「トランプ大統領再び金融政策に介入」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 東京時間から下げ基調を強めていたドル円は、欧州時間に140円48銭まで下落。NYでは米金利が上昇したことから140円台半ばは維持したものの上値は重い展開。
- ユーロドルは続伸し、再び1.15台に乗せる。
- 株式市場は3指数が大幅に続落。トランプ氏がFRBの金融政策に再び介入したことで、FRBの信頼性を損ねるとの見方にリスク資産の株式はほぼ全面安。
- 債券は売られ、長期金利は4.41%台に上昇。
- 金は大きく買われ、初の3400ドル台に。原油は反落。
3月景気先行指標総合指数 → −0.7%
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ドル/円 | 140.56 〜 141.03 |
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ユーロ/ドル | 1.1482 〜 1.1550 |
ユーロ/円 | 161.77 〜 162.55 |
NYダウ | −971.82 → 38,170.41 |
GOLD | +96.90 → 3,425.30ドル |
WTI | −1.60 → 63.08ドル |
米10年国債 | +0.086 → 4.411% |
本日の注目イベント
- 欧 ユーロ圏4月消費者信頼感指数(速報値)
- 米 4月リッチモンド連銀製造業景況指数
- 米 IMF世界経済見通し(WEO)
- 米 ジェファーソン・FRB副議長講演
- 米 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁、座談会に参加
- 米 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、討論会に参加
- 米 決算発表 → テスラ、GE、ベライゾン
本日のコメント
またまたトランプ大統領の金融政策への介入で、市場は大混乱です。トランプ氏は再びパウエルFRB議長に対して、品のない、異例な発言を行いました。SNSで、「(パウエル議長に対して)ミスター・トウー・レイト(Mr. too late 遅すぎる男)という、とんでもない負け犬(Major loser)がいますぐ金利を下げなければ、経済は減速する恐れがある」と、パウエル氏を痛烈に批判しました。そして、「インフレはほぼ起こり得ない。エネルギーと食料品の価格が下がっているためだ」と投稿しています。食料品はドル安の影響もあるのでしょう。また、原油価格が大きく下げているのは、「トランプ関税」の影響で世界の経済活動が減速し、その結果、原油消費量が減少することを折り込んだ動きで、「震源地」はトランプ氏自身です。
この発言を受け、市場は大きく揺れ動きました。世界で最も注目され、その政策決定自体が他の国々にも大きな影響を与えるFRBが、トランプ氏による政治介入を受け本来の政策を実施できないリスクが高まっていることに対する懸念が一気に広がりました。FRBの信頼性が損なわれる事態に、NYダウは一時1300ドル程下げ、ハイテク株も含めほぼ全面安の展開でした。またリスク資産が売られると、通常は買われる債券もこの日は売られ、すでにドルも売られていたことから再び「トリプル安」の展開となり、いわば「米国売り」の様相となりました。国債と並ぶ安全資産の金は大きく買われ、初の3400ドル台に乗せています。また、WTI原油価格は1ドル以上の下げになっています。「中央銀行の独立性」はすでに先進国では確立されており、そのためには、専門家によるコミッティーもあり、米国で言えば「Federal reserve board」であり、日本では審議委員も加わった「日銀金融政策決定会合」です。 自分の意にそぐわなければ、簡単に首を挿げ替える行為は、まるでトルコのエルドアン大統領を彷彿させます。そもそもFRBは、金融引き締めの効果が出て来たことでインフレが沈静化し、利下げモードに金融政策の舵を切り直しています。今年1月頃には「年内3回の利下げ」がマーケットのコンセンサスになっていました。そこに大きな壁として立ち塞がったのが、「トランプ関税」です。FRBのメンバーをしても読み切れない大幅関税引き上げの影響に、しばらくはその影響を見極めるまでは動けないというのが現在のFRBが置かれている状況です。筆者は、独裁者のような言動を続けるトランプ氏に対して、どのような形かは分かりませんが、いずれ市場から大きな「しっぺ返し」を受けると予想しています。
中国政府は21日各国に対して、米国と交わす貿易協定が中国の利益を損なうものであってはならないと警告しました。声明で、「他国が米国との貿易摩擦を解消することは認めるが、中国の利益を犠牲にする合意は断固として反対する。そのような事態は決して受け入れず、断固として対抗措置を講じる」としています。中国の習近平主席は先週、ベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪しており、これらの一連の行動に沿った内容の声明でした。米国との対立を鮮明にしている中国が、アジア圏での存在をより高めるため、「アジアの家族」戦略を推し進めているようです。
本日のドル円は140円〜142円程度を予想しています。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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4/17 | ラガルド・ECB総裁 | 「貿易摩擦の激化が輸出を抑え、投資や個人消費に重荷になる」、「世界的な貿易混乱の拡大は、インフレ見通しの不確実性を高めている」 | -------- |
4/16 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「二重の責務の両面から圧力がかかることが想定される状況下では、インフレのさらなる高止まりのリスクと労働市場の減速に伴うリスクとの間でバランスを保つため、金融政策を現状維持とする根拠は強いと考える」、「明確さを得るのが困難な場合には、追加データを待つことが今後の道筋を見極める一助となるだろう」 | -------- |
4/16 | パウエル・FRB議長 | 「長期のインフレ期待をしっかり抑制し続け、物価水準の一時的上昇が継続的インフレ問題にならないよう確実に対処することが、われわれの責務だ」、「物価の安定がなければ、全ての米国民に恩恵をもたらすような長期にわたる力強い労働市場環境の実現は不可能だ」 | -------- |
4/4 | クルーズ・米上院議員 | 「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に」深刻な打撃を与えることになる」 | -------- |
4/4 | ハセット・国家経済会議(NEC)委員長 | 「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」 | -------- |
4/4 | ベッセント・米財務長官 | 「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」 | -------- |
4/3 | ジェファーソン・FRB副議長 | 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 | -------- |
4/3 | クック・FRB理事 | 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 | -------- |
4/2 | トランプ・米大統領 | 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 | -------- |
4/1 | フォンデアライエン・欧州委員長 | 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 | -------- |
3/31 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「インフレは落ち着いた水準へと実際に鈍化していることから、そうした確信は得られる可能性が高い」、(トランプ氏の関税政策について)、「政策判断への影響は、当局者らの見通しがより明確になるには時間がかかる」 | -------- |
3/31 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「FOMC参加者の間では、インフレ見通しに上振れリスクがあるとの極めて幅広い見方が示された。それは私の個人的見解とも完全に一致している」、「今後実施される関税などの政策に大きく左右され得る上振れリスクがあることは確かだ。関税が経済に与える影響はまだ明らかではない。最新のデータを注視していく」 | -------- |
3/27 | IMF | 「大規模な政策転換が発表されており、最新のデータでは経済活動が2024年の非常に強いペースから減速していることが示唆されている。ただし、リセッションはわれわれの基本シナリオには含まれていない」 | -------- |
3/27 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | 「関税が短期的にインフレ率を押し上げるのは『不可避』と見受けられる」、「金利据え置きの長期化が適切になる公算が大きい」、「一段と広範にわたる関税賦課やそれに対する報復措置が講じられる状況では特に、インフレ期待が重要になる」 | -------- |
3/26 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「向こう1,2年でインフレが低下して労働市場が引き続き堅調なら、金利をさらに引き下げることができるはずだ。住宅ローン金利に一定の効果があるだろう」、「このところの信頼感低下は関税を巡る不確実性を反映している面が大きい」 | -------- |
3/26 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「関税による影響が一時的なものにとどまるかどうかは不透明だ。その二次的影響によって金融当局が金利をより長期にわたって据え置く可能性がある」 | -------- |
3/25 | クーグラー・FRB理事 | 「ここ数カ月に財のインフレが加速傾向にあるほか、」ミシガン大学の調査データで短期・長期両方のインフレ期待が高まっている。トランプ大統領は貿易相手国に対して新たな関税を導入しているほか、さらなる関税を示唆しており、経済を巡る不確実性は強まっている」、「政策金利をしばらくの間、据え置くことを支持する」 | -------- |
3/24 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「1回にした理由は主に、インフレが非常に不安定になり、2%目標に向かって劇的かつ明確に動くことはないだろうと考えているからだ。その目標達成が遅れているため、政策を中立水準に戻す適切な道筋も遅れざるを得ないと考えている」 | -------- |
3/19 | パウエル・FRB議長 | (関税性政策によるインフレについて)、「米金融当局が何もせず急速に解消し、一過性のものであるならば、拘泥しないのが適切な場合もある」、「一時的なものになるかどうか、当局として実際のところ分からない」 | -------- |
3/19 | トランプ大統領 | 「米国の関税が経済に移行(緩和!)し始めたら、FRBは金利を引き下げた方がずっといい」 | ドル円150円台前半から149円割れまで下落。 |
3/7 | パウエル・FRB議長 | 「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」、(追加利下げについては)、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」、(米経済の現状について)、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」 | 株が買われ、債券が売られ金利が上昇。ドル円は147円割れから148円台前半まで上昇。 |
3/3 | トランプ大統領 | 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 | ドル円は149円台半ばから下落。 |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書