「ドル円3月以来となる150円割れ」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- ドル円は日米の金融会合の結果を受け急落。日銀決定会合後は151円台に急落したが直ぐに反発。NYではパウエル議長が9月会合での利下げを示唆したことやADP雇用者数の結果を受け、149円61銭までドル安が進む。
- ユーロドルは蚊帳の外。この日も1.08台前半から半ばで推移。
- 株式市場ではパウエル議長が9月利下げを示唆したことで3指数が上昇。特にハイテク株が買われ、ナスダックは451ポイントの大幅高。
- 債券は続伸。長期金利は2月以来の低水準となる4.03%台へと低下。
- 金と原油は上昇。
7月ADP雇用者数 → 12.2万人
4−6月雇用コスト指数 → 0.9%
7月シカゴ購買部協会景気指数 → 45.3
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ドル/円 | 149.61 〜 151.26 |
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ユーロ/ドル | 1.0802 〜 1.0849 |
ユーロ/円 | 162.02 〜 163.43 |
NYダウ | +99.46 → 40,842.79ドル |
GOLD | +21.10 → 2,473.00ドル |
WTI | +3.18 → 77.91ドル |
米10年国債 | −0.110 → 4.030% |
本日の注目イベント
- 豪 豪4−6月四半期輸入物価指数
- 豪 豪6月貿易収支
- 中 7月財新製造業PMI
- 独 独7月製造業PMI(改定値)
- 欧 ユーロ圏6月失業率
- 欧 ユーロ圏7月製造業PMI(改定値)
- 英 英7月製造業PMI(改定値)
- 英 BOE金融政策発表
- 米 7月S&Pグローバル製造業PMI(改定値)
- 英 BOE金融政策委員会(MPC)議事録
- 米 新規失業保険申請件数
- 米 7月ISM製造業景況指数
- 米 企業決算 → アップル、インテル、アマゾン
本日のコメント
日米の金融会合の結果を受けドル円は乱高下しましたが、結局3月19日以来となる150円割れまでドル安が進みました。
昨日の日銀決定会合は、かなり議論が紛糾したのか結果発表が遅く、市場参加者はいまかいまかと待ちくたびれた格好でした。発表は午後1時前で、結果は前日に日経電子版やNHKが報じた通り、0.25%への利上げと債券購入額を概ね3兆円に減額するというものでした。ただ、事前に漏れていた情報通りとはいえ、「利上げと債券購入減額を同時に決めた」ことで発表直後は円が急騰し、152円台半ばから151円62銭辺りまでドルが売られましたが、今度はそこから153円88銭あたりまで瞬時にドルが買われるといった荒っぽい動きでした。植田総裁は会見で、「2%を超えるインフレはかなり長く続いている。2%からさらに上にいってしまうリスクもある」と、今回利上げを決めた背景を説明していました。総裁は4月の会合後の記者会見では、「基調的な物価上昇率にここまで円安が大きな影響を与えているということではない」と述べており、基本的には金融政策は為替相場の影響を受けないとしていましたが、最早、完全に「金融政策は為替の水準に影響される」ということです。今後も物価上昇が続き、その要因に為替の水準があるとすれば、さらなる追加利上げもあり得るという極めて「タカ派的」な姿勢を見せていました。
FOMCの結果とパウエル議長の会見は想定通りでした。FOMCでは8会合連続で政策金利の据え置きを決めました。パウエル議長は会見で、「問題となるのは、データの全体像や変化する見通し、リスクバランスがインフレに対する確信の強まり、そして堅調な労働市場の維持と整合するかどうかだ」と指摘し、「そのテストが満たされれば、早ければ次回9月会合で政策金利の引き下げが選択肢になり得る」と、次回会合での利下げを示唆しています。ただ、0.5ポイントの利下げ見通しに関する質問に対しては、「現時点で考えているものではない」と答えていました。ほぼ予想通りでしたが、焦点は9月会合で利下げが実施された後、年内に2回目の利下げがあるのかどうかという点です。もちろん今後のデータ次第ですが、インフレが思ったほど減速せず、労働市場も強めの結果を示す可能性はまだくずぶっていると思います。
ドル円は150円を割り込み、急激に円売りが解消されつつあります。今回の日銀会合では、「利上げはない」というのが市場のコンセンサスだっただけに、市場の反応も大きかったのではないかと思われます。結果的に、7月31日に150円の大台を割り込みましたが、この日はご存知のように、退任する神田財務官の最後の日だったというのも、何か巡り合わせのようなものを感じます。財務省は昨日、6月27日−7月29日の為替介入額が5兆5348億円だったと発表しました。7月11、12日には不自然な円高方向への動きがありましたが、やはり介入だったことが分かります。経済紙はこれまで介入の第一線で指揮をとってきたことで、「神田介入」とか、「新ミスター円」などと称しています。一時162円に迫る水準だったところから149円台まで円安は修正されましたが、考えてみれば今年1月はまだ140円台だったわけです。20円程水準が上がって、その半分を戻したことになります。今日から8月ですが、まだまだ荒っぽい相場は続きそうです。
本日のドル円は149円〜151円程度でしょうか、まだ昨日の余韻が残っていそうです。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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7/31 | パウエル・FRB議長 | 「問題となるのは、データの全体像や変化する見通し、リスクバランスがインフレに対する確信の強まり、そして堅調な労働市場の維持と整合するかどうかだ」、「そのテストが満たされれば、早ければ次回9月会合で政策金利の引き下げが選択肢になり得る」、(0.5ポイントの利下げ見通しに関する質問に対しては)、「現時点で考えているものではない」 | 株と債券が大きく買われ、ドル円は151円台から149円台半ばまで急落。 |
7/31 | 植田・日銀総裁 | 「2%を超えるインフレはかなり長く続いている。2%からさらに上にいってしまうリスクもある」 | -------- |
7/25 | イエレン・財務長官 | 「米国では数年前から、金融引き締め政策が敷かれており、金利が他国より高い水準にある」と指摘。「そのために資金が流入し、ドルが強くなる」、「こうした状況は当然予想されるものだ。システムはこのように機能すべきものだ」、「米国も一員であるG7は市場で決定される為替レ―トにコミットしており、介入は不自然なボラティリティーが起きた状況においてのみ、パートナー国との協議で行われるべきだ」(ブラジルでのG20会合で) | -------- |
7/21 | バイデン大統領 | 「再選を目指す意向であったが、私が身を引き、残りの任期に大統領として職務を全うすることに専念することが、党と国にとって最大の利益であると信じる」、「私は、カマラ(ハリス副大統領)が今年選挙での民主党の候補者になることを全面的に支持する。民主党とわが国全体を団結させるため全力を尽くす」 | -------- |
7/17 | トランプ・前大統領 | 「パウエル議長には任期を全うしてもらう」、「われわれは大きな通貨問題を抱えている」、「強いドルが問題だ」、(FRBによる利下げについては)、「11月の大統領選までには利下げを行わないよう」 | ドル安が加速。157円台から156円台前半に。 |
7/17 | ウォラー・FRB理事 | 「最終地点に到達したとは考えていないが、政策金利の引き下げが正当化される時期に近づいていると思う」 | -------- |
7/17 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「われわれが求めているディスインフレトレンドに近づいている。これは前向きな兆しだ。インフレが目標の2%に持続的に向かっているとの確信を深めるため、さらに多くのデータを確認したい」 | -------- |
7/17 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「最近のディスインフレの広がりは心強いが、それが持続する証左を、まだなお探している」 | -------- |
7/15 | パウエル・FRB議長 | 「1−3月(第1四半期)には自信を高めさせるものは何も得られなかった。だが、先週発表された一つを含む第2四半期の三つの指標で、幾分自信は深まった」、「インフレが鈍化し、労働市場は実際に冷えてきた。われわれは両方の責務に目を向けるつもりだ。これらのバランスは改善している」 | ややドルが売られ、債券と株は買われる。 |
7/11 | デーリー・総裁SF連銀総裁 | 「現時点において物価安定と完全雇用という当局が責務を負う目標へのリスクは、一段とバランスが取れてきており、金融政策が機能しつつあるのは明白だ」と発言し、「雇用やインフレ、GDP、景気見通しに関するデータなど、これまでに得られた情報を考慮すると、何らかの政策調整が正当化される可能性が高い」 | -------- |
7/11 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレ率が2%の物価目標に向って下げていることを示す待望の証左を得られた」、「上々だ。強く勇気づけられる」 市場への影響: | -------- |
7/11 | パウエル・FRB議長 | 「2%の物価目標達成に確信はあるのか」と質問された議長は、「確信はある程度ある」、「問題は、2%に向けて持続的に低下していると十分に確信しているかということだ。私にはまだそう言う用意はない」、「インフレに関する仕事は終わっていない。やるべきことはまだある」 | 株価は大幅に上昇し、ドル円も161円81銭まで買われる。 |
7/2 | パウエル・FRB議長 | 「米経済は力強く、労働市場も強いことから、われわれは時間をかけて正しく対応することが可能だ」、「それがわれわれの計画だ」、(前回のインフレ統計とその前のデータについて)、「ディスインフレの軌道に戻りつつあることを示唆している」、「最近見られたようなデータがさらに続くのが望ましい」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は161円台前半まで売られる。 |
6/26 | 神田・財務官 | 「行き過ぎた動きに対して必要な対応を取る」と述べ、「特定の相場水準を対象には考えておらず、あくまで投機などによる急激な変動あるいは無秩序な動きに対して対応する方針に変わりはない」、「最近の円安の進行には深刻な懸念を有している」、「高い緊張感を持って市場の動向を注視している」 | ドル円が160円台半ばまで上昇した際に。発言を受けやや円が買い戻されたが、直ぐに円売りが再燃。 |
6/25 | クック・FRB理事 | 「インフレが大幅に改善し、労働市場が徐々に冷え込む状況では、経済の健全なバランスを維持するために政策の抑制度合いを緩和することが、ある時点で適切となるだろう」、「3カ月と6カ月先のインフレ率は23年下期(7−12月)に見られたような『良好な数字』と類似したものになると予想している」 | -------- |
6/25 | ボウマン・FRB理事 | 「経済見通しを巡るリスクと不確実性を踏まえ、政策スタンスの将来的な変更を検討するアプローチにおいて、私は慎重姿勢を保つつもりだ」 | -------- |
6/24 | デーリー・SF連銀総裁 | 「労働市場の調整は今のところ緩やかで、失業率は小幅にしか上昇していない。しかし、このような緩やかな展開になる可能性が低下する時点に近づいている」 | -------- |
6/24 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレに関してここ1カ月に見られたようなデータがさらに数カ月続き、実体経済の他の部分の状況も鈍化した場合、『これまでのような景気抑制的な政策を維持すべきなのだろうか』という疑問を持ち始めざるを得なくなる」、「インフレ率が当局目標の2%に向けて低下しているという確信をもう少し強められると期待している」 | -------- |
6/20 | 米財務省 | 「財務省としては、自由に取引される大規模な為替市場で介入は適切な事前協議を伴う形で極めて例外的な状況に限定されるべきだ」、「日本は為替運営の点で透明性がある」 | 日本を為替「監視リスト」に追加。ドル円の上昇要因となり、ドル円は158円95銭まで買われる。 |
6/20 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | (米金融当局はインフレ率を目標の2%へと引き下げるとしつつも)、「それには1、2年かかる可能性が高い」 | ドル円の上昇要因となり、ドル円は158円95銭まで買われる。 |
6/20 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「今回のインフレの数字は非常に心強いもので、こうした数字がさらに得られるなら、利下げは可能だというのが私の見解だ」 | -------- |
6/18 | 植田・日銀総裁 | (7月会合までに入手できる経済・物価・金融情勢い関するデータや情報次第としながらも)、「場合によっては政策金利が引き上げられるということも十分あり得るというふうに考えている」、「基調的な物価上昇率がしっかりと高まっていくかどうか、もう少し引き続き点検していく必要があると考えた」 | やや円を買い戻す動きもあり、ドル円は小幅に下落。 |
6/17 | ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁 | 「現時点における自身の予想に基づけば、年内1回の利下げが適切だ。ただ、利下げの前にさらに数ケ月のインフレ改善を確認したい」 | -------- |
6/14 | メスター・クリーブランド連銀総裁 | 「インフレに対するリスクはまだ上向きだと考えている。労働市場へのリスクは両方向だと思う」、(今年1回の利下げを示唆した最新のFOMC予想について)、「自分の経済予測とかなり近い」 | -------- |
6/14 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「インフレ率が2%に戻りつつあることを確信するには、もっと多くの証拠が必要だ。われわれは現在、何らかの意思を決定する前に時間をかけてインフレ統計、および経済や労働市場に関するデータをさらに見られる非常に良い位置にいる」、「年内に1回の利下げがあるとすれば、年末に向けて行われる公算が大きい」 | -------- |
6/12 | パウエル・FRB議長 | 「最近のインフレ指標は今年の早い時期より良好な内容で、われわれのインフレ目標に向けて緩慢なる一段の進展が見られている」、「インフレ率が持続的に2%に向っているという確信を強めるには、良好なデータをさらに目にする必要がある」、「今回の統計が確信を強める上では前進と言えるが、現時点での利下げを正当化するほどではない」 | ドル円は155円台から156円台に反発。 |
6/12 | FOMC声明文 | 「最近の複数の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している。雇用の伸びは強さを維持しており、失業率は低いままだ。インフレはこの1年で緩和したが、依然として高い水準にある。委員会は目標実現のため、FF金利誘導目標レンジを5.25−5.5%に据え置くことを決めた。委員会はインフレ率を目標の2%に戻すことに強くコミットしている」 | -------- |
6/10 | ラガルド・ECB総裁 | 「われわれは適切な決定を下したが、それは金利が直線的な低下軌道にあることを意味するものではない」、「われわれは新たな見通しが立った時のみならず、あらゆる段階で再評価を行う」、「ディスインフレは十分に進行しており、向こう1年半にわたり継続すると考えている。そのため金利を引き下げる可能性がある。だが、まだ勝利宣言はしない」 | -------- |
6/6 | ホルツマン・オーストリア中銀総裁 | 「年内3回のECB利下げという当初の想定が現実になり、一方でFRBが相応の動きをしなかった場合、為替レートやインフレ率に影響を与えることは間違いない」、「さまざまな意見がかわされたが、政策委員会の見解は他に方法はないというものだった」 | -------- |
6/6 | ラガルド・ECB総裁 | 「今日から利上げを巻き戻す段階に移行するのかと聞かれれば、そうだとは言わない。その可能性は極めて高いが、データ次第だろう。非常に不確実なのは、われわれが進むスピードとそれに要する時間だ」、「委員会は引き続き、会合ごとのアプローチを取る。特定の金利の道筋をあらかじめ約束はしない。利下げ決定は1人を除く全員が同意した」 | タカ派的な内容だったためユーロドルは1.09台まで買われる。 |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書