今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「トランプ氏、FRB議長を解任する意図はない」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • 東京時間に140円台を割り込んだドル円はNYでは反発。ベッセント財務長官が米中貿易について楽観的な見方だとの報道が「米国売り」から一転。ドル円は141円67銭まで上昇。
  • ユーロドルは1.14台前半まで反落。
  • 株式市場は米中貿易戦争の緩和期待から3指数が大きく買われ全面高の展開。
  • 債券は買われ、長期金利は4.40%台に低下。
  • 金は3500ドル台まで買われた後反落。原油は反発。
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4月リッチモンド連銀製造業景況指数 → −13
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ドル/円 140.22 〜 141.67
ユーロ/ドル 1.1418 〜 1.1492
ユーロ/円 160.95 〜 161.82
NYダウ +1016.57 → 39,186.98
GOLD −5.90 → 3,419.40ドル
WTI +1.23 → 64.31ドル
米10年国債 −0.010 → 4.401%

本日の注目イベント

  • 独 独4月製造業PMI(速報値)
  • 独 独4月サービス業PMI(速報値)
  • 欧 ユーロ圏4月製造業PMI(速報値)
  • 欧 ユーロ圏4月サービス業PMI(速報値)
  • 欧 ユーロ圏2月貿易収支
  • 英 英4月製造業PMI(速報値)
  • 英 英4月サービス業PMI(速報値)
  • 英 ベイリー・BOE総裁講演
  • 米 3月新築住宅販売件数
  • 米 4月S&Pグローバル製造業PMI(速報値)
  • 米 4月S&Pグローバルサービス業PMI(速報値)
  • 米 4月S&Pグローバル総合業PMI(速報値)
  • 米 ベージュブック(地区連銀経済報告)
  • 米 G20財務相・中銀銀行総裁会議(ワシントン、24日まで)
  • 米 ウォラー・FRB理事、ムサレム・セントルイス連銀総裁、開会挨拶
  • 米 グールズビー・シカゴ連銀総裁、開会挨拶
  • 米 ハマック・クリーブランド連銀総裁講演
  • 米 決算発表 → ボーイング、AT&T、IBM

本日のコメント

昨日の東京時間昼すぎ、ドル円は140円台半ばからするすると下げ、140円10銭近辺まで売られました。140円割れは時間の問題と思われましたが、24日に予定されている加藤財務相とベッセント財務長官との関税交渉に加え、トランプ大統領が執拗にパウエル議長を批判していることも、ドル売りに作用したものでした。その後、午後にはついに139円台に入りました。この事態に国民民主党の玉木代表は、「ドル円相場が140円を割り込めば、日銀は正常化という名の金融引き締めよりも、金融緩和を検討する余地が出て来る」と、述べていました。中小企業の業績悪化や過度な円高回避を意識しての発言かとは思いますが、「利上げ停止」ではなく、「利下げ」の必要性に言及したことは、やや拙速かと思います。「トランプ関税」の影響が読み切れないことで、日銀も追加利上げへの決断を躊躇しており、物価と賃金の上昇は「オントラック」が続いている状況下で日銀は、基本的には利上げのタイミングを探っているのは間違いのないところかと思います。

またまた「朝令暮改」です。あれほどパウエル議長に対して批判の矛先を強め、「一刻も早く辞任すべきだ」と話していたトランプ大統領が日本時間今朝方に、一転して「パウエル議長解任の意図はない」と述べました。この発言を受け、ドル円は143円台まで急伸する場面がありました。もっとも、NYでは140円割れは一度も見られず、もみ合いの中、「ベッセント財務長官が投資家との非公開の会合で、関税を巡る中国との対立は長くは続かず、緩和して行く見通しを述べた」と、会合の出席者が明かしたと報じられ、前日までの「米国売り」が一気に巻き戻しの動きを見せていました。債券と株とドルが買われ「トリプル高」でした。長期債は買われ10年債利回りは4.40%台に低下。NYダウは1000ドルを超える上昇でS&P500も129ポイントの大幅上昇と、全てのセクターが買われる「全面高」でした。ドル円は141円台後半まで買われましたが、上述のように、トランプ氏の発言で143円台まで買い戻しが進みました。ただ、明日には加藤財務相とベッセント財務長官との関税交渉が控えており、やや楽観的には見ていますが、交渉の席で「為替が議題」となる可能性は依然として否定できません。同時に、自動車などの輸出企業は、まだドルが戻る場面では売るスタンスを維持しているはずです。目先は145円台を回復すれば、市場のセンチメントもやや変わるかもしれないと考えます。

上でも触れたように、トランプ氏は一転して「私にはパウエル氏を解任する意図は全くない。利下げ検討の面で彼にはもう少し活発になってほしい」と話し、自身の発言で大きく混乱した市場を沈静化することを意識した発言となっています。そもそも、大統領にFRB議長を解任する権限があるのかどうかが焦点になります。連邦準備法によると、米大統領は、「正当な理由があればFRBの理事を解任できる」が、定義は記載されていません。専門家は職務怠慢や不正行為があった場合が、「正当な理由」に該当するとしています。その意味では、パウエル議長が該当しないことは言うまでもありません。FRB議長については連邦議会の権限が大きく、正副議長や理事の人事には上院の承認が必要です。トランプ氏の支持基盤である共和党内からも、ケネディ上院議員がNBC番組で、「どの大統領であれ、大統領にFRB議長を解任する権限があるとは思わない」との声が上がっていました。

かりにも米国の大統領ともあろうものが、自身の発言で市場が大きく混乱することくらい承知しているはずで、第一期目で「学習済み」であろうと思います。トランプ氏の想定を超える暴挙には反対する声も次第に大きくなり、外堀も徐々に埋められているようにも思えます。連邦政府による大学への助成金を巡り、ハーバード大学はトランプ政権による助成金凍結の差し止めを求め、連邦地裁に提訴しました。同大学のガーバー学長は訴訟について、米政府の要求が「違憲かつ違法であり、政府の権限を超えている」と説明しています。この動きについては、コロンビア大学やイエール大学など、他の名門大学も訴訟を検討しているようです。過激な「トランプ関税」を巡っても、米国内の名門企業から「行き過ぎ」との声が上がっています。ゼネラル・エレクトリック(GE)のラリー・カルプCEOは22日、関税を巡り、トランプ大統領と今月会談したことを明らかにし、世界的な貿易戦争に起因する不安定な状況を乗り切ろうと幅広い働きかけを行っていると述べています。カルプ氏は、「私たちは、米国の競争力や製造業の活性化に関する政権の優先事項を確かに支持している」とした上で、「私たちは、大西洋を挟んだ双方向で、関税のない体制への事実上の回帰を呼びけた」(ブルームバーグ)と、話しています。この考えは、トランプ氏とは全く逆で、果たしてトランプ氏が聞く耳を持ったのかどうか疑問です。カルプ氏は最後に、「このメッセージが伝わったことを期待している」と結んでいました。

さすがに強硬すぎるトランプ氏の政策に関しても反対する声が増えており、トランプ氏への支持率も、ホワイトハウスに復帰して以来最低になっています。最新のロイター・イプソス調査では、「42%」で、1月20日就任直後の「47%」から急落していました。この調査は今月16日から21日までの6日間に行われ、回答者は4306人を対象に実施されました。また、共和党員の「53%」を含む「73%」の回答者が、トランプ氏は3期目を目指すべきではないと答えていました。

本日は日経平均株価も大きく買われそうです。円売りも勢いを増しそうで、予想レンジは141円50銭〜143円80銭程度とします。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
4/17 ラガルド・ECB総裁 「貿易摩擦の激化が輸出を抑え、投資や個人消費に重荷になる」、「世界的な貿易混乱の拡大は、インフレ見通しの不確実性を高めている」 --------
4/16 ハマック・クリーブランド連銀総裁 「二重の責務の両面から圧力がかかることが想定される状況下では、インフレのさらなる高止まりのリスクと労働市場の減速に伴うリスクとの間でバランスを保つため、金融政策を現状維持とする根拠は強いと考える」、「明確さを得るのが困難な場合には、追加データを待つことが今後の道筋を見極める一助となるだろう」 --------
4/16 パウエル・FRB議長 「長期のインフレ期待をしっかり抑制し続け、物価水準の一時的上昇が継続的インフレ問題にならないよう確実に対処することが、われわれの責務だ」、「物価の安定がなければ、全ての米国民に恩恵をもたらすような長期にわたる力強い労働市場環境の実現は不可能だ」 --------
4/4 クルーズ・米上院議員 「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に」深刻な打撃を与えることになる」 --------
4/4 ハセット・国家経済会議(NEC)委員長 「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」 --------
4/4 ベッセント・米財務長官 「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」 --------
4/3 ジェファーソン・FRB副議長 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 --------
4/3 クック・FRB理事 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 --------
4/2 トランプ・米大統領 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 --------
4/1 フォンデアライエン・欧州委員長 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 --------
3/31 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「インフレは落ち着いた水準へと実際に鈍化していることから、そうした確信は得られる可能性が高い」、(トランプ氏の関税政策について)、「政策判断への影響は、当局者らの見通しがより明確になるには時間がかかる」 --------
3/31 ウイリアムズ・NY連銀総裁 「FOMC参加者の間では、インフレ見通しに上振れリスクがあるとの極めて幅広い見方が示された。それは私の個人的見解とも完全に一致している」、「今後実施される関税などの政策に大きく左右され得る上振れリスクがあることは確かだ。関税が経済に与える影響はまだ明らかではない。最新のデータを注視していく」 --------
3/27 IMF 「大規模な政策転換が発表されており、最新のデータでは経済活動が2024年の非常に強いペースから減速していることが示唆されている。ただし、リセッションはわれわれの基本シナリオには含まれていない」 --------
3/27 コリンズ・ボストン連銀総裁 「関税が短期的にインフレ率を押し上げるのは『不可避』と見受けられる」、「金利据え置きの長期化が適切になる公算が大きい」、「一段と広範にわたる関税賦課やそれに対する報復措置が講じられる状況では特に、インフレ期待が重要になる」 --------
3/26 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「向こう1,2年でインフレが低下して労働市場が引き続き堅調なら、金利をさらに引き下げることができるはずだ。住宅ローン金利に一定の効果があるだろう」、「このところの信頼感低下は関税を巡る不確実性を反映している面が大きい」 --------
3/26 ムサレム・セントルイス連銀総裁 「関税による影響が一時的なものにとどまるかどうかは不透明だ。その二次的影響によって金融当局が金利をより長期にわたって据え置く可能性がある」 --------
3/25 クーグラー・FRB理事 「ここ数カ月に財のインフレが加速傾向にあるほか、」ミシガン大学の調査データで短期・長期両方のインフレ期待が高まっている。トランプ大統領は貿易相手国に対して新たな関税を導入しているほか、さらなる関税を示唆しており、経済を巡る不確実性は強まっている」、「政策金利をしばらくの間、据え置くことを支持する」 --------
3/24 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「1回にした理由は主に、インフレが非常に不安定になり、2%目標に向かって劇的かつ明確に動くことはないだろうと考えているからだ。その目標達成が遅れているため、政策を中立水準に戻す適切な道筋も遅れざるを得ないと考えている」 --------
3/19 パウエル・FRB議長 (関税性政策によるインフレについて)、「米金融当局が何もせず急速に解消し、一過性のものであるならば、拘泥しないのが適切な場合もある」、「一時的なものになるかどうか、当局として実際のところ分からない」 --------
3/19 トランプ大統領 「米国の関税が経済に移行(緩和!)し始めたら、FRBは金利を引き下げた方がずっといい」 ドル円150円台前半から149円割れまで下落。
3/7 パウエル・FRB議長 「多くの指標が労働市場は堅調で、ほぼ均衡状態にあることを示している」、(追加利下げについては)、「急ぐ必要はなく、(政権の動向などが)より明確になるまで待つことができる」、(米経済の現状について)、「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」 株が買われ、債券が売られ金利が上昇。ドル円は147円割れから148円台前半まで上昇。
3/3 トランプ大統領 「日本と中国が通貨安政策を取るなら、米国は不当に不利な立場に立たされる」 ドル円は149円台半ばから下落。
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和