


ご存知の方も多いと思いますが、ハーバード大学名誉教授のジョセフ・ナイ氏が先週6日に亡くなりました。氏は88歳と高齢であるため、亡くなったことはそれほど驚きではありませんでしたが、筆者が驚いたのは、氏はトランプ政権の政策について日本経済新聞社の独占インタビューに応じており、その内容が記事として大きく報道されたのが5月4日(日)の朝刊だったからです。インタビューを受けて、数日後に亡くなったのかもしれません。
ナイ氏は親日派として知られ、「ソフトパワー」という言葉を生んだことでも有名でした。インタビューでは、「米国第一」を掲げるトランプ政権の下で、「米国への信頼が大きく低下している」と指摘し、「ソフトパワー」とは、威嚇による強制、金銭的な報酬以外の魅力(パワー)だと定義付け、「トランプ氏は、市民社会を支えるソフトパワーを破壊しようとしている」と批判していました。ただ、それでも「米国がソフトパワーを失った時期は過去にもあった。ベトナム戦争、ブッシュ(第43代)政権下のイラク戦争だ。政権が変わることでソフトパワーは修復可能だということを歴史が示している」と語っていました。最後に日本人へのメッセージをという求めに、「私が日本の友人たちに伝えたいのは、米国が困難な4年間を乗り越える間、辛抱強く待っていてほしいということだ」と答えていました。インタビューを行った記者は「辛抱を求める知日派の苦悩」と記していました。合掌・・・・・。
スイスで行われた米中貿易協議については当初、「トランプ関税」を機に急激に緊張が高まった米中の「緊張緩和の扉を開ける程度」の会談だとしていましたが、2日間の協議を終えたベッセント財務長官は、「著しい進展があった」と満足気でした。本稿執筆時時点でもまだその内容は明らかになってはいませんが、その合意内容が次の行動につながるのかどうか見極める必要があります。また、今後の日米通商協議にも影響するかもしれません。石破首相は12日の衆院予算員会で、米国側から仮に自動車関税抜きで暫定合意を求められた場合は、断固拒否するのかという質問に、「ご指摘の通りだ。そのようなことはのめません。それは日本の方針としてはっきりしている」と答え、「自動車のためにコメを犠牲にするとか、農業を犠牲にするとかという考え方は毛頭、持っていない」と答弁していました。首相は日米関税交渉を7月には決着したいという意向を示していました。
また、夏の参院選に向けて野党を中心に消費税減税の議論が活発になっていますが、首相は減税には否定的です。加藤財務大臣も先週、「消費税減税は考えていない」と述べ、その理由の一つに国債の円滑な発行の危惧を挙げていました。減税の財源となる国債の発行について、常に市場で円滑に消化できるものではないとの認識でした。仮に財源として5〜6兆円もの国債を増発するとしたら、需給から国債が売られ、長期金利の上昇につながりやすいと見られます。一方で、「減税をやらなければ、参院選には勝てない」という声は、自民党内にも多くあるのも事実です。
今週の注目材料
- 5/12(月)
日 3月貿易収支
日 3月国際収支・経常収支
日 4月景気ウオッチャー調査
米 4月財政収支
米 クーグラー・FRB理事講演 - 5/13(火)
豪 豪5月ウエストパック消費者信頼感指数
豪 豪4月NAB企業景況感指数
独 独5月ZEW景気期待指数
英 英4月失業率
英 英ILO失業率(1−3月)
米 4月消費者物価指数
米 トランプ大統領、中東歴訪(16日まで) - 5/14(水)
豪 豪第1四半期賃金指数
独 独4月消費者物価指数(改定値)
米 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁、座談会に参加
加 カナダ3月住宅建設許可件数 - 5/15(木)
豪 豪4月雇用統計
欧 ユーロ圏3月鉱工業生産
欧 ユーロ圏1−3月期GDP(改定値)
英 英1−3月期GDP(速報値)
英 英3月鉱工業生産
英 英3月貿易収支
米 新規失業保険申請件数
米 4月生産者物価指
米 4月小売売上高
米 5月NY連銀製造業景況指数
米 5月フィラデルフィア連銀景況指数
米 4月鉱工業生産
米 4月設備稼働率
米 5月NAHB住宅市場指数
米 パウエル・FRB議長、会議冒頭の挨拶 - 5/16(金)
日 1−3月GDP(速報値)
日 3月鉱工業生産(確定値)
欧 ユーロ圏3月貿易収支
米 4月住宅着工件数
米 4月建設許可件数
米 4月輸入物価指数
米 4月輸出物価指数
米 5月ミシガン大学消費者マインド(速報値)
米 デーリー・サンフランシスコ連銀総裁、大学でスピーチ - 5/17(土)
- 5/18(日)
外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算20年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。