今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「パウエル議長、利下げは急がない」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • 議会証言でパウエル議長が利下げは急がない姿勢を見せたことでドルが上昇。米金利が上昇したこともあり、ドル円は152円61銭まで買われる。
  • ユーロドルは小幅に下落したものの、1.03台は維持。
  • 株式市場はまちまちの展開。ナスダックは下げたものの、ダウとS&P500は続伸。パウエル議長が利下げは急がないと発言したことが重石に。
  • 債券も利下げを急がないとの発言に軟調な展開。長期金利は4.53%台に上昇。
  • 金は小幅に反落し、原油は続伸。
ドル/円 152.23 〜 152.61
ユーロ/ドル 1.0317 〜 1.0381
ユーロ/円 157.17 〜 158.20
NYダウ +123.24 → 44,593,65
GOLD −1.80 → 2,932.60ドル
WTI +1.00 → 73,32ドル
米10年国債 +0.038 → 4.535%

本日の注目イベント

  • 米 1月消費者物価指数
  • 米 1月財政収支
  • 米 パウエル・FRB議長、下院金融委員会で証言
  • 米 ボスティック・アトランタ連銀総裁講演

本日のコメント

パウエル議長は11日、上院銀行委員会の公聴会で証言を行い、「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している。よって政策スタンスの調整は急ぐ必要はない」と述べ、改めて利下げは急がない姿勢を見せていました。議長はまた、「政策による景気抑制の度合い低下が速過ぎ、ないし行き過ぎとなれば、インフレ面での進展を妨げる可能性がある。一方で遅過ぎ、または少な過ぎであれば、経済活動と雇用を過度に弱めかねない」と証言しましたが、これは1月のFOMC会合後の会見とほぼ同じ内容でした。さらにトランプ政権が進めている関税強化の不透明感が強まっている景気への影響に関しては、「われわれは2大責務における両面のリスクに注意を払っている。政権はわれわれが直面するリスクと不確実性に対処する上で良い態勢にある」と述べていました。今回の証言ではサプライズはなく、金融市場への影響はほぼありませんでした。

トランプ大統領は、米国が輸入する鉄鋼・アルミニウムに対して25%の関税を3月12日から適用する大統領令に署名しました。トランプ氏はさらに今後、自動車・半導体・医薬品に対する追加関税も検討することを明らかにしています。これに対して欧州委員会のフォンデアライエン委員長は声明で、「米国が欧州の鉄鋼・アルミニウム輸出に対して関税を課すことを決定したのは誠に遺憾だ。EUに対する不当な関税は見過ごせない。断固として相応の対抗措置を発動する」と述べ、トランプ政権の暴挙に対抗する姿勢を強く見せています。トランプ氏が武器としている関税引き上げは、米国内からも反対する動きがあります。米自動車大手フォード・モーターのCEOは12日ワシントンを訪問し、連邦議会議員らに対し、トランプ氏がカナダとメキシコに課す方針の25%の関税が、「米国の自動車産業に大きな打撃を与える」と警告しています。CEOは、「トランプ氏はこれまで、米国の自動車産業を強化し、生産を国内にもたらすことについて多くを語ってきた。だが今のところ、私たちが目にしているのは、多くのコストと混乱だ」と強調していました。ブルームバーグによると、フォードのファーリーCEOは米国の自動車業界の中でも率直に発言するリーダーの一人として知られています。関税で生じたコストの多くは消費者に転嫁される可能性が高く、新車の価格が約3000ドル(約45万円)以上上昇するとの専門家の試算もあります。

先週発表された「1月の雇用統計」では、労働市場の健全な伸びが確認されましたが、同時に賃金が大きく伸びていることも明らかになりました。この状況に関して元財務長官のサマーズ氏(ハーバード大学教授)は、物価上昇圧力が再び急激に高まる危険性があると警告しています。サマーズ氏は、「1月の雇用統計における賃金の大幅上昇など、労働市場のタイト化の兆しは、新政権による措置が講じられる前から、消費者物価が上昇する可能性がある背景がすでに整っている。ホワイトハウスから打ち出される政策が実行される前であっても、インフレに対して非常に注意をはらわなければならない」と述べ、「現在のサイクルでさらなる利下げ余地はない」との見方を示していました。サマーズ氏はこれまでも、米国の経済状況の実態に対しては、やや過激な発言を行い、時には金融当局に警告を発してきました。今回の警告は、「関税引き上げが実施されることを考慮しなくても、利下げの余地はない」と断じ、今後緩やかに利下げを行うと見られるFRBに対して、真っ向から異議を唱えています。果たして、サマーズ氏は慧眼の持ち主なのか、どうでしょう。今夜発表される「1月消費者物価指数」がますます気になるところです。

本日のドル円は152円20銭〜154円程度と予想します。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
2/11 サマーズ・元財務長官 「1月の雇用統計における賃金の大幅上昇など、労働市場のタイト化の兆しは、新政権による措置が講じられる前から、消費者物価が上昇する可能性がある背景がすでに整っている。ホワイトハウスから打ち出される政策が実行される前であっても、インフレに対して非常に注意をはらわなければならない」、「現在のサイクルでさらなる利下げ余地はない」 --------
2/11 パウエル・FRB議長 「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している。よって政策スタンスの調整は急ぐ必要はない」、「政策による景気抑制の度合い低下が速過ぎ、ないし行き過ぎとなれば、インフレ面での進展を妨げる可能性がある。一方で遅過ぎ、または少な過ぎであれば、経済活動と雇用を過度に弱めかねない」、(トランプ政権が進めている関税の強化の不透明感が強まっている景気への影響に関しては)、「われわれは2大責務における両面のリスクに注意を払っている。政権はわれわれが直面するリスクと不確実性に対処する上で良い態勢にある」・・・・(上院議会証言で) --------
2/7 クーグラー・FRB理事 「軟化も過熱の兆候も見られない健全な労働市場と整合だ」、「トランプ大統領の新たな政策案の経済効果については、かなりの不確実性がある」 --------
2/5 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「2025年にインフレ率が上昇したり、インフレでの進展が停滞したりする場合、米金融当局はインフレが過熱によるものか、または関税によるものかを見極める難しい立場に置かれている」 --------
2/5 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「そうした不確実性がもう少し明瞭になるまで。成長や雇用、インフレに関して何が起きているのかを理解するのは非常に難しい」 --------
2/4 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 「米経済は良好な状態であり、トランプ政権が導入する政策にFRBとして即座に対応する必要はない」、「多くの不確実性がある。経済と政策変更のいずれに関しても、時間を取って今後の動向を見極めることが可能だ」、「FRBの意思決定において、予防的である必要はない」 --------
2/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「昨年末までに実施した100ベーシスポイントの利下げが、経済にどのように反映されるのか確認したい」、「データの内容次第では、しばらく様子見になるかもしれない」 --------
2/3 コリンズ・ボストン連銀総裁 (ここ数日に発表されたような広範な関税が実施されれば、物価に影響を与える可能性が高いとしつつ、厳密な政策はまだ練られていない状況とし)、「影響の度合いを正確に予測するのは難しい」、「追加調整を行う緊急性はない。データ次第になる。いずれかの時点で、政策スタンスに関して一段の正常化が行われるのは確かだ」 --------
1/30 ラガルド・ECB総裁 「向かっている方向は明らかで、今回の決定は全会一致だった。確固としたフォワードガイダンスを得たいと考えている向きには、そのようなものは非現実的だと言えよう。現時点では重大な不確実性があるからだ。不確実性は恐らく強まっている」 --------
1/30 ECB声明文 「ディスインフレプロセスは極めて順調に進行している。基調的なインフレに関するほとんどの指標は、インフレ率が持続的に目標付近で安定することを示唆している」と2%物価の目標達成に自信を示ししつつ、「現在の金融政策は『依然として景気抑制的』だ」 --------
1/29 パウエル・FRB議長 「金融政策スタンスが景気を抑制する度合いは、以前より大幅に弱まっており、経済は強さを維持していることから、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」、「労働市場が急速に減速したり、インフレが再燃し場合には政策金利を調整する用意がある」、(トランプ政権の政策の行方については)「分からない」 ほとんど影響はなし。
1/29 FOMC声明文 「最近の複数の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆する。失業率はここ数カ月、低水準で推移しており、労働市場の状況は堅調を維持している。インフレは幾分高止まりしている」 ほとんど影響はなし。
1/23 トランプ大統領 (ダボス会議でのオンライン参加で)「金利の即時引き下げを要求する」、(政策金利に関して、FRB議長の判断に疑問を呈した上で)「議長と適切な時期に話すつもりだ。彼らよりも私の方が金利に関してはるかに詳しく、その判断に当たる主な責任者よりも私の方が熟知しているのは確かだ。私が反対の意見であれば、それを伝える」、(金融当局が自分の主張に耳を傾けると考えるのかとの質問に)「イエス」 ドル円がやや売られ、原油価格は下落。
1/16 ウォラー・FRB理事 「昨日発表されたインフレデータは非常に良好な内容だった。こうした数字が続けば、今年前半に利下げが実施され得ると考えるのが妥当だろう」、「このディスインフレ傾向は続き、考えられているより少し早く2%に近づくと、私は楽観している」、「経済活動を促進も抑制もしない中立金利に関する当局者の予想中央値は、今後発表されるデータ次第で年内3−4回の利下げが可能なことを示唆している」、「データが良好でなければ2回に戻ることになる。インフレが根強く続けば1回となる可能性さえある」 債券が買われ金利が低下。ドル円は156円台前半から155円05銭まで下落。
1/15 ウイリアムズ・NY連銀総裁 NY連銀のウイリアムズ総裁は、「ディスインフレのプロセスは続いている。しかし、当局の2%目標にはまだ達していない。この目標を持続的な形で達成出来るまでにはさらに時間がかかる」 --------
1/15 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「目標の2%に戻すための最終段階を成功裏に終えるためには、当局は景気抑制的であるべきだとなお考えている」 --------
1/15 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「インフレ面での改善傾向が続いている。2025年は成長を続けながらソフトランディングが達成できると、引き続き楽観している」 --------
1/9 ハーカー総裁・フィラデルフィア連銀総裁 「今は休止して、状況の推移を見守るのが適切」、「しばしの現状維持は可能だ。恐らく長期ではない。データがどうなるのか、見極める必要がある」 --------
1/9 ボウマンFRB理事 「インフレ率は2023年に大幅に鈍化したが、24年は進展が停滞したようだ。コアインフレ率は目標である2%の水準をなお不快なほど上回っている。政策については慎重かつ緩やかなアプローチが望ましい」 --------
1/9 コリンズ・ボストン連銀総裁 「時間の経過に伴い、一段の緩和が適切となるだろう。その規模は9月に考えていたよりもいくらか小幅となる可能性がある。じっくりと辛抱強くデータを総合的に評価する。つまり、辛抱強く分析的に見ていくことが、今年の政策を考える上で適切な可能性が高いだろう」 --------
1/5 クーグラーFRB理事 「インフレは、2024年第1四半期に上昇が見られたが、ここにきてまた上昇が見られる」、「これが本当に一時的な上昇であって、より永続的なものではないことを確認したい」 --------
1/5 デーリー・SF連銀総裁 「インフレ率は依然として目標を不快なほど大きく上回っている」 --------
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和