「トランプ氏、相互関税の90日間延期を発表」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- ドル円はNYの朝方には144円を割り込む水準まで売られる。午後トランプ大統領が「相互関税の90日間延期」を発表すると一気に巻き戻しが起き、148円26銭までドル高が進む。
- ユーロドルも朝方は1.10台で推移していたが、1.0913まで下落。
- 株式市場は一転して全面高の展開。ダウは一時3100ドル高を見せるなど、3指数が記録的な上昇に。
- 債券は続落し、長期金利は4.33%台に。
- 金は急反発し、原油も2ドルを超える上昇。
ドル/円 | 143.99 〜 148.26 |
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ユーロ/ドル | 1.0913 〜 1.1095 |
ユーロ/円 | 159.13 〜 162.20 |
NYダウ | +2962.86 → 40,608.45 |
GOLD | +89.20 → 3,079.40ドル |
WTI | +2.77 → 62.35ドル |
米10年国債 | +0.039 → 4.332% |
本日の注目イベント
- 中 中国3月消費者物価指数
- 中 中国3月生産者物価指数
- 英 英3月消費者物価指数
- 米 新規失業保険申請件数
- 米 3月消費者物価指数
- 米 3月財政収支
- 米 ローガン・ダラス連銀総裁、イベントで開会挨拶
- 米 グールズビー・シカゴ連銀総裁講演
- 米 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁講演
- 米 シュミッド・カンザスシティー連銀総裁講演
本日のコメント
日本時間昨日の昼12時を回ると、ドル円は145円台半ばから前半へとドルが売られ、その30分後に午後の取引が始まった東京株式市場では、日経平均株価が下げ幅を拡大して取引がスタートしました。ドル円も再び145円を割り込みました。
「トランプ関税」の発動です。「相互関税」では、日本に対しても24%の関税が適用され、中国に至っては中国が報復措置を止めない限り、合計で104%もの高関税が適用されることになります。トランプ氏が本気で各国に高関税をかけることを口にした3月下旬あたりから、ドル安・株安の動きが始まり、4月2日の「相互関税」発表を機にその動きが加速しました。トランプ氏の暴挙をもはや止める人は世界中に見当たりません。あきらめムードが支配的です。「世界経済にとっての救いは、米国が世界貿易の15%程度しか占めていないことだ。そして、中国を含む残り85%を占める国々が現行の通商制度を維持したいと考えていることだろう」といった声も出てきました。カナダのカーニー首相は先月、「米国はもはや信頼できるパートナーではない」と述べ、米国との決別を明確にしました。また、国連のグテレス事務総長もNYで会見し、「貿易戦争には極めて否定的だ。貿易戦争に勝者はおらず、誰もが敗者になる」と指摘。その上で、「世界の最貧困層の人々にとって大きな打撃となる景気後退につながらないことを心から望む」と語っていました。日経新聞も9日の電子版で、「日欧は『G6』を足場に、他の民主主義国にも連携を広げ、世界秩序がさらに崩れるのを防ぐしかないだろう。韓国や、オーストラリア、ニュージーランド、他の欧州諸国が対象になるだろう」といった記事を掲載していました。このように悲観一色の中、日本時間の夜中に、「相互関税の90日間の延期」が発表されました。
金融・商品市場は、これまでと一転して巻き戻しの動きが一気に起こり、ドル円は144円近辺から148円台まで、わずか5時間ほどで4円を上回る上昇。株式市場でも買い戻しの動きが活発となり大商いの中3指数が急騰。さらにWTI原油価格も2ドルを超える上昇でした。トランプ氏はSNSで、「Be cool. Everything is going to work out well」(冷静になれ。全ては上手くいっている)と投稿し、さらに「This is a great time to buy! !! DJT」とまるで、株のストラテジスト気取りでした。この動きに翻弄された個人投資家はたまったものではありません。これら一連の発言や投稿を個人投資家が行ったとしたら、「風説の流布、相場操縦」にあたり、金融商品取引法違反に抵触する可能性もあるのではないかと思えるくらいです。7日には「私の政策は決してかわらない」と述べており、今朝はその言葉を反故にしています。大統領自身が金融市場に介入するといったこれら一連の動きを、「ルール違反だ」と指摘する向きもあります。事実、今週だけでも「大損した人」、「大儲けした人」が多くいるはずです。また、「トランプ相場」にうんざりしている人も多くいると思います。
ただ、これで「トランプ関税劇場」が終わったわけではありません。「相互関税」適用対象国70カ国余りとは今後の交渉次第で、トランプ氏が納得すれば、関税の撤回もしくは緩和が施されると思われますが、問題は「中国」です。中国に対しては同国への関税を「125%」へと引き上げると言及したことに対して中国政府は、「最後まで闘う」とし、米国からの輸入品に対する関税を84%に引き上げると発表しています。まさに、「チキンレース」の様相を呈してきました。中国国営メディアは、「中国は争いを望まないが、争いを恐れることもない」と伝えています。「米中貿易戦争」に突入しそうな状況になってきましたが、ここでも、最終的には「習近平主席を交渉のテーブルに引っ張り出したい」というのが、トランプ氏の「ディール」(本音)ではないかと思っていますが、どうでしょう。今朝の報道では、この事態を「貿易戦争」にとどまらず、「核戦争」の危険性もあると指摘する声がありました。現実的ではないものの、「自国だけよければそれでよし」とするトランプ氏のこと、世界が分断される方向に進んでいることはひしひしと伝わってきます。本日の東京市場では、日経平均株価が3000円程上昇する可能性もありそうです。株価の上昇に「ドル買い円売り」がどこまで出るのかと、いったところです。
本日のドル円は146円50銭〜149円50銭程度とワイドに予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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4/4 | クルーズ・米上院議員 | 「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に」深刻な打撃を与えることになる」 | -------- |
4/4 | ハセット・国家経済会議(NEC)委員長 | 「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」 | -------- |
4/4 | ベッセント・米財務長官 | 「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」 | -------- |
4/3 | ジェファーソン・FRB副議長 | 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 | -------- |
4/3 | クック・FRB理事 | 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 | -------- |
4/2 | トランプ・米大統領 | 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 | -------- |
4/1 | フォンデアライエン・欧州委員長 | 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 | -------- |
3/31 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「インフレは落ち着いた水準へと実際に鈍化していることから、そうした確信は得られる可能性が高い」、(トランプ氏の関税政策について)、「政策判断への影響は、当局者らの見通しがより明確になるには時間がかかる」 | -------- |
3/31 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「FOMC参加者の間では、インフレ見通しに上振れリスクがあるとの極めて幅広い見方が示された。それは私の個人的見解とも完全に一致している」、「今後実施される関税などの政策に大きく左右され得る上振れリスクがあることは確かだ。関税が経済に与える影響はまだ明らかではない。最新のデータを注視していく」 | -------- |
3/27 | IMF | 「大規模な政策転換が発表されており、最新のデータでは経済活動が2024年の非常に強いペースから減速していることが示唆されている。ただし、リセッションはわれわれの基本シナリオには含まれていない」 | -------- |
3/27 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | 「関税が短期的にインフレ率を押し上げるのは『不可避』と見受けられる」、「金利据え置きの長期化が適切になる公算が大きい」、「一段と広範にわたる関税賦課やそれに対する報復措置が講じられる状況では特に、インフレ期待が重要になる」 | -------- |
3/26 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「向こう1,2年でインフレが低下して労働市場が引き続き堅調なら、金利をさらに引き下げることができるはずだ。住宅ローン金利に一定の効果があるだろう」、「このところの信頼感低下は関税を巡る不確実性を反映している面が大きい」 | -------- |
3/26 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「関税による影響が一時的なものにとどまるかどうかは不透明だ。その二次的影響によって金融当局が金利をより長期にわたって据え置く可能性がある」 | -------- |
3/25 | クーグラー・FRB理事 | 「ここ数カ月に財のインフレが加速傾向にあるほか、」ミシガン大学の調査データで短期・長期両方のインフレ期待が高まっている。トランプ大統領は貿易相手国に対して新たな関税を導入しているほか、さらなる関税を示唆しており、経済を巡る不確実性は強まっている」、「政策金利をしばらくの間、据え置くことを支持する」 | -------- |
3/24 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「1回にした理由は主に、インフレが非常に不安定になり、2%目標に向かって劇的かつ明確に動くことはないだろうと考えているからだ。その目標達成が遅れているため、政策を中立水準に戻す適切な道筋も遅れざるを得ないと考えている」 | -------- |
3/19 | パウエル・FRB議長 | (関税性政策によるインフレについて)、「米金融当局が何もせず急速に解消し、一過性のものであるならば、拘泥しないのが適切な場合もある」、「一時的なものになるかどうか、当局として実際のところ分からない」 | -------- |
3/19 | トランプ大統領 | 「米国の関税が経済に移行(緩和!)し始めたら、FRBは金利を引き下げた方がずっといい」 | ドル円150円台前半から149円割れまで下落。 |
3/7 | パウエル・FRB議長 | 「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」、(追加利下げについては)、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」、(米経済の現状について)、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」 | 株が買われ、債券が売られ金利が上昇。ドル円は147円割れから148円台前半まで上昇。 |
3/3 | トランプ大統領 | 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 | ドル円は149円台半ばから下落。 |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書