルの金利差に原因があると思われます。因みに、現在のネット「円買い」ポジションは、今年2月から始まっておりまだ4ヵ月しか経過していません。
今朝のレポートでも触れましたが、先週末に発表された「5月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)」はコア指数が「3.6%」、コアコア指数が「3.3%」と、いずれも前月から伸びが加速していました。5月の同指数では食料品を中心に価格への転嫁が進んでいることが確認された形になりましたが、これで日銀の物価目標である2%を上回るのは7ヵ月連続となります。日銀の植田総裁は先週27日に日銀本店で開かれた国際コンファレンスでの講演で、「基調的な物価上昇率が2027年度までの見通し期間の後半に「2%に徐々に収束していくと見込んでいる」と述べ、見通しが実現していくとすれば、「経済・物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と、これまでのスタンスを繰り返し述べていました。日本もデフレが終わったというよりも、インフレが定着してきた状況の中、日銀による追加利上げは少なくとも年内1回はあり得ると思われますが、それが2回になるのかどうかという点が今後の円サイドの焦点の一つになります。19日(木)に発発表される「5月の全国CPI」にも注目です。
今週末には早くも「5月の米雇用統計」が発表されます。4月は雇用者数が(NFP)が17万7000人と好調でしたが、5月のそれは12万5000人と、減少が見込まれています。また失業率は4.2%と、前月と変わらないと予想されていますが、仮に予想通りであっても、市場は米労働市場減速の兆しとは受け止めないと思われます。FRBのウォラー理事は2日韓国で講演を行い、「基調的インフレ率が2%目標に向けて着実に前進し、労働市場が堅調を維持するのであれば、年内に『良いニュース』に基づく利下げを支持することになるだろう」と話していました。上記投機筋の見立ては、「日銀による利上げとFRBによる利下げ」を見込んでいるということかもしれません。
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書。