今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「ドル円、強力なサポートラインを割り込む」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は大幅に続落。ナスダック指数が大きく下げたことや、トランプ氏が「ドル高を是正する」と発言したことが伝えられたことで、156円06銭前後までドルが売られる。
  • ユーロドルも続伸。1.0948まで買われ、4カ月ぶりの高値に。
  • 株式市場ではダウが続伸し、初の4万1000ドル台に乗せたものの、半導体株が売られたことでナスダックは500ポイントを超える大幅安。
  • 債券は横ばい。
  • 金は反落し、原油は大幅に反発。
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6月住宅着工件数 → 135.3万件
6月建設許可件数 → 144.6万件
6月鉱工業生産 → 0.6%
6月設備稼働率 → 78.8%
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ドル/円 156.06 〜 156.73
ユーロ/ドル 1.0924 〜 1.0948
ユーロ/円 170.67 〜 171.42
NYダウ +243.60 → 41,198.08ドル
GOLD −7.90 → 2,459.90ドル
WTI +2.09 → 82.85ドル
米10年国債 ±0 → 4.158%

本日の注目イベント

  • 豪 豪6月雇用統計
  • 日 6月貿易統計
  • 欧 ECB政策金利発表
  • 欧 ラガルド・ECB総裁記者会見
  • 英 英6月失業率
  • 英 英ILO失業率(8−10月)
  • 米 新規失業保険申請件数
  • 米 7月フィラデルフィア連銀景況指数
  • 米 6月景気先行指標総合指数
  • 米 ローガン・ダラス連銀総裁講演、会議で開会の辞
  • 米 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁とローガン・ダラス連銀総裁、座談会に参加
  • 米 ボウマン・FRB理事講演
  • 米 企業決算 → ブラックストーン、ネットフリックス

本日のコメント

日米の要人発言に加え、NY株式市場ではエヌビディアなど半導体株が大幅に下落し、リスク回避の流れも加速したことでドル円は156円06銭前後まで売られました。今月3日に161円95銭の高値を付けてから2週間余りで6円に迫るほどの円安が是正されたことになります。筆者は今月8日辺りから、これまでの動きとの異なるチャートの形態に着目して、「ドル高の流れはまだ変わっていないが、注意が必要」とのコメントを記してきました。(参照:7月8日付け今日のアナリストレポート)そして昨日触れた日足の、これまで極めて有効に機能してきた「トレンドライン」は、ついに昨日のNYでの下げで下抜けしています。この下方には一目均衡表の「雲」があり、ここを割り込むのかどうかが最大の焦点になります。仮に、この水準(155円49銭前後)を「明確に」割り込むようだと、短期的にはドル高傾向が終わった可能性もあり、調整は避けられないのではないかと思われます。

米国民だけではなく、市場も11月の米大統領選ではトランプ氏の勝利を織り込むような動きになってきました。当のトランプ氏自身、すでに大統領になったような発言を行っており、市場もその発言内容に反応しています。昨日この欄で、トランプ氏は「パウエル議長には任期を全うしてもらう」とブルームバーグとのインタビューで語ったことを紹介しましたが、トランプ氏はその後為替政策にも言及し、「われわれは大きな通貨問題を抱えている」とし、「強いドルが問題だ」と発言しています。またFRBによる利下げについては、「11月の大統領選までには利下げを行わないよう」求めています。さらに台湾にも相応の防衛費を負担するよう求めています。中国からの輸入品については「60%の関税を課す」と明言していることと合わせ、「矛盾する発言だ」(日経新聞)。中国に対する関税を大幅に引き上げることで、インフレが再燃する可能性は高く、FRBの想定される利下げ見通しにも逆風になります。また米金利が高止まりすれば、ドル高の大幅な是正は難しくなり、何とも矛盾だらけの発言です。

日本では河野デジタル大臣が、「円の価値を高め、エネルギーや食糧品のコストを引き下げるため政策金利を引き上げるべきだ」と発言しています。FRBのウォラー理事は17日、「最終地点に到達したとは考えていないが、政策金利の引き下げが正当化される時期に近づいていると思う」と述べ、NY連銀のウイリアムズ総裁は17日、「われわれが求めているディスインフレトレンドに近づいている。これは前向きな兆しだ。インフレが目標の2%に持続的に向かっているとの確信を深めるため、さらに多くのデータを確認したい」と話しています。一方で依然慎重な意見もあり、リッチモンド連銀のバーキン総裁は同日、「最近のディスインフレの広がりは心強いが、それが持続する証左を、まだなお探している」と発言しています。

トランプ氏が既に大統領になったかのような振る舞いを見せているのとは対照的に、バイデン氏に対する選挙戦からの撤退を求める声は、日増しに大きくなっています。民主党の有力議員のシフ下院議員は17日、「選挙戦撤退はバイデン大統領だけが決められる選択だが、彼がバトンを渡す時だと私は信じている」と述べ、バイデン氏に圧力をかけています。ブルームバーグは「トランプ氏暗殺未遂事件の発生後、バイデン氏に反旗を翻した民主党議員は同氏が初めて。事件を受けてバイデン氏を巡る党内の争いはいったん沈静化したが、舞台裏では緊張が続いていた」と報じています。民主党全国大会の運営委員長は代議員宛の書簡で「民主党は正式指名のプロセスを8月後半にシカゴで開催される民主党全国大会ではなく、オンライン形式で進める考えだ。代議員投票が7月中に行われることはない」と記していました。バイデン氏が最終的に撤退を決断するにしても、そのタイミングが遅ければ遅いほど、トランプ氏有利に働くことになりそうです。

今朝筆者がオフィスに来た時には、ドル円は156円25銭前後で推移していましたが、本稿が出来上がる8時40分ごろには既に155円44銭までドル安が進み、まさに上記「雲の下限割れ」を試しています。

本日のドル円は154円50銭〜156円50銭程度を予想します。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
7/17 トランプ・前大統領 「パウエル議長には任期を全うしてもらう」、「われわれは大きな通貨問題を抱えている」、「強いドルが問題だ」、(FRBによる利下げについては)、「11月の大統領選までには利下げを行わないよう」 ドル安が加速。157円台から156円台前半に。
7/17 ウォラー・FRB理事 「最終地点に到達したとは考えていないが、政策金利の引き下げが正当化される時期に近づいていると思う」 --------
7/17 ウイリアムズ・NY連銀総裁 「われわれが求めているディスインフレトレンドに近づいている。これは前向きな兆しだ。インフレが目標の2%に持続的に向かっているとの確信を深めるため、さらに多くのデータを確認したい」 --------
7/17 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「最近のディスインフレの広がりは心強いが、それが持続する証左を、まだなお探している」 --------
7/15 パウエル・FRB議長 「1−3月(第1四半期)には自信を高めさせるものは何も得られなかった。だが、先週発表された一つを含む第2四半期の三つの指標で、幾分自信は深まった」、「インフレが鈍化し、労働市場は実際に冷えてきた。われわれは両方の責務に目を向けるつもりだ。これらのバランスは改善している」 ややドルが売られ、債券と株は買われる。
7/11 デーリー・総裁SF連銀総裁 「現時点において物価安定と完全雇用という当局が責務を負う目標へのリスクは、一段とバランスが取れてきており、金融政策が機能しつつあるのは明白だ」と発言し、「雇用やインフレ、GDP、景気見通しに関するデータなど、これまでに得られた情報を考慮すると、何らかの政策調整が正当化される可能性が高い」 --------
7/11 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「インフレ率が2%の物価目標に向って下げていることを示す待望の証左を得られた」、「上々だ。強く勇気づけられる」 市場への影響: --------
7/11 パウエル・FRB議長 「2%の物価目標達成に確信はあるのか」と質問された議長は、「確信はある程度ある」、「問題は、2%に向けて持続的に低下していると十分に確信しているかということだ。私にはまだそう言う用意はない」、「インフレに関する仕事は終わっていない。やるべきことはまだある」 株価は大幅に上昇し、ドル円も161円81銭まで買われる。
7/2 パウエル・FRB議長 「米経済は力強く、労働市場も強いことから、われわれは時間をかけて正しく対応することが可能だ」、「それがわれわれの計画だ」、(前回のインフレ統計とその前のデータについて)、「ディスインフレの軌道に戻りつつあることを示唆している」、「最近見られたようなデータがさらに続くのが望ましい」 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は161円台前半まで売られる。
6/26 神田・財務官 「行き過ぎた動きに対して必要な対応を取る」と述べ、「特定の相場水準を対象には考えておらず、あくまで投機などによる急激な変動あるいは無秩序な動きに対して対応する方針に変わりはない」、「最近の円安の進行には深刻な懸念を有している」、「高い緊張感を持って市場の動向を注視している」 ドル円が160円台半ばまで上昇した際に。発言を受けやや円が買い戻されたが、直ぐに円売りが再燃。
6/25 クック・FRB理事 「インフレが大幅に改善し、労働市場が徐々に冷え込む状況では、経済の健全なバランスを維持するために政策の抑制度合いを緩和することが、ある時点で適切となるだろう」、「3カ月と6カ月先のインフレ率は23年下期(7−12月)に見られたような『良好な数字』と類似したものになると予想している」 --------
6/25 ボウマン・FRB理事 「経済見通しを巡るリスクと不確実性を踏まえ、政策スタンスの将来的な変更を検討するアプローチにおいて、私は慎重姿勢を保つつもりだ」 --------
6/24 デーリー・SF連銀総裁 「労働市場の調整は今のところ緩やかで、失業率は小幅にしか上昇していない。しかし、このような緩やかな展開になる可能性が低下する時点に近づいている」 --------
6/24 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「インフレに関してここ1カ月に見られたようなデータがさらに数カ月続き、実体経済の他の部分の状況も鈍化した場合、『これまでのような景気抑制的な政策を維持すべきなのだろうか』という疑問を持ち始めざるを得なくなる」、「インフレ率が当局目標の2%に向けて低下しているという確信をもう少し強められると期待している」 --------
6/20 米財務省 「財務省としては、自由に取引される大規模な為替市場で介入は適切な事前協議を伴う形で極めて例外的な状況に限定されるべきだ」、「日本は為替運営の点で透明性がある」 日本を為替「監視リスト」に追加。ドル円の上昇要因となり、ドル円は158円95銭まで買われる。
6/20 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 (米金融当局はインフレ率を目標の2%へと引き下げるとしつつも)、「それには1、2年かかる可能性が高い」 ドル円の上昇要因となり、ドル円は158円95銭まで買われる。
6/20 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「今回のインフレの数字は非常に心強いもので、こうした数字がさらに得られるなら、利下げは可能だというのが私の見解だ」 --------
6/18 植田・日銀総裁 (7月会合までに入手できる経済・物価・金融情勢い関するデータや情報次第としながらも)、「場合によっては政策金利が引き上げられるということも十分あり得るというふうに考えている」、「基調的な物価上昇率がしっかりと高まっていくかどうか、もう少し引き続き点検していく必要があると考えた」 やや円を買い戻す動きもあり、ドル円は小幅に下落。
6/17 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁 「現時点における自身の予想に基づけば、年内1回の利下げが適切だ。ただ、利下げの前にさらに数ケ月のインフレ改善を確認したい」 --------
6/14 メスター・クリーブランド連銀総裁 「インフレに対するリスクはまだ上向きだと考えている。労働市場へのリスクは両方向だと思う」、(今年1回の利下げを示唆した最新のFOMC予想について)、「自分の経済予測とかなり近い」 --------
6/14 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「インフレ率が2%に戻りつつあることを確信するには、もっと多くの証拠が必要だ。われわれは現在、何らかの意思を決定する前に時間をかけてインフレ統計、および経済や労働市場に関するデータをさらに見られる非常に良い位置にいる」、「年内に1回の利下げがあるとすれば、年末に向けて行われる公算が大きい」 --------
6/12 パウエル・FRB議長 「最近のインフレ指標は今年の早い時期より良好な内容で、われわれのインフレ目標に向けて緩慢なる一段の進展が見られている」、「インフレ率が持続的に2%に向っているという確信を強めるには、良好なデータをさらに目にする必要がある」、「今回の統計が確信を強める上では前進と言えるが、現時点での利下げを正当化するほどではない」 ドル円は155円台から156円台に反発。
6/12 FOMC声明文 「最近の複数の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している。雇用の伸びは強さを維持しており、失業率は低いままだ。インフレはこの1年で緩和したが、依然として高い水準にある。委員会は目標実現のため、FF金利誘導目標レンジを5.25−5.5%に据え置くことを決めた。委員会はインフレ率を目標の2%に戻すことに強くコミットしている」 --------
6/10 ラガルド・ECB総裁 「われわれは適切な決定を下したが、それは金利が直線的な低下軌道にあることを意味するものではない」、「われわれは新たな見通しが立った時のみならず、あらゆる段階で再評価を行う」、「ディスインフレは十分に進行しており、向こう1年半にわたり継続すると考えている。そのため金利を引き下げる可能性がある。だが、まだ勝利宣言はしない」 --------
6/6 ホルツマン・オーストリア中銀総裁 「年内3回のECB利下げという当初の想定が現実になり、一方でFRBが相応の動きをしなかった場合、為替レートやインフレ率に影響を与えることは間違いない」、「さまざまな意見がかわされたが、政策委員会の見解は他に方法はないというものだった」 --------
6/6 ラガルド・ECB総裁 「今日から利上げを巻き戻す段階に移行するのかと聞かれれば、そうだとは言わない。その可能性は極めて高いが、データ次第だろう。非常に不確実なのは、われわれが進むスピードとそれに要する時間だ」、「委員会は引き続き、会合ごとのアプローチを取る。特定の金利の道筋をあらかじめ約束はしない。利下げ決定は1人を除く全員が同意した」 タカ派的な内容だったためユーロドルは1.09台まで買われる。
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和