今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「ドル円、一時147円を割り込む」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は朝方、「2月の雇用統計」が予想に届かなかったことで147円を割り込み、146円95銭まで下落。ただその後は、パウエル議長が講演で、「利下げを急ぐ必要はない」と発言したことで148円20銭まで急反発。
  • ユーロドルも朝方には続伸し、1.0888まで買われ、昨年11月以来となるユーロ高を付ける。
  • 株式市場は3指数が揃って反発。下落して取引が始まったがパウエル議長の発言で上昇に転じ、ダウは222ドル高。
  • 債券は売られ、長期金利は4.30%台に上昇。
  • 金は反落し、原油は続伸。
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2月失業率 → 4.1%
2月非農業部門雇用者数 → 15.1万人
2月平均時給 (前月比) → 0.3%
2月平均時給 (前年比) → 4.0%
2月労働参加率 → 62.4%
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ドル/円 146.95 〜 148.20
ユーロ/ドル 1.0826 〜 1.0888
ユーロ/円 159.42 〜 160.77
NYダウ +222.64 → 42,801.72
GOLD −12.50 → 2,914.10ドル
WTI +0.68 → 67.04ドル
米10年国債 +0.023 → 4.301%

本日の注目イベント

  • 日 1月国際収支・経常収支
  • 日 1月景気先行指数(CI)(速報値)
  • 日 1月景気一致指数(CI)(速報値)
  • 日 2月景気ウオッチャー調査
  • 独 独1月貿易収支
  • 独 独1月鉱工業生産

本日のコメント

「米2月の雇用統計」では、非農業部門雇用者数(NFP)が「15.1万人」と、市場予想の「16万人」を下回り、失業率も予想の「4.0%」から上昇して「4.1%」でした。米経済の減速傾向が意識され、債券は買われ、株とドル円が売られました。ドル円は一時147円を割り込み、昨年10月4日以来となる146円95銭まで下落しました。ただ、その後は「パウエル・プット」が効果を発揮し、ドル円は148円台に、株式市場では3指数が揃ってプラスで引けています。

パウエル議長はNYの経済イベントで、「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」と述べ、追加利下げについては、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」と語り、利下げを急がない姿勢を明確に示しました。そして、米経済の現状については、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」と強調していました。この発言を受け、市場では一転してドルと株が買われ債券が売られ、金利が上昇しました。「トランプ関税」を受け、市場では急速に利下げ観測が高まり、それまで年内1回だった利下げ回数予測が2回となり、足元では3回の利下げを織り込む動が続いていましたが、これで今月18−19日に予定されているFOMC会合での利下げの可能性はほぼなくなったと思われます。ただ、今回の発言は、「2月の雇用統計」の結果を受け、一段と下げが加速した株式市場を意識した「パウエル・プット」が発動された可能性も高いのではないかと、個人的には感じています。

トランプ大統領はFOXニュースでのインタビューで、2月28日のホワイトハウスでのゼンレンスキー大統領との会談で、同氏が不誠実な対応をしたとの主張を繰り返し、「ゼレンスキー氏は、いずれ米国と天然資源の取引で合意するだろう」と話し、「バイデン政権下で米国の軍事支援を最大限に活用するのは、赤子の手をひねるようなものだ」と、ゼンレンスキー氏を批判していました。今週12日(水)に予定されている鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する25%の関税については、ラトニック商務長官が「猶予措置は想定していない」と述べていました。

先週6日(木曜日)のこの欄で、元大物財務長官と称されたルービン氏がトランプ政権の政策を危惧する声を紹介しましたが、今度は同じく財務長官を歴任したサマーズ氏がブルームバーグとのインタビューで、さらにトランプ政権の危険性について答えているコメントを紹介します。サマーズ氏は先ず、「トランプ大統領の移ろいやすい政策と言動が、世界経済におけるドルの優位性に過去半世紀で最大のリスクを突き付けている」と述べています。そして、昨年の大統領選挙でトランプ氏と同氏の陣営が、特定の規制の緩和や、米国が貿易で多国から不当に付け込まれている分野に対処することなど、「この経済をよりよく出来る、幾つかの重要な方向性を示した。しかし、その方法については、私は非常に恐ろしく思える」と述べ、「もし私がまだ財務省に在籍していたら、大統領が他国に対して繰り広げているようなレトリックがもたらす結果を恐れていただろう」とし、「中国や欧州が資本を引き付け、ドル離れが進む状況なら、私なら警戒する」と語っていました。

また、「武者リサーチ」代表の武者氏も、「歴史の針が大きく逆戻りし始めたように見える。20世紀前半までの、列強による世界分割、各国が利権追及に丸出しにして、戦争に邁進した帝国主義時代に戻ったとしか思えない変化が起きている。南シナ海の公海上の岩礁を埋め立てて軍事要塞化した中国や、主権国家ウクライナにあからさまに侵略し領土を奪取したロシアなど、ならずもの国家だけかと思ったら、トランプ政権もそれに劣らず対外緊張の意欲をあからさまにしている」と、こちらはさらに厳しく批判していました。

ドル円は依然として上値の重い展開が続いています。先週末の147円割れでも、まだ底値を確認したとは言えない状況かと思います。パウエル議長は今回、利下げは急がない姿勢を見せましたが、それは偏に「トランプ関税」の影響を見極めきれないからです。この不確実性がある程度払拭できる状況になるまでは、ドルの本格的な反転は望めないと思われます。先週辺りから、ユーロドルでも「ユーロ高・ドル安」が鮮明になってきました。「ユーロ高」がさらに続くようだと、円も円高方向に引っ張られる可能性もあります。

本日のドル円は146円50銭〜148円50銭程度を予想します。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
3/7 パウエル・FRB議長 「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」、(追加利下げについては)、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」、(米経済の現状について)、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」 株が買われ、債券が売られ金利が上昇。ドル円は147円割れから148円台前半まで上昇。
3/3 トランプ大統領 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 ドル円は149円台半ばから下落。
2/25 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレ率が当局目標の2%に戻りつつあるとの自信を深めるまで、やや景気抑制的な姿勢を維持することが理にかなっている。いんふれとの闘いは長期化していると認識しているが、われわれが断固たる姿勢を維持することが極めて重要だ」 --------
2/20 ムサレム・セントルイス連銀総裁 「インフレ率が2%超にとどまる、ないし上昇するリスクが上方向に傾いているようだ。インフレが停滞するリスクは、労働市場が顕著に軟化するリスクよりも大きい」とし、その上で、「インフレ率が当局目標の2%へと順調に低下してきたことが明確になるまで、やや景気抑制的な金融政策を維持すべきだ」 --------
2/18 ウォラー・FRB理事 「昨年の場合と同様に、冬季の進展休止が一時的なものならば、一段の緩和策が適切になるだろう。しかし、その時期が明確になるまでは金利据え置きは望ましい」 ドル円は151円台から152円台に乗せる。
2/18 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 インフレ抑制の進展について落胆する理由はないと私は考えている。単に望まれているより長い時間がかかるだけだ」、(トランプ政権の政策の影響について)「時間をかけて判断すべきだ」 --------
2/17 ハーカー・フィラデルフィア連総裁 「具体的な時間的見通しは約束しないが、インフレは引き続き鈍化傾向にあり、金利は長期的に引き下げられると楽観している --------
2/17 ボーマン・FRB理事 「フェデラルファンド(FF)金利をより中立的な政策スタンスに近づけるプロセスは、新たな段階に入った。慎重で段階的なアプローチが好ましいと私が考えるのは、いくつか理由がある。現行政策のスタンスを考慮すると。1年前からの株高による金融環境の緩みが、ディスインフレの進行を遅らせたかもしれないと考えている」 --------
2/12 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「より明確に把握できるまでは、金融政策がどこに向かうのか、どのくらいの速度・ペースで進むべきかについて判断を下すことが不可能だ。従ってわれわれは動き出す前に、より多くの情報を入手する必要がある。われわれは十分な情報を得た時点で動くことになるだろう」 --------
2/12 パウエル・FRB議長 「1つや2つの良好なデータに興奮することはない。1つや2つの悪いデータに強く反応することもない」、「インフレに関しては近いところだが、まだ到達はしていない。昨年のインフレ率は2.6%だった。よって素晴らしい進展と言えるが、まだ達してはいない」 --------
2/11 サマーズ・元財務長官 「1月の雇用統計における賃金の大幅上昇など、労働市場のタイト化の兆しは、新政権による措置が講じられる前から、消費者物価が上昇する可能性がある背景がすでに整っている。ホワイトハウスから打ち出される政策が実行される前であっても、インフレに対して非常に注意をはらわなければならない」、「現在のサイクルでさらなる利下げ余地はない」 --------
2/11 パウエル・FRB議長 「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している。よって政策スタンスの調整は急ぐ必要はない」、「政策による景気抑制の度合い低下が速過ぎ、ないし行き過ぎとなれば、インフレ面での進展を妨げる可能性がある。一方で遅過ぎ、または少な過ぎであれば、経済活動と雇用を過度に弱めかねない」、(トランプ政権が進めている関税の強化の不透明感が強まっている景気への影響に関しては)、「われわれは2大責務における両面のリスクに注意を払っている。政権はわれわれが直面するリスクと不確実性に対処する上で良い態勢にある」・・・・(上院議会証言で) --------
2/7 クーグラー・FRB理事 「軟化も過熱の兆候も見られない健全な労働市場と整合だ」、「トランプ大統領の新たな政策案の経済効果については、かなりの不確実性がある」 --------
2/5 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「2025年にインフレ率が上昇したり、インフレでの進展が停滞したりする場合、米金融当局はインフレが過熱によるものか、または関税によるものかを見極める難しい立場に置かれている」 --------
2/5 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「そうした不確実性がもう少し明瞭になるまで。成長や雇用、インフレに関して何が起きているのかを理解するのは非常に難しい」 --------
2/4 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 「米経済は良好な状態であり、トランプ政権が導入する政策にFRBとして即座に対応する必要はない」、「多くの不確実性がある。経済と政策変更のいずれに関しても、時間を取って今後の動向を見極めることが可能だ」、「FRBの意思決定において、予防的である必要はない」 --------
2/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「昨年末までに実施した100ベーシスポイントの利下げが、経済にどのように反映されるのか確認したい」、「データの内容次第では、しばらく様子見になるかもしれない」 --------
2/3 コリンズ・ボストン連銀総裁 (ここ数日に発表されたような広範な関税が実施されれば、物価に影響を与える可能性が高いとしつつ、厳密な政策はまだ練られていない状況とし)、「影響の度合いを正確に予測するのは難しい」、「追加調整を行う緊急性はない。データ次第になる。いずれかの時点で、政策スタンスに関して一段の正常化が行われるのは確かだ」 --------
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和