「米、カナダとメキシコの自動車には1カ月の猶予」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- ドル円は「ADP雇用者数」の下振れに、149円台後半から148円40銭まで売られる。その後、株価や金利が上昇したことで149円台を回復。
- ユーロドルは大きく続伸。一時は昨年11月中旬以来の1.0796まで上昇。これまでのショートの巻き戻しやストップロスを巻き込んだ可能性が高い。
- トランプ政権がカナダとメキシコに対し、自動車の関税引き上げを1カ月猶予したことで3指数は大幅反発。
- 債券は売られ、長期金利は4.22%台に上昇。
- 金は続伸。原油は在庫が増えていたことや、米景気の減速懸念が材料となり4日続落。一時は65ドル台前半まで売られ、2023年5月以来の安値を記録。
2月ADP雇用者数 → 7.7万人
2月ISM非製造業景況指数 → 53.5
1月製造業受注 → 1.7%
1月耐久財受注 → 0.2%
2月S&Pグローバルサービス業PMI(改定値) → 51.0
2月S&Pグローバル総合PMI(改定値) → 51.6
******************************
ドル/円 | 148.40 〜 149.73 |
---|---|
ユーロ/ドル | 1.0687 〜 1.0796 |
ユーロ/円 | 159.40 〜 160.73 |
NYダウ | +485.60 → 43,006.59 |
GOLD | +5.40 → 2,926.00ドル |
WTI | −1.95 → 66.31ドル |
米10年国債 | +0.032 → 4.277% |
本日の注目イベント
- 豪 豪1月貿易収支
- 豪 豪1月住宅建設許可件数
- 日 連合、25年春闘での要求集計結果
- 欧 ユーロ圏1月小売売上高
- 欧 ECB政策金利発表
- 欧 ラガルド・ECB総裁記者会見
- トルコ トルコ中銀政策金利発表
- 米 新規失業保険申請件数
- 米 1月貿易収支
- 米 ボスティック・アトランタ連銀総裁講演
- 加 カナダ1月貿易収支
本日のコメント
前日夜のラトニック商務長官の発言で予想されてはいましたが、トランプ大統領はメキシコとカナダに対して賦課した関税で、自動車については1カ月適用を除外すると、ホワイトハウスの報道官が発表しました。4日に発動した関税を翌日に1カ月除外する・・・。まさに「朝令暮改」です。金融市場は「トランプ関税」に大きく揺れ動かされる「関税相場」になっています。両国に対する関税から自動車が除外されたことで、「貿易戦争」懸念が後退し、連日大きく売られていたNY株式市場では3指数が揃って大幅に反発。リスク回避の流れが後退したことから、ドル円は再び148円台半ばから149円台に乗せました。ドル円は、ここ10日間程は148台前半では買われ、150円台に乗せると押し戻される展開が続いています。トランプ政権の関税政策が極めて不透明であるため、ドル円の上値は重いものの、一気に売り続けるわけにはいかない状況かと思えます。WTI原油価格も昨日は2ドルに迫る下落(2.9%)で4日続落。2023年5月以来となる安値に沈みました。在庫が膨らんでいたこともありましたが、これも「トランプ関税」の影響で貿易戦争に発展し、原油の使用量が減少するとの読みがあるようです。
トランプ大統領が議会で施政方針演説を行いました。昨日の夜はそのニュースで持ち切りでしたが、演説の内容は、攻撃的で挑発的なものが多く、特にバイデン政権に対しては「バイデンは米国史上最悪の大統領。経済の大惨事とインフレの悪夢をおこした」と、猛烈に批判しました。席に座っている民主党議員を挑発する場面もあり、一部民主党議員の中には退席するものまでいました。またウクライナ戦争については、バイデン氏がこれまで使い、多くの各国首脳やメディアが使ってきた「侵略(invasion)」という言葉を、「紛争(conflict)」という言葉に置きかえ、さらに「殺害(killing)」「戦争(war)」といった「中立的な表現を使って、ロシアへの配慮を鮮明にした」(日経新聞)。これもホワイトハウスでゼンレンスキー大統領との会談が決裂したことを反映したのか、明らかにロシアよりのコメントでした。
1990年代にクリントン政権で財務長官を務め、「大物財務長官」とうたわれたルービン氏もトランプ氏の政策を批判しました。ルービン氏は4日、ブルームバーグのイベント会合でのインタビューで、「トランプ大統領の経済政策が、60年にわたる自身の職歴の中で最大の不確実性をあおっている。こうした政策が信頼感を損ない米国の財政軌道を悪化させ、国際舞台における米国の信頼性を危機にさらす」と警告しました。さらにルービン氏は、「第二次世界大戦以降、われわれはあらゆる種類の公約を支えに同盟関係や友好関係を築いてきた。すべて経済的利益や地政学的利益のためだった。それら全てが危険にさらされていると思う」と述べていました。そして、「極めて深刻なインフレリスクを生み出す」と続けていました。
昨日5日、内田日銀副総裁は静岡県で講演を行いましたが、特にサプライズはなく、「経済・物価見通しが実現していけば、利上げを続ける」と、これまでの日銀のスタンスに沿うものでした。利上げの時期やペースについても言及はなく、「特定のペースを念頭に置いているわけではない」と述べていました。またトランプ政権については、「世界経済についての不確実性は高く、引き続き注視していく」と話していました。
上でも述べたように、ドル円は上値を重くはしているものの、おおむね148−150円のレンジ相場が続いています。ただ、ユーロドルでは明らかな「ドル安」が見て取れます。昨日は1.08に迫る水準まで「ドルが売られ・ユーロが買われ」ています。本日はECBが政策金利を発表しますが、依然利下げ観測が優勢です。ただ、今回利下げを実施すれば、「当面は打ち止め」と予想されます。EUでも、今後「トランプ関税」の影響を受ける可能性が高く、その場合インフレが再燃するリスクが予想され、追加利下げの可能性は大きく低下すると見ています。
本日のドル円は148円〜150円程度を予想します。
==========
明日7日(金)の「今日のアナリストレポート」は、都合によりお休みとさせていただきます。ご愛読者の皆様にはご不便をお掛け致しますが、ご理解の程宜しくお願い致します。
佐藤正和の書籍紹介
![]() これだけ! FXチャート分析 三種の神器 |
![]() チャートがしっかり読めるようになるFX入門 |
What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
---|---|---|---|
3/3 | トランプ大統領 | 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 | ドル円は149円台半ばから下落。 |
2/25 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「インフレ率が当局目標の2%に戻りつつあるとの自信を深めるまで、やや景気抑制的な姿勢を維持することが理にかなっている。いんふれとの闘いは長期化していると認識しているが、われわれが断固たる姿勢を維持することが極めて重要だ」 | -------- |
2/20 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「インフレ率が2%超にとどまる、ないし上昇するリスクが上方向に傾いているようだ。インフレが停滞するリスクは、労働市場が顕著に軟化するリスクよりも大きい」とし、その上で、「インフレ率が当局目標の2%へと順調に低下してきたことが明確になるまで、やや景気抑制的な金融政策を維持すべきだ」 | -------- |
2/18 | ウォラー・FRB理事 | 「昨年の場合と同様に、冬季の進展休止が一時的なものならば、一段の緩和策が適切になるだろう。しかし、その時期が明確になるまでは金利据え置きは望ましい」 | ドル円は151円台から152円台に乗せる。 |
2/18 | デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 | インフレ抑制の進展について落胆する理由はないと私は考えている。単に望まれているより長い時間がかかるだけだ」、(トランプ政権の政策の影響について)「時間をかけて判断すべきだ」 | -------- |
2/17 | ハーカー・フィラデルフィア連総裁 | 「具体的な時間的見通しは約束しないが、インフレは引き続き鈍化傾向にあり、金利は長期的に引き下げられると楽観している | -------- |
2/17 | ボーマン・FRB理事 | 「フェデラルファンド(FF)金利をより中立的な政策スタンスに近づけるプロセスは、新たな段階に入った。慎重で段階的なアプローチが好ましいと私が考えるのは、いくつか理由がある。現行政策のスタンスを考慮すると。1年前からの株高による金融環境の緩みが、ディスインフレの進行を遅らせたかもしれないと考えている」 | -------- |
2/12 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「より明確に把握できるまでは、金融政策がどこに向かうのか、どのくらいの速度・ペースで進むべきかについて判断を下すことが不可能だ。従ってわれわれは動き出す前に、より多くの情報を入手する必要がある。われわれは十分な情報を得た時点で動くことになるだろう」 | -------- |
2/12 | パウエル・FRB議長 | 「1つや2つの良好なデータに興奮することはない。1つや2つの悪いデータに強く反応することもない」、「インフレに関しては近いところだが、まだ到達はしていない。昨年のインフレ率は2.6%だった。よって素晴らしい進展と言えるが、まだ達してはいない」 | -------- |
2/11 | サマーズ・元財務長官 | 「1月の雇用統計における賃金の大幅上昇など、労働市場のタイト化の兆しは、新政権による措置が講じられる前から、消費者物価が上昇する可能性がある背景がすでに整っている。ホワイトハウスから打ち出される政策が実行される前であっても、インフレに対して非常に注意をはらわなければならない」、「現在のサイクルでさらなる利下げ余地はない」 | -------- |
2/11 | パウエル・FRB議長 | 「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している。よって政策スタンスの調整は急ぐ必要はない」、「政策による景気抑制の度合い低下が速過ぎ、ないし行き過ぎとなれば、インフレ面での進展を妨げる可能性がある。一方で遅過ぎ、または少な過ぎであれば、経済活動と雇用を過度に弱めかねない」、(トランプ政権が進めている関税の強化の不透明感が強まっている景気への影響に関しては)、「われわれは2大責務における両面のリスクに注意を払っている。政権はわれわれが直面するリスクと不確実性に対処する上で良い態勢にある」・・・・(上院議会証言で) | -------- |
2/7 | クーグラー・FRB理事 | 「軟化も過熱の兆候も見られない健全な労働市場と整合だ」、「トランプ大統領の新たな政策案の経済効果については、かなりの不確実性がある」 | -------- |
2/5 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「2025年にインフレ率が上昇したり、インフレでの進展が停滞したりする場合、米金融当局はインフレが過熱によるものか、または関税によるものかを見極める難しい立場に置かれている」 | -------- |
2/5 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「そうした不確実性がもう少し明瞭になるまで。成長や雇用、インフレに関して何が起きているのかを理解するのは非常に難しい」 | -------- |
2/4 | デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 | 「米経済は良好な状態であり、トランプ政権が導入する政策にFRBとして即座に対応する必要はない」、「多くの不確実性がある。経済と政策変更のいずれに関しても、時間を取って今後の動向を見極めることが可能だ」、「FRBの意思決定において、予防的である必要はない」 | -------- |
2/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「昨年末までに実施した100ベーシスポイントの利下げが、経済にどのように反映されるのか確認したい」、「データの内容次第では、しばらく様子見になるかもしれない」 | -------- |
2/3 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | (ここ数日に発表されたような広範な関税が実施されれば、物価に影響を与える可能性が高いとしつつ、厳密な政策はまだ練られていない状況とし)、「影響の度合いを正確に予測するのは難しい」、「追加調整を行う緊急性はない。データ次第になる。いずれかの時点で、政策スタンスに関して一段の正常化が行われるのは確かだ」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書