「トランプ関税に金融市場は混乱」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 貿易戦争懸念や株価の大幅下落から、リスク回避の円買いが見られ、ドル円は154円水準まで売られる。その後は株価の戻りなどから155円程度まで反発。
- ユーロドルは、オセアニア時間に1.02割れ水準まで下落。NYでは反発し1.03台半ばまで買われ、荒っぽい動きに。
- 株式市場では3指数が寄り付きから大きく下げたが、トランプ政権がカナダとメキシコへの関税発動を1カ月延期したことで、下げ幅を大幅に縮小。
- 債券は続落。長期金利は4.55%台に上昇。
- 金は反発し、最高値を更新。原油も買われる。
1月ISM製造業景況指数 → 50.9
1月S&Pグローバル製造業PMI(改定値) → 51.2
1月自動車販売台数 → 1560万台
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ドル/円 | 154.02 〜 155.00 |
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ユーロ/ドル | 1.0243 〜 1.0350 |
ユーロ/円 | 157.96 〜 159.81 |
NYダウ | −122.75 → 44,421.91 |
GOLD | +22.10 → 2,857.10ドル |
WTI | +0.63 → 73.16ドル |
米10年国債 | +0.016 → 4.555% |
本日の注目イベント
- 米 12月雇用動態調査(JOLTS)求人件数
- 米 12月耐久財受注
- 米 12月製造業受注
- 米 ボスティック・アトランタ連銀総裁講演
- 米 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁、パネル討論会に参加
- 米 イスラエル首相、トランプ大統領と会談(ホワイトハウス)
- 米 決算発表 → ファイザー、ペプシコ、アルファベット
本日のコメント
トランプ政権は、カナダとメキシコへの25%関税引き上げの発動を土壇場で1カ月延期しました。カナダのトルドー首相は3日夜、トランプ大統領との電話会談を受け、米国がカナダに対して計画していた関税賦課が少なくとも30日間延期されることになったと発表しました。昨日の時点では、米国が関税引き上げを実施すれば、カナダも報復措置として米国製品に対して25%の関税をかけるとしていましたが、これにより、少なくとも一時的にカナダと米国の貿易戦争は回避されることになります。また、これより先にメキシコのシェインバウム大統領も、米国の関税発動が1カ月延期されたと発表しており、同時にメキシコからのフェンタニルや移民の米国への流入を防ぐため、メキシコが国境に1万人の警備隊を配置することでトランプ大統領と合意していました。関税引き上げの大統領令に署名を終え、あとは発動を待つばかりの状況を作り、相手との交渉を経て、落としどころを探る。まさに「トランプ流ディール」に翻弄されたカナダとメキシコと言えます。この後の、落としどころを探る交渉の行方にも注目したいと思います。
トランプ氏はEUに対しても新たな関税を計画しており、「欧州は米国の自動車を買わず、米国産の農産物も買わない。ほとんど何も買わない。米国は全て買っている。数百万台の自動車や膨大な量の食料や農産物をだ」と述べ、「EUに対して新たな関税を『間違いなく』課すことになるだろう」と話しています。これに対してドイツのショルツ首相は非公式に、「欧州にはこれに対応する能力がある。米国と欧州が協力できれば、双方にとって良いことだ。だが、明らかなのは、交渉の基礎は自信の力を知ることにある。欧州は行動できる」と話しています。トランプ関税の第1弾が発表され、署名されたことで、昨日の早朝にユーロは対ドルでも対円でも、下方に大きく窓を開けて取引が開始されました。トランプ関税の影響を受け、昨日の日経平均株価も1000円を超える大幅な下落で取引を終え、その後の欧州、米国市場でも株価は乱高下を見せていました。
ボストン連銀のコリンズ総裁は、ここ数日に発表されたような広範な関税が実施されれば、物価に影響を与える可能性が高いとしつつ、厳密な政策はまだ練られていない状況とし、「影響の度合いを正確に予測するのは難しい」と述べ、「追加調整を行う緊急性はない。データ次第になる。いずれかの時点で、政策スタンスに関して一段の正常化が行われるのは確かだ」と、追加利下げの可能性に含みを持たせる発言を行いました。また、アトランタ連銀のボスティック総裁はさらにタカ派的な発言を行い、「昨年末までに実施した100ベーシスポイントの利下げが、経済にどのように反映されるのか確認したい」と述べ、その上で、「データの内容次第では、しばらく様子見になるかもしれない」と話しています。(ブルームバーグ)両総裁とも、トランプ大統領の政策を読み切れないとの立場では一致しています。
ドル円は昨日の東京時間には155円台後半まで買われましたが、NYでは指摘したように、「リスク回避の円買い」から154円近くまで下げました。基本はドルが底堅く推移すると見ますが、ここしばらくは「リスク回避の円買い」とのバランスが相場の攪乱要因になります。
本日のドル円は154円30銭〜156円30銭程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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2/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「昨年末までに実施した100ベーシスポイントの利下げが、経済にどのように反映されるのか確認したい」、「データの内容次第では、しばらく様子見になるかもしれない」 | -------- |
2/3 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | (ここ数日に発表されたような広範な関税が実施されれば、物価に影響を与える可能性が高いとしつつ、厳密な政策はまだ練られていない状況とし)、「影響の度合いを正確に予測するのは難しい」、「追加調整を行う緊急性はない。データ次第になる。いずれかの時点で、政策スタンスに関して一段の正常化が行われるのは確かだ」 | -------- |
1/30 | ラガルド・ECB総裁 | 「向かっている方向は明らかで、今回の決定は全会一致だった。確固としたフォワードガイダンスを得たいと考えている向きには、そのようなものは非現実的だと言えよう。現時点では重大な不確実性があるからだ。不確実性は恐らく強まっている」 | -------- |
1/30 | ECB声明文 | 「ディスインフレプロセスは極めて順調に進行している。基調的なインフレに関するほとんどの指標は、インフレ率が持続的に目標付近で安定することを示唆している」と2%物価の目標達成に自信を示ししつつ、「現在の金融政策は『依然として景気抑制的』だ」 | -------- |
1/29 | パウエル・FRB議長 | 「金融政策スタンスが景気を抑制する度合いは、以前より大幅に弱まっており、経済は強さを維持していることから、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」、「労働市場が急速に減速したり、インフレが再燃し場合には政策金利を調整する用意がある」、(トランプ政権の政策の行方については)「分からない」 | ほとんど影響はなし。 |
1/29 | FOMC声明文 | 「最近の複数の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆する。失業率はここ数カ月、低水準で推移しており、労働市場の状況は堅調を維持している。インフレは幾分高止まりしている」 | ほとんど影響はなし。 |
1/23 | トランプ大統領 | (ダボス会議でのオンライン参加で)「金利の即時引き下げを要求する」、(政策金利に関して、FRB議長の判断に疑問を呈した上で)「議長と適切な時期に話すつもりだ。彼らよりも私の方が金利に関してはるかに詳しく、その判断に当たる主な責任者よりも私の方が熟知しているのは確かだ。私が反対の意見であれば、それを伝える」、(金融当局が自分の主張に耳を傾けると考えるのかとの質問に)「イエス」 | ドル円がやや売られ、原油価格は下落。 |
1/16 | ウォラー・FRB理事 | 「昨日発表されたインフレデータは非常に良好な内容だった。こうした数字が続けば、今年前半に利下げが実施され得ると考えるのが妥当だろう」、「このディスインフレ傾向は続き、考えられているより少し早く2%に近づくと、私は楽観している」、「経済活動を促進も抑制もしない中立金利に関する当局者の予想中央値は、今後発表されるデータ次第で年内3−4回の利下げが可能なことを示唆している」、「データが良好でなければ2回に戻ることになる。インフレが根強く続けば1回となる可能性さえある」 | 債券が買われ金利が低下。ドル円は156円台前半から155円05銭まで下落。 |
1/15 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | NY連銀のウイリアムズ総裁は、「ディスインフレのプロセスは続いている。しかし、当局の2%目標にはまだ達していない。この目標を持続的な形で達成出来るまでにはさらに時間がかかる」 | -------- |
1/15 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「目標の2%に戻すための最終段階を成功裏に終えるためには、当局は景気抑制的であるべきだとなお考えている」 | -------- |
1/15 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレ面での改善傾向が続いている。2025年は成長を続けながらソフトランディングが達成できると、引き続き楽観している」 | -------- |
1/9 | ハーカー総裁・フィラデルフィア連銀総裁 | 「今は休止して、状況の推移を見守るのが適切」、「しばしの現状維持は可能だ。恐らく長期ではない。データがどうなるのか、見極める必要がある」 | -------- |
1/9 | ボウマンFRB理事 | 「インフレ率は2023年に大幅に鈍化したが、24年は進展が停滞したようだ。コアインフレ率は目標である2%の水準をなお不快なほど上回っている。政策については慎重かつ緩やかなアプローチが望ましい」 | -------- |
1/9 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | 「時間の経過に伴い、一段の緩和が適切となるだろう。その規模は9月に考えていたよりもいくらか小幅となる可能性がある。じっくりと辛抱強くデータを総合的に評価する。つまり、辛抱強く分析的に見ていくことが、今年の政策を考える上で適切な可能性が高いだろう」 | -------- |
1/5 | クーグラーFRB理事 | 「インフレは、2024年第1四半期に上昇が見られたが、ここにきてまた上昇が見られる」、「これが本当に一時的な上昇であって、より永続的なものではないことを確認したい」 | -------- |
1/5 | デーリー・SF連銀総裁 | 「インフレ率は依然として目標を不快なほど大きく上回っている」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書