今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「トランプ関税を受け、ドル円145円台に急落」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は大幅に下落。「相互関税」が決定され、日本にも24%が賦課されることでリスク回避の円買いが継続的に入る。NYでは長期金利が急低下したこともあり、一時145円20銭前後まで売られる。
  • ユーロドルでもドル安が進み、ユーロは1.1135まで上昇。
  • 株式市場では3指数が大幅に反落。ダウは1679ドル下げ、ナスダックも1050ポイント下げる。
  • 債券は大幅に続伸。長期金利は4.02%台へと急低下。
  • 金は反落。原油は「相互関税」の実施が世界的に景気を減速させるとの見立てから4ドルを超える大幅安。
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新規失業保険申請件数 → 21.9万件
2月貿易収支 → −122.7b
3月ISM非製造業景況指数 → 50.8
3月S&Pグローバルサービス業PMI(改定値) → 54.4
3月S&Pグローバル総合PMI(改定値) → 53.5
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ドル/円 145.20 〜 146.51
ユーロ/ドル 1.1016 〜 1.1135
ユーロ/円 160.95 〜 162.33
NYダウ −1679.39 → 40,645.93
GOLD −44.50 → 3,121.70ドル
WTI −4.76 → 66.95ドル
米10年国債 −0.102 → 4.029%

本日の注目イベント

  • 独 独2月製造業新規受注
  • 米 3月雇用統計
  • 米 パウエル・FRB議長講演
  • 加 カナダ3月新規雇用者数
  • 加 カナダ3月失業率

本日のコメント

トランプ大統領が誇らしげに宣言した「Liberation Day」(解放の日)は、日本を含めた世界の国々にとっては「Tragic Day」(悲劇の日)になったようです。

関税さえ引き上げれば、米国が豊かになり「Make America Great Again」が達成で出来ると単純に考えたトランプ氏は、その結果が世界の金融市場にどのような影響を与えるのか、想定はしていなかったのでしょうか。今や、瞬時にして数十兆円規模の資金が動いてしまう金融市場では、昨日一日の動きだけでも、至るところで「Bloody Market」(血だらけの市場)の様相を見せていました。

昨日の朝方、トランプ大統領が「相互関税」を発動し、日本に対しても「24%」の関税を課すことを発表したことで、日本の市場は大混乱。為替は一時148円台半ばまでドルが売られ、日経平均株価は寄り付き直後は売り気配のまま、多くの銘柄に値が付かない状況でした。その後一時は、前日比1600円程下げる場面もありました。ドル円は148円台に戻す場面があったものの、売りに押され午後には146円台まで下げました。債券市場でも安全資産の国債に買いが集まり、長期金利は1.3%台まで急低下しました。「リスク回避」の流れは欧州を経て米国市場でも止まらず、NY株式市場では3指数が軒並み急落。ダウは1600ドルを超える下げとなり、S&P500はこの日だけでおよそ2兆ドル(約290兆円)が消失。原油市場でも、世界的な景気後退を織り込む形で、WTI原油価格は4ドル76セント安(6.6%)。一方、安全資産の債券は大きく買われ、金利が急低下したことでドル円は145円20銭まで売られました。昨日のコメント執筆時では148円台だったドル円が下落すると予想し、「146円台もあるかもしれません」と書きましたが、その水準を大きく下回る結果でした。NYからは「買えるものは債券しかない」といった声も聞かれました。

トランプ関税の影響がどの程度深刻なのかは今後のデータを確認する必要がありますが、もしかしたら日本に対しては「好意的な内容」になるのではないかといった「淡い期待」も一部にはありましたが、容赦のない決定でした。トランプ氏は関税決定後の演説でこう述べていました。「敵も味方も同じだ。味方の方がひどいケースもある」と発言し、トヨタ自動車を名指しで、「トヨタは外国製の自動車100万台以上を米国に売りつける。われわれの企業は他国への進出を許されていない」と、指摘していました。この言葉に象徴されているように、ソフトバンク・グループが、オープンAIとスターゲート・プロジェクトを立ち上げ、5000億ドル(約72兆円)規模の投資を米国内に行うとホワイトハウスで発表し、トランプ氏から称賛されていましたが、「それとこれとは別」ということでした。「頂けるものは頂く」といった、単なるディールでしかないということです。

約60もの国や地域に対してより高い関税率を設定した米国に対して、カナダのカーニー首相は「関税に」対抗措置で闘うと述べていました。具体的な内容には言及していませんが、カナダは既に米国からのオレンジジュースやウイスキー、二輪車などの輸入品に300億カナダドル(約310億円)相当の関税をかけています。また、カナダ国内ではトランプ氏が「51番目の州にしたい」と述べたこともあり、米国製品不買運動も起きている模様です。さらに、欧州委員会のフォンデアライエン委員長も「相互関税」の決定を受けて、「大変残念だ。更なる対抗策を準備している」と述べながらも、「交渉するのは、まだ遅くない。対立から交渉に移ろう」と呼び掛けていました。「トランプ大統領の発表は世界経済にとって大きな打撃だ。交渉が失敗した場合にEUの利益とビジネスを守るため、さらなる対抗措置を準備している」と強調しています。

新たに24%の関税を賦課されることになった日本の自動車メーカーへの影響はまだ不透明ですが、裾野の広い自動車産業を考えると、決して軽微ではありません。昨日は日本の国債も買われ、長期金利が急低下しました。これらを考えると、5月会合での日銀による「追加利上げの可能性はほぼなくなった」と予想していいと思います。

一方米国では「相互関税」の導入で、多くの専門機関が「インフレを押し上げる」と、警告しています。単純計算で、米国内で新たに車を買うのに、これまでより100万から150万円多く必要になると指摘する向きもあります。個人消費が落ち込み米国内の景気を減速させる可能性もあります。JPモルガンは「今回の関税措置により、今年の物価上昇率が最大1.5ポイント押し上げられる可能背性がある」と試算し、「個人所得と支出への重しになる」と、指摘しています。今夜は「3月の雇用統計」の発表もありますが、今のところ労働市場には目立った減速感は出ていません。ただ、景気減速が現実のものとなれば、利下げを行い景気を下支えする必要があります。一方、貿易相手国の対抗措置の内容にもよりますが、米国内の物価上昇は避けられないところです。FRBは景気減速とインフレとの板挟みとなり、難しい舵取りを迫られることになります。FRBのクック理事は3日、ピッツバーグ大学で講演を行い「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」と述べ、現在FRBが置かれている厳しい立場を率直に吐露していました。また、ジェファーソンFRB副議長はアトランタでのイベントで、「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」と述べ、不確実性が存在する中で、政策金利は引き続き良い位置にいるとの見方を示していました。

「コロナショック」を乗り越えてきた金融市場に、今度は「トランプショック」が襲いかかってきました。トランプ氏は、この日の市場の反応について問われ、「とても順調だ」と答えていました。ドル円は一日で150円台半ばから145円台前半まで、実に5円以上落ちたことになります。本日も日経平均株価は相当な下げが予想されます。外では桜が咲く中、昨日は気温も上がらず「花冷え」の様相でしたが、株価の花は咲くどころか、蕾のまま朽ち果てそうです。株がどこまで下げるのかによって、ドル円の水準も決まってきそうです。145円を割り込むと下値のメドを探すのが難しいですが、昨年9月末の水準である143円30−40銭あたりでしょうか。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
4/3 ジェファーソン・FRB副議長 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 --------
4/3 クック・FRB理事 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 --------
4/2 トランプ・米大統領 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 --------
4/1 フォンデアライエン・欧州委員長 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 --------
3/31 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレは落ち着いた水準へと実際に鈍化していることから、そうした確信は得られる可能性が高い」、(トランプ氏の関税政策について)、「政策判断への影響は、当局者らの見通しがより明確になるには時間がかかる」 --------
3/31 ウイリアムズ・NY連銀総裁 「FOMC参加者の間では、インフレ見通しに上振れリスクがあるとの極めて幅広い見方が示された。それは私の個人的見解とも完全に一致している」、「今後実施される関税などの政策に大きく左右され得る上振れリスクがあることは確かだ。関税が経済に与える影響はまだ明らかではない。最新のデータを注視していく」 --------
3/27 IMF 「大規模な政策転換が発表されており、最新のデータでは経済活動が2024年の非常に強いペースから減速していることが示唆されている。ただし、リセッションはわれわれの基本シナリオには含まれていない」 --------
3/27 コリンズ・ボストン連銀総裁 「関税が短期的にインフレ率を押し上げるのは『不可避』と見受けられる」、「金利据え置きの長期化が適切になる公算が大きい」、「一段と広範にわたる関税賦課やそれに対する報復措置が講じられる状況では特に、インフレ期待が重要になる」 --------
3/26 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「向こう1,2年でインフレが低下して労働市場が引き続き堅調なら、金利をさらに引き下げることができるはずだ。住宅ローン金利に一定の効果があるだろう」、「このところの信頼感低下は関税を巡る不確実性を反映している面が大きい」 --------
3/26 ムサレム・セントルイス連銀総裁 「関税による影響が一時的なものにとどまるかどうかは不透明だ。その二次的影響によって金融当局が金利をより長期にわたって据え置く可能性がある」 --------
3/25 クーグラー・FRB理事 「ここ数カ月に財のインフレが加速傾向にあるほか、」ミシガン大学の調査データで短期・長期両方のインフレ期待が高まっている。トランプ大統領は貿易相手国に対して新たな関税を導入しているほか、さらなる関税を示唆しており、経済を巡る不確実性は強まっている」、「政策金利をしばらくの間、据え置くことを支持する」 --------
3/24 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「1回にした理由は主に、インフレが非常に不安定になり、2%目標に向かって劇的かつ明確に動くことはないだろうと考えているからだ。その目標達成が遅れているため、政策を中立水準に戻す適切な道筋も遅れざるを得ないと考えている」 --------
3/19 パウエル・FRB議長 (関税性政策によるインフレについて)、「米金融当局が何もせず急速に解消し、一過性のものであるならば、拘泥しないのが適切な場合もある」、「一時的なものになるかどうか、当局として実際のところ分からない」 --------
3/19 トランプ大統領 「米国の関税が経済に移行(緩和!)し始めたら、FRBは金利を引き下げた方がずっといい」 ドル円150円台前半から149円割れまで下落。
3/7 パウエル・FRB議長 「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」、(追加利下げについては)、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」、(米経済の現状について)、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」 株が買われ、債券が売られ金利が上昇。ドル円は147円割れから148円台前半まで上昇。
3/3 トランプ大統領 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 ドル円は149円台半ばから下落。
2/25 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレ率が当局目標の2%に戻りつつあるとの自信を深めるまで、やや景気抑制的な姿勢を維持することが理にかなっている。いんふれとの闘いは長期化していると認識しているが、われわれが断固たる姿勢を維持することが極めて重要だ」 --------
2/20 ムサレム・セントルイス連銀総裁 「インフレ率が2%超にとどまる、ないし上昇するリスクが上方向に傾いているようだ。インフレが停滞するリスクは、労働市場が顕著に軟化するリスクよりも大きい」とし、その上で、「インフレ率が当局目標の2%へと順調に低下してきたことが明確になるまで、やや景気抑制的な金融政策を維持すべきだ」 --------
2/18 ウォラー・FRB理事 「昨年の場合と同様に、冬季の進展休止が一時的なものならば、一段の緩和策が適切になるだろう。しかし、その時期が明確になるまでは金利据え置きは望ましい」 ドル円は151円台から152円台に乗せる。
2/18 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 インフレ抑制の進展について落胆する理由はないと私は考えている。単に望まれているより長い時間がかかるだけだ」、(トランプ政権の政策の影響について)「時間をかけて判断すべきだ」 --------
2/17 ハーカー・フィラデルフィア連総裁 「具体的な時間的見通しは約束しないが、インフレは引き続き鈍化傾向にあり、金利は長期的に引き下げられると楽観している --------
2/17 ボーマン・FRB理事 「フェデラルファンド(FF)金利をより中立的な政策スタンスに近づけるプロセスは、新たな段階に入った。慎重で段階的なアプローチが好ましいと私が考えるのは、いくつか理由がある。現行政策のスタンスを考慮すると。1年前からの株高による金融環境の緩みが、ディスインフレの進行を遅らせたかもしれないと考えている」 --------
2/12 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「より明確に把握できるまでは、金融政策がどこに向かうのか、どのくらいの速度・ペースで進むべきかについて判断を下すことが不可能だ。従ってわれわれは動き出す前に、より多くの情報を入手する必要がある。われわれは十分な情報を得た時点で動くことになるだろう」 --------
2/12 パウエル・FRB議長 「1つや2つの良好なデータに興奮することはない。1つや2つの悪いデータに強く反応することもない」、「インフレに関しては近いところだが、まだ到達はしていない。昨年のインフレ率は2.6%だった。よって素晴らしい進展と言えるが、まだ達してはいない」 --------
2/11 サマーズ・元財務長官 「1月の雇用統計における賃金の大幅上昇など、労働市場のタイト化の兆しは、新政権による措置が講じられる前から、消費者物価が上昇する可能性がある背景がすでに整っている。ホワイトハウスから打ち出される政策が実行される前であっても、インフレに対して非常に注意をはらわなければならない」、「現在のサイクルでさらなる利下げ余地はない」 --------
2/11 パウエル・FRB議長 「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している。よって政策スタンスの調整は急ぐ必要はない」、「政策による景気抑制の度合い低下が速過ぎ、ないし行き過ぎとなれば、インフレ面での進展を妨げる可能性がある。一方で遅過ぎ、または少な過ぎであれば、経済活動と雇用を過度に弱めかねない」、(トランプ政権が進めている関税の強化の不透明感が強まっている景気への影響に関しては)、「われわれは2大責務における両面のリスクに注意を払っている。政権はわれわれが直面するリスクと不確実性に対処する上で良い態勢にある」・・・・(上院議会証言で) --------
2/7 クーグラー・FRB理事 「軟化も過熱の兆候も見られない健全な労働市場と整合だ」、「トランプ大統領の新たな政策案の経済効果については、かなりの不確実性がある」 --------
2/5 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「2025年にインフレ率が上昇したり、インフレでの進展が停滞したりする場合、米金融当局はインフレが過熱によるものか、または関税によるものかを見極める難しい立場に置かれている」 --------
2/5 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「そうした不確実性がもう少し明瞭になるまで。成長や雇用、インフレに関して何が起きているのかを理解するのは非常に難しい」 --------
2/4 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁 「米経済は良好な状態であり、トランプ政権が導入する政策にFRBとして即座に対応する必要はない」、「多くの不確実性がある。経済と政策変更のいずれに関しても、時間を取って今後の動向を見極めることが可能だ」、「FRBの意思決定において、予防的である必要はない」 --------
2/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「昨年末までに実施した100ベーシスポイントの利下げが、経済にどのように反映されるのか確認したい」、「データの内容次第では、しばらく様子見になるかもしれない」 --------
2/3 コリンズ・ボストン連銀総裁 (ここ数日に発表されたような広範な関税が実施されれば、物価に影響を与える可能性が高いとしつつ、厳密な政策はまだ練られていない状況とし)、「影響の度合いを正確に予測するのは難しい」、「追加調整を行う緊急性はない。データ次第になる。いずれかの時点で、政策スタンスに関して一段の正常化が行われるのは確かだ」 --------
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和