「ドル安と株安が止まらず」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 7月の米雇用統計を受けドル円は大きく続落。146円42銭まで売られ、この日だけで約3円もの大幅なドル安が進む。
- ユーロドルでも小幅にドル安が進み、ユーロは1.0926まで上昇。ユーロ円は大きく下げ、159円70銭前後まで売られる。
- 株式市場は3指数が揃って大幅続落。
- 債券価格も急騰。株式市場から債券市場へ資金が流れ、10年債は大きく買われる。長期金利は3.79%台へと大幅に低下。
- 金は小幅に反落。原油は米景気の減速懸念から2ドル79セント下落。
7月失業率 → 4.3%
7月非農業部門雇用者数 → 11.4万人
7月平均時給 (前月比) → 0.2%
7月平均時給 (前年比) → 3.6%
7月労働参加率 → 62.7
7月製造業受注 → −3.3%
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ドル/円 | 146.42 〜 149.11 |
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ユーロ/ドル | 1.0830 〜 1.0926 |
ユーロ/円 | 159.70 〜 161.17 |
NYダウ | −610.71 → 39,737.26ドル |
GOLD | −11.00 → 2,469.80ドル |
WTI | −2.79 → 73.52ドル |
米10年国債 | −0.180 → 3.790% |
本日の注目イベント
- 中 7月財新サービス業PMI
- 独 独7月サービス業PMI(改定値)
- 欧 ユーロ圏6月卸売物価指数
- 欧 ユーロ圏7月総合PMI(改定値)
- 欧 ユーロ圏7月サービス業PMI(改定値)
- 米 7月ISM非製造業景況指数
- 米 7月S&Pグローバルサービス業PMI(改定値)
- 米 7月S&Pグローバル総合PMI(改定値)
- 米 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁、討論会に参加
本日のコメント
ドルと株価の下落が止まりません。7月の米雇用統計の結果を受け、ドル売り、株売り、債券買いがさらに進み、ドル円は一時146円42銭まで売られました。さらに週明け早朝にはわずかですが、146円を割り込む場面もありました。今週は145円を割り込むのかどうかが一つ焦点になりそうです。145円の節目を割り込むようだと、新たに140−145円のレンジに入る可能性もありそうですが、個人的には仮に145円を割り込んでも、そろそろ一旦揺り戻しが入ってもいい水準に来ているのではないかと考えています。日銀の想定外の「利上げ」に円高が急速に進み、円高を嫌気して日経平均株価が急落。日本株が、震源地である米国株よりもはるかに大幅に売られる展開に、相変わらず「米国がくしゃみをすれば、日本が風邪をひく」という、日本株の弱さを露呈した格好になっています。
それにしても米労働市場に急ブレイキがかかっています。先に発表された「ADP雇用者数」や、「週間失業保険申請件数」からも、雇用の伸びが鈍化していることは推測されていましたが、結果はその通りでした。7月の「失業率」は4.3%と、市場予想を越え2021年10月の4.6%以来となる高水準でした。非農業部門雇用者数(NFP)は「11.2万」とこちらも市場予想の「17.5万人」を大きく下回り、さらに6月分が「20.6万人」から「17.9万人」に、5月分が「21.8万人」から「21.6万人」にそれぞれ下方修正されました。その結果、より趨勢を確認できる3カ月平均では「16.9万人」と、好調だとされる「20万人」を大きく割り込んできました。
好調だった米労働市場の下振れの大きさから、金利先物市場ではFRBの年内利下げの回数を「3回」と織り込む動きになっています。大手米銀も、9月と11月に「0.5ポイント」の利下げと、12月に「0.25ポイント」の利下げがあるとの予想を発表しています。先週のFOMCで政策金利の据え置きが決定された後の会見で、0.5ポイントの利下げ見通しに関する質問を受けパウエル議長は、「現時点で考えているものではない」と答えていました。今回の雇用統計を経て、市場の見方が大きく変わってきたと言えます。仮に、この予想通りに利下げが行われれば、現在5.25−5.5%のフェデラルファンド(FF)金利誘導目標は4.00−4.25%になることになり、日米金利差がかなり縮小することになります。FRBが意図的に景気抑制的な政策を維持し、成長を抑えてきたわけですから、景気が減速するのは当然ですが、ここにきて市場からは米景気の「ハードランディング」を予想する声も出始めて来ました。その可能性は低いとは思いますが、FRBがブレイキを長く踏み込み過ぎたことで、景気後退に陥るリスクも意識されることから、今度はブレイキペダルから足を離し、走行ペダルへと踏み変えるタイミングを模索している状況とも言えます。
7月の雇用統計の結果を踏まえたコメントもFOMCメンバーから入っています。シカゴ連銀のグールズビー総裁は、「単月の数字に過剰反応したくない」と述べ、しかし、「失業率が中立の水準よりも高くなる場合、それはまさに当局が法律で考慮と対応を義務付けられている責務の、もう一方に痛みが及んでくることになる」と指摘し、その上で、「状況が利下げを正当化するとき、1回の引き下げにとどまらない傾向がある」と話しています。(ブルームバーグ)
本稿執筆を終えようとしている今、ドル円は再び下落に転じ145円60銭まで売られています。株価もおそらく大きく下げるかと思いますが、株価の下げを睨みながらドル円を売る流れが続きそうです。
本日のドル円は144円50銭〜147円50銭程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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8/2 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「単月の数字に過剰反応したくない」、「失業率が中立の水準よりも高くなる場合、それはまさに当局が法律で考慮と対応を義務付けられている責務の、もう一方に痛みが及んでくることになる」、「状況が利下げを正当化するとき、1回の引き下げにとどまらない傾向がある」 | -------- |
7/31 | パウエル・FRB議長 | 「問題となるのは、データの全体像や変化する見通し、リスクバランスがインフレに対する確信の強まり、そして堅調な労働市場の維持と整合するかどうかだ」、「そのテストが満たされれば、早ければ次回9月会合で政策金利の引き下げが選択肢になり得る」、(0.5ポイントの利下げ見通しに関する質問に対しては)、「現時点で考えているものではない」 | 株と債券が大きく買われ、ドル円は151円台から149円台半ばまで急落。 |
7/31 | 植田・日銀総裁 | 「2%を超えるインフレはかなり長く続いている。2%からさらに上にいってしまうリスクもある」 | -------- |
7/25 | イエレン・財務長官 | 「米国では数年前から、金融引き締め政策が敷かれており、金利が他国より高い水準にある」と指摘。「そのために資金が流入し、ドルが強くなる」、「こうした状況は当然予想されるものだ。システムはこのように機能すべきものだ」、「米国も一員であるG7は市場で決定される為替レ―トにコミットしており、介入は不自然なボラティリティーが起きた状況においてのみ、パートナー国との協議で行われるべきだ」(ブラジルでのG20会合で) | -------- |
7/21 | バイデン大統領 | 「再選を目指す意向であったが、私が身を引き、残りの任期に大統領として職務を全うすることに専念することが、党と国にとって最大の利益であると信じる」、「私は、カマラ(ハリス副大統領)が今年選挙での民主党の候補者になることを全面的に支持する。民主党とわが国全体を団結させるため全力を尽くす」 | -------- |
7/17 | トランプ・前大統領 | 「パウエル議長には任期を全うしてもらう」、「われわれは大きな通貨問題を抱えている」、「強いドルが問題だ」、(FRBによる利下げについては)、「11月の大統領選までには利下げを行わないよう」 | ドル安が加速。157円台から156円台前半に。 |
7/17 | ウォラー・FRB理事 | 「最終地点に到達したとは考えていないが、政策金利の引き下げが正当化される時期に近づいていると思う」 | -------- |
7/17 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「われわれが求めているディスインフレトレンドに近づいている。これは前向きな兆しだ。インフレが目標の2%に持続的に向かっているとの確信を深めるため、さらに多くのデータを確認したい」 | -------- |
7/17 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「最近のディスインフレの広がりは心強いが、それが持続する証左を、まだなお探している」 | -------- |
7/15 | パウエル・FRB議長 | 「1−3月(第1四半期)には自信を高めさせるものは何も得られなかった。だが、先週発表された一つを含む第2四半期の三つの指標で、幾分自信は深まった」、「インフレが鈍化し、労働市場は実際に冷えてきた。われわれは両方の責務に目を向けるつもりだ。これらのバランスは改善している」 | ややドルが売られ、債券と株は買われる。 |
7/11 | デーリー・総裁SF連銀総裁 | 「現時点において物価安定と完全雇用という当局が責務を負う目標へのリスクは、一段とバランスが取れてきており、金融政策が機能しつつあるのは明白だ」と発言し、「雇用やインフレ、GDP、景気見通しに関するデータなど、これまでに得られた情報を考慮すると、何らかの政策調整が正当化される可能性が高い」 | -------- |
7/11 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレ率が2%の物価目標に向って下げていることを示す待望の証左を得られた」、「上々だ。強く勇気づけられる」 市場への影響: | -------- |
7/11 | パウエル・FRB議長 | 「2%の物価目標達成に確信はあるのか」と質問された議長は、「確信はある程度ある」、「問題は、2%に向けて持続的に低下していると十分に確信しているかということだ。私にはまだそう言う用意はない」、「インフレに関する仕事は終わっていない。やるべきことはまだある」 | 株価は大幅に上昇し、ドル円も161円81銭まで買われる。 |
7/2 | パウエル・FRB議長 | 「米経済は力強く、労働市場も強いことから、われわれは時間をかけて正しく対応することが可能だ」、「それがわれわれの計画だ」、(前回のインフレ統計とその前のデータについて)、「ディスインフレの軌道に戻りつつあることを示唆している」、「最近見られたようなデータがさらに続くのが望ましい」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は161円台前半まで売られる。 |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書