「パウエル議長『利下げは急がない』」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 東京時間に156円台に乗せたドル円はNYではパウエル議長のややタカ派的発言もあり、156円41銭まで上昇。利下げ観測がやや後退。
- ユーロドルは続落。1.0513まで売られ、終始1.05台で推移。
- 株式市場では3指数が揃って下げる。「トランプトレード」にもやや陰りが出て、ダウは今週記録した最高値から500ドル程の下げに。
- 債券は反発。長期金利は東京時間に付けた4.48%台から4.43%台へと低下。
- ドル高が重荷となり金は5日続落。原油は小幅に3日続伸。
新規失業保険申請件数 → 21.7万件
10月生産者物価指数 → 0.2%
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ドル/円 | 155.53 〜 156.41 |
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ユーロ/ドル | 1.0513 〜 1.0583 |
ユーロ/円 | 163.94 〜 164.98 |
NYダウ | −207.33 → 43,750.86 |
GOLD | −13.60 → 2,572.90ドル |
WTI | +0.27 → 68.70ドル |
米10年国債 | −0.016 → 4.435% |
本日の注目イベント
- 日 7−9月GDP(速報値)
- 日 9月鉱工業生産(確定値)
- 中 中国10月小売売上高
- 中 中国10月鉱工業生産
- 英 英7−9月期GDP(速報値)
- 英 英9月鉱工業生産
- 米 10月小売売上高
- 米 11月NY連銀製造業景況指数
- 米 10月輸入物価指数
- 米 10月輸出物価指数
- 米 10月鉱工業生産
- 米 10月設備稼働率
- 米 コリンズ・ボストン連銀総裁、開会の挨拶
- 米 ウィリアムズ・NY連銀総裁、開会の挨拶
本日のコメント
ドル円は緩やかに、しかし確実に上昇しています。昨日も東京時間に156円台に乗せ、NYでは一時156円41銭までドルが買われました。ただ昨日の動きはこれまでの「トランプトレード」に支えられたものではなく、米長期金利が低下しているにもかかわらずドル高は維持されており、今朝7時の時点でも156円20銭前後と、NY市場でのドルの高値圏で推移しています。
昨日のドル堅調の背景は、やはりパウエル議長の発言を素直に反映したものと思います。注目されたパウエル議長の講演で、議長は「最近の経済は目覚ましく良好に推移している。慎重なペースで政策金利を引き下げる余地が生じている」と述べ、「経済は、利下げを急ぐ必要性についていかなるシグナルも発していない。労働市場の状況は概ね均衡し、インフレ期待もかなり安定する中で、インフレ率は時に起伏のある道をたどりながらも、2%の目標に向かって引き続き低下していくと予想している。また、経済データが許せば、利下げをゆっくり進めるのが賢明だろう」と発言し、「利下げは急がない」との認識を示しました。この日は他にもFRBのクーグラー理事も講演を行い、同理事は「インフレの進展を停滞させる、あるいは再び加速させるリスクが生じれば、政策金利の引き下げを一時停止するのが適切となるだろう。しかし、労働市場が突然減速する場合、政策金利の漸進的な引き下げを継続することが適切だろう」と述べ、パウエル議長ほどタカ派的ではなかった印象です。また、リッチモンド連銀のバーキン総裁も講演の中で、「米金融当局は大きな進展を遂げた」としながらも、「まだ勝利宣言をすることは出来ない」と慎重な姿勢を維持していました。
これら3氏の発言を受け、債券先物市場では12月のFOMC会合での利下げ確率はやや低下しましたが、それでもまだコンセンサスとしては「25bpの利下げ」がメインシナリオです。ただ昨日の米株式市場では「トランプトレード」がやや息切れしてきたように、来年1月から始動するトランプ氏の政策が「インフレにつながり、金利の上昇圧力が増す」との見方も、市場は先行していますが、実はまだ不確実です。同時にトランプ流の政策を推し進める中で「暴走」も懸念されます。実際、政策が実行に移されインフレがどの程度再燃するのかどうかは未知数です。そのような状況の中、FRBが追加利下げを実施するのもリスクがあると考え、筆者は現時点では「政策金利据え置き」と予想しています。もちろん、今後のデータ次第では「撤収を余儀なくされる」可能性もあります。
ヘッジファンドなど、投機筋のドル円のポジションは再び「ドル買い・円売り」を加速させています。11月5日時点でのシカゴ・マーカンタイル・エクスチェンジ(CME)におけるポジションは「4万4167枚の円売り」に傾いています。8月中旬には、それまでの「円売り」から「円買い」のポジションに転換し、その過程でドル円が大きく下落しましたが、わずか2カ月ほどで再び「円売り」に転じています。この「ネットポジション」の推移と、ドル円の動きは常に一致しているわけではありませんが、投機筋は再びドルが上昇すると読んでいるようです。ドルの金利が常に円の金利を上回る状況が続いている以上、よほどドル安が進むという「強い確信」がない限り「ドルショート」を長期間にわたり維持するのは難しい点はあります。今後このポジションがどの程度伸びていくのかにも関心があります。
市場介入が意識される水準に一歩一歩近づいていると思われますが、本日は金曜日ということもあり、注意する必要があるかもしれません。
本日のドル円は155円〜157円程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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11/14 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「米金融当局は大きな進展を遂げたが、まだ勝利宣言をすることは出来ない」 | -------- |
11/14 | クーグラー・FRB理事 | 「インフレの進展を停滞させる、あるいは再び加速させるリスクが生じれば、政策金利の引き下げを一時停止するのが適切となるだろう。しかし、労働市場が突然減速する場合、政策金利の漸進的な引き下げを継続することが適切だろう」 | -------- |
11/14 | パウエル・FRB議長 | 「最近の経済は目覚ましく良好に推移している。慎重なペースで政策金利を引き下げる余地が生じている」、「経済は、利下げを急ぐ必要性についていかなるシグナルも発していない。労働市場の状況は概ね均衡し、インフレ期待もかなり安定する中で、インフレ率は時に起伏のある道をたどりながらも、2%の目標に向かって引き続き低下していくと予想している。また、経済データが許せば、利下げをゆっくり進めるのが賢明だろう」 | ややタカ派的であったことからドル円は156円41銭まで上昇。 |
11/13 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「インフレは正しい方向に進んでいると考える。その点について自信を持っているが、もう少し様子を見る必要がある。何らかの決定を下す前に、さらに1カ月もしくは6週間のデータを分析しなくてはならない」 | -------- |
11/13 | ローガン・ダラス連銀総裁 | 「終着点に達するまでFOMCはさらに追加利下げを必要とする可能性が高いだろう。しかし、利下げの回数やペースを見極めるのは難しい」 | -------- |
11/13 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「インフレを目標に回帰させ、最大限の雇用を支える上で、金融政策は好位置にある。政策金利を時間とともに中立水準へ漸進的に調整することを通じて、これらの達成を図っている。インフレが2%に向って低下し続けることが前提だ」、「追加利下げを検討する際には、今後入手するデータを思慮深く、かつ辛抱強く検証することが可能だ」 | -------- |
11/12 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | (来月のFOMC会合での利下げ一時停止の可能性について尋ねられ)、「インフレ面で驚くようなことが起こらない限り、見通しが劇的に変わることはないだろう」、「それまでにインフレが予想外の上振れを見せれば、利下げを一時停止する可能性もある。一方で、12月までに労働市場が実際に過熱するとは考えにくく、それほど時間はない」 | -------- |
11/12 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「購買力は高いが価格に敏感な消費者に、より生産的で価値の高い労働力が重なり、経済を良好な方向に導いた。米金融当局は経済が今後どう展開しても適切に対応できる状態にある」、(今後の経済シナリオについては)「1つは、米選挙を巡る不透明感が消え、企業が投資・雇用を再開した場合、金融当局としてインフレの上振れリスクを警戒するシナリオ。2つ目は購買力低下による利幅縮小に対応して企業が人員を削減、その結果として雇用リスクが上昇するシナリオだ」 | -------- |
11/9 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「利下げ幅は、議会と新政権の目先の計画ではなく、生産性と経済成長にかかっている。成長が維持され、今後も構造的に生産性に高い経済成長が続くのであれば、恐らくそれほど大きな利下げには至らないだろう」と、「トランプ時期政権と新議会による政策はインフレを刺激し、最終的に利下げ幅の縮小につながるかどうかを判断するのは時期尚早」 | -------- |
11/7 | パウエル・FRB議長 | 「われわれは時間をかけてより中立的なスタンスへと移行しており、そうした中で今回の政策スタンスのさらなる調整は、経済と労働市場の強さを維持する一助となり、インフレ面でのさらなる進展を今後も可能にするだろう」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことで153円台から152円70銭まで下落。 |
11/7 | FOMC声明文 | 「委員会は雇用とインフレ目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると考える。経済見通しは不確かで、委員会は2つの責務の両サイドに対するリスクに注意を払っている」、「今年に入って以降、労働市場の状況は概ね緩和してきた。失業率は上昇したが、依然として低い水準だ」、「委員会は最大限の雇用を支え、インフレ率を目標の2%に戻すことを強くコミットしている」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことで153円台から152円70銭まで下落。 |
10/21 | デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 | 「これまでのところ、われわれが利下げを続けないことを示唆する情報は見当たらない」、「インフレ率が既に2%に向かいつつある経済にとって、極めて引き締め的な金利となっており、労働市場のさらなる悪化を私は望まない」、「われわれは現在の経済情勢と変化しつつある状況に適合するよう、政策を調整し続けていく」 | -------- |
10/21 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「中立的な水準に到達する上で、私は今後数四半期にわたってより緩やかな利下げを予想している。ただし、それはデータ次第にある」、「より早いペースで動くためには、労働市場が急速に弱くなっているという確かな証拠が必要だ」 | 債券が売られ金利が上昇。ドル円は149円台後半から150円台後半に。 |
10/21 | ローガン・ダラス連銀総裁 | 「2大責務のインフレと労働市場に対するリスクのバランスを取る上で、それほど景気抑制的でない金融政策が寄与する。景気が現在の想定通りに進展すれば、政策金利をより正常または中立的水準に向けて徐々に引き下げる戦略は、リスクを管理し、目標を達成するのに役立つだろう。しかし、正常化への道筋がどのようなものになるのか、政策がどの程度のスピードで対応すべきか、そして金利がどこに落ち着くべきかについては、様々なショックが影響する可能性がある」 | 債券が売られ金利が上昇。ドル円は149円台後半から150円台後半に。 |
10/17 | ラガルド・ECB総裁 | 「成長のリスクは依然として下振れ方向に傾いているが、リセッションは想定していない。われわれは引き続きソフトランディングを見込んでいる」 | -------- |
10/17 | ECB声明文 | 「インフレについて入ってくる情報は、ディスインフレのプロセスが順調に進行していることを示している」、「政策委員会は物価安定の目的を達成するため必要な限り、政策金利を十分に景気抑制的な水準に維持する。景気抑制の適切な水準と期間を決定するため、引き続きデータ依存かつ会合ごとのアプローチを取る」 | -------- |
10/15 | デーリー・サンフランシス連銀総裁 | 「われわれは警戒姿勢を維持し、意図的に行動する必要がある。経済を継続的に分析し、二大責務の両方を均衡させなければならない」、「年内にあと1回か2回の追加利下げが行われる可能性が高い」 | -------- |
10/14 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「政策を中立の姿勢に向けシ慎重なペースで進めていくことは可能だ」、「最終的には、政策の方向性は経済とインフレ、労働市場に関する実際のデータによって決まるだろう」、「労働市場については、急速な軟化は差し迫っていないように見受けられ心強い。インフレに関しては、ピークから顕著に鈍化したが、依然として目標をやや上回っている」 | -------- |
10/14 | ウォラー・FRB理事 | 「データを総合的に判断したところ、利下げペースに対して9月会合で必要とされた以上の慎重さを持って進めていくべきだとみている」、「政策を中立の姿勢に向け慎重なペースで進めていくことは可能だ」 | -------- |
10/10 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「データによってそれが適切と示されるのであれば、金利据え置きでも全く抵抗はない」、「つまり、私が想定した通りのデータとなる場合、年内残り2回の会合のうち1回では据え置きにオープンであることをすでに示している。われわれは辛抱強く、もう少し長く事態の展開を見守る力があると考える。今日の統計には、その見解を裏付ける要素がある」 | 市場はドル買いで反応。 |
10/9 | ローガン・ダラス連銀総裁 | 「先月に0.5ポイントの利下げが行われた後で、二つの責務に対するリスクの間で最善のバランスを取るためには、正常な政策スタンスへの回帰はより緩やかな道筋が適切になるとみられる」 | -------- |
10/3 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレは低下しており、目標に近づいている。失業率は上昇したが、雇用市場は基本的には望ましい状態にある」と発言し、「金利は今後12カ月間に大幅に下がる必要がある」 | -------- |
10/2 | 石破首相 | 「個人的には現在追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない。これから先も緩和基調を維持しながら経済が持続的に発展することを期待している」 | ドル円144円台半ばから146円台半ばまで上昇。 |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書