今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「ドル円続落し138円台半ばへ」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は続落。米債務上限法案が下院で可決されたことで、ほぼ成立の可能性が高まる。6月会合での利上げ観測が急速に後退し、ドル円は138円44銭まで売られる。
  • ユーロドルはやや値を戻し、1.07台半ばまで買い戻される。
  • 米国がデフォルトを回避できるとの見方が強まり、3指数は揃って上昇。ダウは153ドル上げ、S&P500は41ポイントの上昇。
  • 債券は続落。長期金利は3.6%を割り込む。
  • 金は続伸し、原油も反発。
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5月S&Pグローバル製造業PMI(改定値) → 48.4
5月ADP雇用者数 → 27.8万人
新規失業保険申請件数 → 23.2万件
5月ISM製造業景況指数 → 46.9
5月自動車販売台数(年換算) → 1505万台
労働生産性(1−3月、確定値) → −2.1%
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ドル/円 138.44 〜 139.89
ユーロ/ドル 1.0685 〜 1.0768
ユーロ/円 148.40 〜 149.46
NYダウ +153.30 → 33,061.57ドル
GOLD +13.40 → 1,995.50ドル
WTI +2.01 → 70.10ドル
米10年国債 −0.048 → 3.595%

本日の注目イベント

  • 米 5月雇用統計

本日のコメント

最後まで共和党強硬派の抵抗が続いていた米債務上限問題は下院で可決しました。法案の名称は「The Financial Responsibility Act」(財政責任法案)と名付けられ、2日にも上院で可決され、バイデン大統領の署名を持って発効します。余談ですが、そのバイデン大統が昨日、米空軍士官学校の卒業式に列席し、演説を行うため壇上に案内された際転倒しました。幸いケガはなかった模様ですが、何せ80歳とご高齢です。2024年の大統領選に向けて、悪影響が出なければよいのですが。下院を通過したことで、6月5日とされる「Xデー」にはぎりぎり間に合った格好ですが、法案に「Responsibility」という文言が入ったことはやや驚きでした。今後も財政再建は政権の「責任」において解決すべきとの想いも入っているのかもしれません。

この欄でも何度も触れているように、筆者は6月会合では利上げが見送られるとの見方に立っていますが、昨日から市場の風向きが変わり筆者には「追い風」になって来ています。先週までは6月会合で0.25ポイントの利上げを織り込む動きが強まり、金利先物市場ではほぼこれを織り込んだことが、ドル円を141円手前まで押し上げる要因の一つになっていました。昨日は1−3月期の単位労働コストとISMの5月の仕入れ価格指数が予想を下回ったことで、株式と債券が買われ、金利が低下したことに伴いドル円は1週間ぶりに138円台半ばまで押し戻されています。さらに、ハト派寄りの発言を繰り返すフィラデルフィア連銀のハーカー総裁は昨日も、全米企業エコノミスト協会(NABE)が主催したオンラインイベントで、「政策金利を据え置き、インフレ率を適時に目標に戻すための仕事を金融政策に任せることが可能な地点に近づいていると考える」と述べています。ハーカー総裁はこれまでも、後日のFOMC会合で利上げが必要になったとしても、6月会合での利上げ見送りを支持する考えを示していました。またジェファーソンFRB理事も前日、自身が金利据え置きに傾いていることを示唆していました。利上げ観測が後退した一連の流れから、金も買われ原油も上昇し、以前の状況に戻った印象もあります。ただ、市場の見方が変わり易いことは今に始まったことではありません。今夜発表の雇用統計で非農業部門雇用者数(NFP)が大幅に予想を上回る結果が示されれば、センチメントは再び一変します。

5月のNFPは19.5万人(4月は25.3万人)と予想され、先月よりも減少していると見られています。また、失業率も「3.5%」と4月の「3.4%」から若干上昇していると予想されています。昨日発表された民間の雇用統計である「ADP雇用者数」が、本番の雇用統計と異なることは度々ありますが、5月分は27万8000人の増加と市場予想を上回り、4月分は若干下方修正されています。同統計は2500万人余りの「給与明細」(Pay Roll)の数を基準に集計されていると言われ、今回の結果から家計支出を下支え、景気を拡大させている労働市場はなお力強いことを示していると考えられます。またこの先、大本命の指標である「5月の消費者物価指数」も残っていることから、まだ利上げの可能性が消えたわけではないとは思いますが、ドル円の140円台後半が徐々に遠のく可能性もあります。

本日のドル円は138円〜140円程度を予想します。

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植田日銀総裁は今週30日の参議院財政金融委員会で、「賃金が継続的に上昇していく中での持続的・安定的な2%の物価上昇の達成にはまだ時間があると考えている」と述べました。日銀は、これだけ物価上昇が続いてもまだ今年後半には2%を下回ると見ていますが、昨日から6月に入り、今月も食品を中心に値上げが目白押しです。例を挙げれば、映画館の入場料、スポーツジムの会員料、家事代行料などが上がります。これらは余り身近なものではありませんが、身近なところではカップ麺、食パンと菓子パンなど、6月だけで食品の値上げは195社、3575品目にもなるとか。家計のやりくりはますます厳しいものになりそうです。最も身近な電気料金は昨日6月1日から上がっています。

中には「便乗値上げ」もありそうですが、これまで値上げしたくても出来なかった多くの食品メーカーにとって、「今なら値上げしても、消費者に受け入れてもらえそうだ」といった考えもあり、値上げに踏み切ったのだという声も聞かれます。このセンチメントが続く限り、物価高はそう簡単に崩れないのではないかと思いますが、物価上昇が今年末には2%を割り込むかどうか、今からしっかり意識しておきたいと思います。

良い週末を・・・・・。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
6/1 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁 「政策金利を据え置き、インフレ率を適時に目標に戻すための仕事を金融政策に任せることが可能な地点に近づいていると考える」 株と債券が買われ、ドル安を演出。
5/31 コリンズ・ボストン連銀総裁 「米金融当局は実に高すぎるインフレの抑制に努めている」 --------
5/31 ボウマン・FRB理事 (家賃の下落や不動産価格が横ばいで推移していることを例に挙げ)、「これはインフレ率の低下を目指す当局の闘いに影響を及ぼし得る」 --------
5/31 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁 「一度様子を見ていいだろうと思う」と述べ、「6月会合では、私は利上げ見合わせを検討する陣営に確実に入っている」 市場はドル売りで反応。
5/31 ジェファーソン・FRB理事 「次回会合で政策金利の据え置きを決定しても、今サイクルのピーク金利に達したと解釈すべきではない」、「実際には、次回会合で利上げを見送ることは、追加引き締めの程度について決定する前に委員会がより多くのデータを見ることを可能にするだろう」 市場はドル売りで反応。
5/30 神田・財務省財務官 「為替相場はファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要だ。過度の変動は好ましくない」、「為替市場の動向をしっかり注視し、必要があれば適切に対応していく考えに変わりはない」 ドル円141円手前から140円12銭まで下落。
5/30 植田・日銀総裁 「賃金が継続的に上昇していく中での持続的・安定的な2%の物価上昇の達成にはまだ時間があると考えているので、粘り強く金融緩和をというスタンスだ」 ドル円140円台前半から140円93銭まで上昇。日経平均株価はマイナス圏か120円を超える上昇。
5/25 植田・日銀総裁 「国民全員にかなり大きな負担になっている」、「サービス部門での価格上昇も進んでいる。原料価格が低下しても、需要面の高まりから物価高が継続する可能性が高い」、「基調適な物価上昇率はすこしずつ上がってきているのは事実だが、持続的・安定的(な達成)には届いていない」、「政策の継続、修正については効果と副作用をみて判断する。(効果と副作用の)バランスに変化があれば修正はあり得る」(日経新聞とのインタビューで) --------
5/25 コリンズ・ボストン連銀総裁 「インフレ率はまだ高過ぎるが、緩和を示す有望な兆候もいくつかある」、「われわれは利上げを一時停止できる地点、あるいはその近くにいるのではないかと考える」 --------
5/24 ウォラー・FRB理事 「インフレが2%目標に向って低下しつつある明確な兆候が得られるまで、利上げを停止することは支持しない」、「6月会合で利上げを実施するべきか見送るべきか向こう3週間に発表されるデータ次第になる」 株安、債券安が進み、金利上昇に伴いドル円は138円台半ばから139円台半ばまで上昇。半年ぶりのドル高を示現。
5/23 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「インフレが高水準にとどまり、われわれの認識より定着するようになった場合、政策金利をより長期にわたって高い水準に維持する必要が出て来る。そうなれば、銀行セクターへの圧力は強まる」 --------
5/22 ブラード・セントルイス連銀総裁 「インフレに十分な下押し圧力を与え、物価上昇率をタイムリーに目標水準に押し戻すためには、政策金利を引き上げざるを得なくなるだろうと」、「今年はあと2回の行動を考えている。具体的にいつになるかは分からないが、遅いより早い方がよいとこれまでにたびたび提唱してきた」、「労働市場が非常に好ましい状況にあるのは、インフレと闘い、目標物価に戻すには非常に都合が良い」 債券が売られ金利が上昇。ドル円は138円台半ばまで上昇。
5/22 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「今の段階では、6月会合での利上げもしくは利上げ見送りのどちらも判断が際どく、五分五分だ。重要なのは、われわれの作業は終了したと示唆しないことだと考える」 --------
5/22 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「政策の選択肢については予断を持っていない」 --------
5/22 デーリー・SF連銀総裁 「与信環境の引き締まりが、2回の利上げに相当し得る」 --------
5/22 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「大きな変化がない限り、現時点では事態がどう進展するか様子を見ることに違和感はない」 --------
5/19 パウエル・FRB議長 「追加引き締めが適切か、何の決定も下していない」、「結果的に政策金利をそれほど上げる必要はないかもしれない」、「インフレ抑制に失敗すれば(人々の感じる)痛みが長引くだけでなく、最終的に物価の安定を取り戻すための社会コストがより増えることになる」、「これまでのところ、インフレ抑制に時間がかかるというFOMCの見方を支持していると」 株価の下落をやや抑制。ドル円の下げにつながる。
5/19 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「ここからはもう少し速度を落としてもいいだろうという考えを排除しない」 --------
5/18 ジェファーソン・FRB理事 「金融政策の作用には長期的かつ変動的な遅れがあり、金利上昇の影響を需要が最大限に受けるのに1年は十分な期間でないことは歴史が示している」、「この先の金融政策における適切なスタンスを考える上で、今後数週間はあらゆる要素を考慮するつもりだ」 --------
5/18 ローガン・ダラス連銀総裁 「過去10回のFOMC会合全てでFF金利誘導目標レンジを引き上げてきたことで、われわれは一定の進展を遂げた。今後数週間に入手するデータで利上げ停止が適切になることが示される可能性もある。だがきょう現在においては、まだその状況に達していない」 --------
5/16 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレ鎮静化に成功したとの証はまだ得ていない」、「さらなる利上げが必要であれば、そうすることに異論はない」 --------
5/16 メスター・クリーブランド連銀総裁 「金融政策は経済の長期的な成長率に影響を与えることはできないが、経済を物価安定の状態に戻すことで役割を果たすことは可能であり、それは労働市場や金融システム、経済全体のより長期的な健全性のために必要だ」 --------
5/15 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「これまでの急速利上げによる影響の多くがいまだ経済に浸透しつつあるところだ」、「FOMCは次の一手を判断する上で注意が必要になる」「6月13−14日に開かれるFOMCで当局者がどうすべきか述べるのは時期尚早だ」、(5月会合で利上げを支持した自身の判断は)、「銀行セクターで起きている混乱を考え、五分五分だった」 --------
5/15 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「労働市場は依然として過熱状態にあり、あまり軟化していない。つまり、インフレ鈍化にはまだ長い道のりが残されているということだ。インフレ鈍化のため、われわれ金融当局としてなすべき仕事が恐らくさらにあるだろう」 --------
5/15 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「2024年に入ってしばらくするまでわれわれが実際に利下げを検討することはない、というのが私の基本シナリオだ」、「インフレ指標の大半は、依然とし当局目標の2倍だ。つまり、残された道のりはまだ長いということだ」 --------
5/14 ジェファーソン・FRB理事 「3月に予想に反して下落した中古車価格を除いては、コア物価のディスインフレは想定よりも緩やかなペースで起きている。金融政策は経済とインフレに長期かつ様々な時間差を伴って影響を与えるもので、われわれの急速な引き締めの十分な効果は依然としてこれから表れる公算が大きい」 --------
5/9 ウィリアムズ・NY連銀総裁 信用状況の推移とそれが成長や雇用、インフレの見通しに与える影響見極めに特に重点を置いていく」、(FOMCは来月利上げを停止するのかとの繰り返しの質問に対して)、「政策は会合ごとに定められ、入手するデータによって決まる」、(利下げに関する質問には)、「私の基本的な予想では、年内に利下げする理由はどこにも見当たらない」、「かなり長期間、景気抑制的な政策スタンスを維持する必要があるというのが私の予想だ」(当局が目標とする)「2%に戻すには時間がかかり、2%の目標は2年かけて到達する」 --------
5/5 パウエル・FRB議長 (金融不安が収まらないことに触れ)「状況はおおむね改善し、米国の銀行システムは健全で強靭だ」、「深刻なストレスがかかる時間に区切りをつけるための重要な一歩だ」、(銀行破綻については)、「われわれが間違いを犯したことは十分に認識している」、(足元のインフレについて)、「幾分緩やかになっているが、依然として強い」、(金融政策が十分引き締め的な水準かと問われて)、「見極めているところだ」 --------
5/5 ブラード・セントルイス連銀総裁 「この15カ月における積極的な政策がインフレ率の上昇を抑制してきたが、2%目標への軌道に乗っているかどうかはあまりはっきりしていない」、「これから出て来る経済データを精査したいと考えているが、利上げがもう必要ではないと確信するには『インフレ率の有意な低下』を確認しなければならないだろう」 --------
5/5 グールズビー・シカゴ連銀総裁 (金融セクターの混乱について)、「それによって少し立ち止まらなければならないだろう。そうした展開は景気を減速させる可能性が高く、そのことを考慮する必要があるのは確かだ」と語り、「われわれはデータを注視する必要がある」 --------
5/1 イエレン・財務長官 ( 債務上限問題について)、「われわれの最善の予測では、6月初旬までには政府の支払い義務全てを履行し続けてことができなくなる。早ければ6月1日の可能性もある」 --------
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和