今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「米CPI3カ月連続で上振れ」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は大幅続伸。米3月のCPIが予想を上回ったことでドル買いが加速。152円を大きく突破し、NY市場終盤には153円24銭までドルが買われ34年ぶりの水準を示現。
  • ユーロドルも売られ、1.08台半ばから1.0729まで下落。
  • 株式市場は大幅安。CPIの上振れで利下げ開始が遅れるとの見方から3指数とも揃って大きく売られる。
  • 債券も大幅安。長期金利は4.54%台と大幅に上昇し、2年債利回りも4.97%台まで急騰。
  • ドル高に金は反落。原油は反発。
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3月消費者物価指数 → 3.5%(前年同月比)
3月財政収支 → −236.5b
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ドル/円 151.64 〜 153.24
ユーロ/ドル 1.0729 〜 1.0864
ユーロ/円 163.70 〜 164.93
NYダウ −422.16 → 38,461.51ドル
GOLD −14.00 → 2,348.40ドル
WTI +0.98 → 86.21ドル
米10年国債 +0.182 → 4.544%

本日の注目イベント

  • 中  中国3月消費者物価指数
  • 中  中国3月生産者物価指数
  • 中東 OPEC月報
  • 欧  ECB政策金利発表
  • 欧  ラガルド・ECB総裁記者会見
  • 米  新規失業保険申請件数
  • 米  3月生産者物価指数
  • 米  日米フィリピン首脳会談(ワシントン)
  • 米  ウィリアムズ・NY連銀総裁、シンポジウムで基調講演
  • 米  コリンズ・ボストン連銀総裁講演
  • 米  バーキン・リッチモンド連銀総裁講演
  • 米  ボスティック・アトランタ連銀総裁、討論会に参加

本日のコメント

ドル円は岩盤と見えていた152円を大きく越え、大台をさらに一つ変え153円台まで急騰しました。やはりきっかけは3月の消費者物価指数(CPI)の上振れでした。3月のCPIが発表されると、それまで151円75銭辺りで推移していたドル円は一気に152円台半ばまで上昇し、さらにNY市場の終盤では153円台に乗せ、153円24銭まで円が売られました。予想通り、152円の壁を抜けると、ストップロスのドル買いも巻き込んで上昇に勢いが加速しましたが、これは「定石」通りです。多くの投資家が注目していた政府日銀による「実弾介入」が見られなかったことも、ドル買いに安心感を与えましたが、CPI発表がNY時間朝8時半ということもあり、財務省としても完全にNY市場の時間帯に入っていることも、介入を躊躇させたのではないかと思われます。因みに2022年10月の介入は日本時間の夜8時頃で、LDN時間の昼過ぎ、NY時間のオープン前という時間帯でした。

ただ、今日は「実弾介入」には相当な注意が必要です。少なくとも再び財務省、金融庁、日銀による「3者会合」が開かれると見ていますが、会合は単なるポーズでしかありません。実際に介入する際には会合など開かず、一気に攻めてくるはずです。投機筋に「ギャフン」と言わせるためには、タイミングとポジションの偏りが何より重要です。「介入はない」と思わせ、投機筋が安心してドル買いを膨らませたタイミングが最適ですが、果たしてどのタイミングで実行してくるのか、足元の水準ではいつあっても不思議ではありません。「レートチェック」はあるかもしれません。「レートチェック」で2円程度、「実弾介入」で5−6円程度円高に振れると予想していますが、もちろん介入の規模にもよります。多額の介入をするには、それ相当のドル資金が必要で、その資金を手当てするためには保有している米国債を売る必要があります。米国債の売却は金利上昇につながり、金利上昇は「ドル買い材料」という悪循環にも陥り、悩ましいところです。

米3月のCPIは総合では前月比「0.4%上昇」(市場予想は0.3%)、前年同月比では「3.5%上昇」(市場予想は3.4%)でした。また、より重要視されるコア指数では、前月比で「0.4%上昇」(市場予想は0.3%)、前年同月比は「3.8%上昇」(市場予想は3.7%)でした。コア指数は3カ月連続の上昇となり、米国のインフレが再び上昇に向っていると見られます。これで6月会合での利下げの可能性はなくなりました。アトランタ連銀のボスティック総裁の「年内1回の利下げ説」やミネアポリス連銀のカシュカリ総裁の放った「利下げは来年にずれ込む」といった発言が徐々に正当化されてきましたが、タカ派のサマーズ元財務長官は今回の結果を踏まえて、「次の政策金利の動きが下向きではなく、上向きになる可能性を真剣に考えるべきだ。その確率は15−25%のレンジと見ている」とブルームバーグ・テレビジョンの番組で述べ、利下げではなく、利上げのリスクを真剣に検討する必要があるとの考えを示しています。この意見はかなり極端かとは思いますが、かりにそうだとしたら、「実弾介入」もほとんど意味はなく、円の金利を大幅に引き上げるしかありません。実際に、円安が一段と進んだことで、日銀による次の利上げのタイミングも早まってきたと思います。

FOMCメンバーの2人もこの結果を受けてマサチューセッツ州のイベントで発言しています。シカゴ連銀のグールズビー総裁は、「今年最初の3カ月は間違いなく悪化している。まだ道のりはあるが、昨年よりも物価押し下げと高水準の雇用維持のトレードオフが多くなりそうな地点に至りつつある」と述べています。また、リッチモンド連銀のバーキン総裁も同じ会合で、「われわれはかなり前進していると思うが、そこに至るのがいかに容易であるかについては謙虚である必要がある。3月のCPIはインフレ抑制に一定の時間がかかることを示唆している」との認識を示しています。

152円台に乗せ一気に153円台まで上昇したこの水準では、当然本邦の輸出筋からはドル売りの注文がかなりの規模で入ることでしょう。この動きがドル円をどこまで押し下げるのかがポイントですが、東京時間では上でも述べたように、介入警戒感も強く、ドルを買い上げるのは難しいところでしょう。

本日のドル円は、介入がないとしたら152円20銭〜153円50銭程度でしょうか。介入があったとしたら、その下限は、まずは日足の雲の上限である148円80銭程度になります。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
4/10 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「われわれはかなり前進していると思うが、そこに至るのがいかに容易であるかについては謙虚である必要がある。3月のCPIはインフレ抑制に一定の時間がかかることを示唆している」 --------
4/10 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「今年最初の3カ月は間違いなく悪化している。まだ道のりはあるが、昨年よりも物価押し下げと高水準の雇用維持のトレードオフが多くなりそうな地点に至りつつある」 --------
4/10 サマーズ元財務長官 「次の政策金利の動きが下向きではなく、上向きになる可能性を真剣に考えるべきだ。その確率は15−25%のレンジと見ている」 --------
4/9 植田・日銀総裁 「基調的な物価の上昇率はまだ2%を下回っていて、緩和的な金融状態を維持することが大切だ」、「見通し通りに2%に向けて上がっていけば、金融緩和を少し緩める判断も可能だ」 --------
4/9 ポスティック・アトランタ連銀総裁 「リスクは均衡していると私は見ており、米経済が極めて堅調で力強く、強靭なことを考えると、利下げがさらに遠のく可能性も排除できない。しかし、労働市場に大きな痛みが生じることを示唆する別のシグナルが出始めたら、政策スタンスを変更し、おそらく利下げを始めることに私はオープンだ」 --------
4/8 ブラード・前セントルイス連銀総裁 「現状では恐らくFOMCとパウエル議長の発言を額面通り受け止めるべきだ。現時点で彼らの最も有力な予測は引き続き今年3回の利上げだ。それが基本シナリオだ」 --------
4/5 ローガン・ダラス連銀総裁 (インフレ率の上昇や、借り入れコストが以前考えられていたほど景気を抑制していない事実を理由に挙げ)、「こうしたリスクを踏まえると、利下げについて考えるのはあまりに早過ぎる」 --------
4/5 ボウマン・FRB理事 「インフレ率が当局の2%に向かって持続的に低下していることが今後のデータで引き続き示唆されれば、金融政策が過度に抑制的にならないよう政策金利を徐々に引き下げるのがいずれ適切になるだろう」、「しかし、政策金利を引き下げるのに適切な地点にはまだ至っていない。複数のインフレ上振れリスクが引き続き見られる」 --------
4/4 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「一段の明瞭さを得るべく利下げまでに時間をかけるのが賢明だ」 --------
4/4 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「年初に予想を上回るインフレ指標が示されたものの、物価の伸びが鈍化しているという全体像が変わることはないだろう」 --------
4/4 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁 「現在の状況はあるべき姿ではない。インフレはなお高すぎる」 --------
4/4 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「インフレの横ばい推移が続くようであれば、利下げを実施する必要があるのかどうか疑問が生じる」、「特に、経済が堅調を維持する場合はなおさらだ」 NYダウ530ドル下落。ドル円はリスク回避から151円70銭台から151円13銭まで売られる。
4/3 クーグラー・FRB理事 「堅調な供給を背景に需要の伸びが鈍化しているため、失業率がかなり上昇することなく、さらなるディスインフレが実現するというのが私の基本的な予想だ」、「ディスインフレと労働市場の現状が私の予想通り進めば、今年中に政策金利をいくらか引き下げるのが適切だろう」 --------
4/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「今年末、つまり第4四半期の利下げを開始するのが適切になると思う」、「インフレの軌道が鈍化すれば、多くの人が予想している以上に辛抱強くなる必要があるだろう」 --------
4/3 パウエル・FRB議長 最近のインフレデータは予想を上回ったものの、全体像を有意に変えるものではなかった」、「年内どこかの時点で利下げを開始するのが適切になる可能性が高い」、「経済の強さと、インフレ面でのこれまでの進展を踏まえれば、今後発表されるデータに政策判断を導いてもらう時間はある」 --------
4/2 デーリー・SF連銀総裁 「成長は好調なので、金利を調整する緊急性はない。これは非常に合理的な基本シナリオだと思う」 --------
4/2 メスター・クリーブランド連銀総裁 「利下げを開始する前にインフレが鈍化しているというさらなる証拠を目にしたい。今年は3回の利下げが適切になる可能性が高いが、それより少ない回数が必要になるのかどうかは五分五分だ」 --------
3/29 パウエル・FRB議長 「米経済が非常に堅調なペースで成長し、労働市場も極めて強いという事実は、われわれが利下げという重要な一歩を踏み出す前にインフレ率の低下についてもう少し確信を強める機会を与えてくれる」、「早過ぎる利下げがインフレの再燃を招く一方、遅すぎる対応は、不必要ダメージを経済に与えることになり、慎重な対応が必要だ」、「利上げを急ぐ必要はない」 --------
3/27 ウォラー・FRB理事 利下げに踏み切る前に、少なくとも数カ月分の良い内容のインフレデータを目にしたい」、「最近の経済データでは年内に予想される利下げを遅らせるか、利下げ回数を減らすことが裏付けられる。金利引き下げを急ぐことはないと」 --------
3/27 神田・財務省財務官 「最近の円安の進展はファンダメンタルズに沿ったものとは到底言えず、背景に投機的な動きがあることは明らかだ。行き過ぎた動きに対してはあらゆる手段を排除せずに適切な対応を取る」、「最近の円安傾向はなだらかなものとは到底言えない」 介入警戒感が強まり、151円97銭まで買われたドル円は、その後151円03銭前後まで下落。
3/25 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「これに関して私の予想は中央値だった」(3回の利下げを見込んでいた) --------
3/25 クック・FRB理事 「雇用とインフレの2大責務はより良いバランスになりつつある」、「しかしながら物価の安定を完全に回復するためには、時間をかけて金融政策を緩和する慎重なアプローチが必要になるだろう」 --------
3/25 ボスティック・アトランタ連銀総裁 (年内の利下げは1回にとどまるとの見方を改めて示し)、「自身の見通しに沿って経済が推移すれば、忍耐強くいられると思う」 --------
3/22 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「インフレの軌道について昨年12月時点よりも確信がない。主要な数字の陰には厄介なことがいくつかある」、「今年の利下げは1回に留まると現時点では予想している」 --------
3/20 パウエル・FRB議長 「インフレ率が目標の2%に向う全体的なストーリーは変わっていない。たとえ労働市場が堅調であっても、利下げ開始を止められないだろう」 ドル円は151円台半ばから150円74銭まで下落。株価は大幅高。債券も小幅に買われる。
3/20 FOMC議事録 「最近の複数の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆している。雇用の伸びは強さを維持しており、失業率は低いままだ。インフレはこの1年で緩和したが、依然として高い水準にある」、「委員会は目標実現を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標レンジを5.25−5.5%に据え置くことを決めた。FF金利誘導目標レンジに対するいかなる調整も、委員会はそれを検討する上で、今後入手するデータや変化する見通し、リスクのバランスを慎重に見極める。委員会はインフレ率が持続的に2%に向っているとの確信を強めるまで、誘導目標レンジの引き下げが適切になるとは見ていない」 --------
3/18 ウォーレン・サンダース議員などからの書簡 「利下げに向けた明確かつ迅速なタイムテーブルを提示するよう」、(利下げは)「理想的には5月のFOMCから開始するのが望ましい」 --------
3/9 バイデン大統領 「保証はできないが、金利はもっと下がるのは間違いない」、「金利を決定する小さな組織が今後引き下げに動くと確信するからだ」 --------
3/7 パウエル・FRB議長(議会証言) 「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が強まるのを待っている」、「その確信を得た時点で、今から遠くないその時点で、景気抑制の度合いを巻き戻し始めるのが適切になるだろう」 株と債券が買われ、ドル円は147円52銭まで下落。
3/7 中川・日銀審議委員 「2%の物価安定目標の実現に向けて、着実に歩みを進めている」 ドル円は148円台後半から148円台半ばまで売られる。プラス圏で推移していた日経平均株価も大きく下落。
3/6 パウエル・FRB議長(議会証言) 「インフレとの闘いで勝利したとの確信を得るまでは性急に利下げに動く考えはない」、「年内いずれかの時点で、利下げを開始するのが適切になる可能性が高い」、「当局としてはまだその用意はない」 株と債券が買われ、ドル円は149円10銭まで下落。
3/4 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「7−9月に1回利下げを始めるのが適切だ」、「利下げが連続したものになることは恐らくないだろう」、「不確実性を考えると、行動を起こした後に市場参加者や企業幹部、および家計がそえにどう反応するかを見ることがある程度望ましいのではないかと思う」 株と債券が売られドルが買われる。
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和