「ドル円再び下げ基調か?」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 世界的にリスク回避の流れが強まっていることを受け、ドル円は欧州市場で145円を割り込み、144円53銭辺りまで下落。ただ、NYでは「雇用統計」の結果が好調だったことで、147円42銭まで上昇するなど、大荒れの展開。
- ユーロドルは1.1090まで買われたがその後反落。
- 株式市場では3指数が大幅に続落。ダウは2231ドル下げ、過去4番目となる下げを記録。
- 債券は買われ、長期金利は4%台を割り込む。
- 金は86ドル安と大幅に下げ、原油価格も5ドルに迫る下落。
3月失業率 → 4.2%
3月非農業部門雇用者数 → 22.8万人
3月平均時給 (前月比) → 0.3%
3月平均時給 (前年比) → 3.8%
3月労働参加率 → 62.5%
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ドル/円 | 145.02 〜 147.42 |
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ユーロ/ドル | 1.0925 〜 1.1090 |
ユーロ/円 | 159.00 〜 161.42 |
NYダウ | −2.231.07 → 38,314.86 |
GOLD | −86.30 → 3,035.40ドル |
WTI | −4.96 → 61.99ドル |
米10年国債 | −0.034 → 3.994% |
本日の注目イベント
- 日 2月景気先行指数(CI)(速報値)
- 日 2月景気一致指数(CI)(速報値)
- 中 中国3月外貨準備高
- 独 独2月貿易収支
- 独 独2月鉱工業生産
- 欧 ユーロ圏2月小売売上高
- 米 2月消費者信用残高
本日のコメント
「トランプ関税」の影響を受け世界の金融市場は大きく混乱し、さらに混迷の度を増しています。「買えるものは債券だけだ」といった声の通り、先週末のNYでは、ほぼ全ての金融商品などが売られました。
ドル円は4日の欧州市場で節目と見られていた145円を割り込み、一時は144円53銭近辺までドル売りが進みました。そのままでは143円台、142円台も意識される展開でしたが、NYでは「3月の雇用統計」が市場予想を大きく上回ったことで、ドルが買い戻され、147円42銭まで反発する荒っぽい動きでした。7時間ほどの間に、3円程上昇したことになります。NY株式市場ではさらに大きな動きとなりました。中国が米国への対抗措置として同じく34%の報復関税を発表し「貿易戦争」の序幕が切って落とされたことで、ダウは前日比で2231ドル下落し、過去3番目の下げ幅を記録しました。中国は10日から、米国からの輸入品すべてに34%の関税を課すこととし、さらに電気自動車(EV)などに使う「ジスプロシウム」といったレアアースなどを輸出規制対象に加え、中国当局の許可がない限り、他国へは輸出できなくなります。株式市場だけではなく、この日はこれまで一貫して買われてきた「金」も売られました。ここ2日間では130ドル(約4%)の下げを記録しています。株式等の損を、利益がのっている「金」で穴埋めするといった動きではないかと思われます。また、原油価格もここ2日間で9ドル72セント(約13.6%)と大きく下げ、2021年4月以来およそ5年ぶりの安値に沈んでいます。こちらは、「トランプ関税」の影響で世界的なリセッション入りは避けられないことで、原油の使用量が減少すると言った見立てになっています。
このように「トランプ関税」の発動を受け、世界の金融・商品市場が大混乱しているなか、トランプ氏に「極めて従順」なベッセント財務長官は、関税措置を受けて世界の金融市場が売り浴びせに直面する状況下でも、強気の姿勢を見せていました。ベッセント氏はNBCの番組で、「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」と、トランプ関税を擁護する発言を行い、さらに国家経済会議(NEC)のハセット委員長はABCの番組で、「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」と認めつつも、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」と述べていました。両氏ともトランプ政権の中枢をなす人物で、この種の発言は当然と言えば当然で、意外感はありません。
しかしこの大混乱を受け、米国内でもトランプ氏の関税政策を批難する声が高まっています。これまでトランプ氏を、総じて強力に支持してきた共和党のクルーズ上院議員は4日、「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」と述べ、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に深刻な打撃を与えることになる」と話しています。ただ、クルーズ議員の発言も、世界景気への懸念というよりは、選挙で共和党が負け、自身もその影響を受けることを懸念した「保身発言」のようにも聞こえます。さらに、米国民の間にも不安が広がっています。5日にはNYで数万人がデモを行い「トランプは世界を破壊した」と叫んで行進を行いました。参加者は「民主主義の危機」と書いたプラカードを手に、大声で行進していました。また、このようなデモはNYだけではなく、ワシントンやボストン、ロスアンゼルスなど全米50州の全ての主要都市で行われており、数十万人が参加したとみられています。(日経新聞)
4日NYでの株価の大幅安を受け、今日の日経平均株価も大きく売られそうです。筆者の友人の記者は今朝、「日経3万円割れの声もある」と、話していました。株価が大きく下げ、リスク回避の円買いがさらに進み、4日に記録した144円台半ばを割り込めば、143、142円台も意識されてきます。この「負のスパイラル」を止めるには、トランプ氏自身が方針を変えるはずもなく、やはり国民世論の声と議会からの圧力に頼るしかありません。本稿執筆時の8時過ぎには、日経先物はすでに「3万飛び台」に突入しています。
ドル円は143円台も考えておく必要がありそうです。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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4/4 | クルーズ・米上院議員 | 「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に」深刻な打撃を与えることになる」 | -------- |
4/4 | ハセット・国家経済会議(NEC)委員長 | 「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」 | -------- |
4/4 | ベッセント・米財務長官 | 「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」 | -------- |
4/3 | ジェファーソン・FRB副議長 | 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 | -------- |
4/3 | クック・FRB理事 | 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 | -------- |
4/2 | トランプ・米大統領 | 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 | -------- |
4/1 | フォンデアライエン・欧州委員長 | 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 | -------- |
3/31 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「インフレは落ち着いた水準へと実際に鈍化していることから、そうした確信は得られる可能性が高い」、(トランプ氏の関税政策について)、「政策判断への影響は、当局者らの見通しがより明確になるには時間がかかる」 | -------- |
3/31 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「FOMC参加者の間では、インフレ見通しに上振れリスクがあるとの極めて幅広い見方が示された。それは私の個人的見解とも完全に一致している」、「今後実施される関税などの政策に大きく左右され得る上振れリスクがあることは確かだ。関税が経済に与える影響はまだ明らかではない。最新のデータを注視していく」 | -------- |
3/27 | IMF | 「大規模な政策転換が発表されており、最新のデータでは経済活動が2024年の非常に強いペースから減速していることが示唆されている。ただし、リセッションはわれわれの基本シナリオには含まれていない」 | -------- |
3/27 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | 「関税が短期的にインフレ率を押し上げるのは『不可避』と見受けられる」、「金利据え置きの長期化が適切になる公算が大きい」、「一段と広範にわたる関税賦課やそれに対する報復措置が講じられる状況では特に、インフレ期待が重要になる」 | -------- |
3/26 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「向こう1,2年でインフレが低下して労働市場が引き続き堅調なら、金利をさらに引き下げることができるはずだ。住宅ローン金利に一定の効果があるだろう」、「このところの信頼感低下は関税を巡る不確実性を反映している面が大きい」 | -------- |
3/26 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「関税による影響が一時的なものにとどまるかどうかは不透明だ。その二次的影響によって金融当局が金利をより長期にわたって据え置く可能性がある」 | -------- |
3/25 | クーグラー・FRB理事 | 「ここ数カ月に財のインフレが加速傾向にあるほか、」ミシガン大学の調査データで短期・長期両方のインフレ期待が高まっている。トランプ大統領は貿易相手国に対して新たな関税を導入しているほか、さらなる関税を示唆しており、経済を巡る不確実性は強まっている」、「政策金利をしばらくの間、据え置くことを支持する」 | -------- |
3/24 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「1回にした理由は主に、インフレが非常に不安定になり、2%目標に向かって劇的かつ明確に動くことはないだろうと考えているからだ。その目標達成が遅れているため、政策を中立水準に戻す適切な道筋も遅れざるを得ないと考えている」 | -------- |
3/19 | パウエル・FRB議長 | (関税性政策によるインフレについて)、「米金融当局が何もせず急速に解消し、一過性のものであるならば、拘泥しないのが適切な場合もある」、「一時的なものになるかどうか、当局として実際のところ分からない」 | -------- |
3/19 | トランプ大統領 | 「米国の関税が経済に移行(緩和!)し始めたら、FRBは金利を引き下げた方がずっといい」 | ドル円150円台前半から149円割れまで下落。 |
3/7 | パウエル・FRB議長 | 「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」、(追加利下げについては)、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」、(米経済の現状について)、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」 | 株が買われ、債券が売られ金利が上昇。ドル円は147円割れから148円台前半まで上昇。 |
3/3 | トランプ大統領 | 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 | ドル円は149円台半ばから下落。 |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書