「米中、関税率大幅引き下げで合意」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 昨日の夕方4時から急上昇を始めたドル円は、欧州時間に148円台半ばまで買われたこともあり、NYでは148円65銭までの上昇にとどまる。米中双方の関税率が想定以上に低かったことで一気に「リスクオン」の流れに。
- ユーロドルでもドル高が進み、ユーロは1.1065まで下落。
- 株式市場ではほぼ全面高の展開。ナスダック指数は779ポイント上昇し、強気相場入りしたとの声も。
- 債券は下落。長期金利は4.47%台へと上昇。
- 金は100ドルを超える下落。原油は3日続伸。
- 4月財政収支 → 258.4b
ドル/円 | 147.83 〜 148.65 |
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ユーロ/ドル | 1.1065 〜 1.1134 |
ユーロ/円 | 164.30 〜 164.92 |
NYダウ | +1160.72 → 42,410.10 |
GOLD | −116.00 → 3,228.00ドル |
WTI | +0.93 → 61.95ドル |
米10年国債 | +0.092 → 4.471% |
本日の注目イベント
- 豪 豪5月ウエストパック消費者信頼感指数
- 豪 豪4月NAB企業景況感指数
- 独 独5月ZEW景気期待指数
- 英 英4月失業率
- 英 英ILO失業率(1−3月)
- 米 4月消費者物価指数
- 米 トランプ大統領、中東歴訪(16日まで)
本日のコメント
ベッセント財務長官は前日、「米中協議で著しい進展があった」と述べ、詳細についてはスイス時間12日に説明するとしていましたが、昨日の夕方4時にその内容が発表されるとドル円は145円台後半から上昇し、わずか20分ほどで147円台に乗せ、さらに欧米では148円台半ばまで上昇しました。そもそも米中協議の合意内容に関する発表時間は分かっておらず、ブルームバーグが昨日の午後2時37分59秒に「ベッセント財務長官、米中協議巡り日本時間午後4時から記者会見」という一報を流したのが、発表のわずか1時間前でした。米中双方が100%を超える関税をかけ合う状況の中、トランプ大統領は80%程度への引き下げを示唆していました。筆者は、仮に80%だとしたら、「大差ないのでは」と考えていましたが、合意内容は想定を大きく下回る関税率で、正直驚きました。同時に、ではあの「100%を超える関税率の応酬は一体何だったんだろう」という疑問も残りました。
発表によれば、米国は中国に対する関税率を今月14日までに145%から30%に引き下げ、これには違法薬物フェンタニルの流入に絡む関税率も含まれるというものでした。一方で中国は米国製品に対する関税率を125%から10%に引き下げます。いずれも期間は90日間ということでした。ベッセント氏は「双方ともデカップリング(経済的分断)を望んでいないという点で一致している」と述べ、90日間の期間終了後については延長の可能性があることを示唆し、「他の全ての貿易相手国との協議と同様、誠意ある取り組みと建設的な対話がある限り、われわれは前進を続けるだろう」と会見で話しています。
ベッセント氏はその後CNBCとのインタビューで、「今後数週間に再会談し、その包括的な合意に向けて動き出すことになる」と話し、さらにブルームバーグとのインタビューでは、「中国に対する米国の関税が10%を下回るのは考え難い」とも述べていました。世界第1位と2位の経済大国である米中が低関税で合意したことで、今後の貿易相手国との交渉にも期待でき、最悪のシナリオは回避できる可能性が高まりました。昨日の米国株はほぼ全面高となり、日経平均先物も1000円を超える上昇を見せています。一方、安全資産の債券が売られ、金も116ドル安と大きく下落しています。全ては、これまでのポジションの「巻き戻し」ということになります。
13日から中東を歴訪するトランプ大統領は、15日にウクライナ停戦協議が予定されているトルコに立ち寄ることを検討しているとブルームバーグが報じています。ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領による直接協議に自身も加わる構想を示唆しています。ゼレンスキー氏はこれを受け、「トランプ氏がトルコの協議に参加することを望む」とし、その上で「ロシア側がこの会談を回避しないことを望む」と述べています。「貿易戦争」と「ウクライナ戦争」という「二つの戦争」を回避できる可能性が出て来たことで、市場のリスクオンムードは高まりそうです。昨日のこの欄でも触れましたが、ドル円は145−150円のレンジに入った可能性が高いと思われます。日足チャートでは、ローソク足が一目均衡表の雲入りを果たしています。現在、雲の上限は150円56銭近辺にあり、ここを明確に上抜け出来れば「トレンド転換」ということになりますが、それにはもう一段の材料が必要です。これまでは、雲までの距離はかなり遠いと思われましが、昨日一日で一気に近づいた印象です。本日は日経平均株価も大幅な上昇が見込まれ、ドル円は底堅く推移しそうです。
本日のドル円は147円〜149円50銭程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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5/7 | パウエル・FRB議長 | 「発表された大幅な関税引き上げが維持されれば、インフレ加速と経済成長減速、そして失業増加をもたらす可能性が高い」、「インフレへの影響は、物価水準の一時的な変化を反映して短期的なものにとどまる」、「そのインフレ効果がより根強いものになる可能性もある」、「やることはこれまでと変わらない」、「今は予防的になれる状況ではない。さらなるデータを目にするまで、どのような対応が正しいのか実際のところ分からないからだ」 | ドル円は143円台から144円まで上昇。 |
5/7 | FOMC声明文 | 「経済見通しに対する不確実性は一段と強まっている」、「失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと判断している」 | -------- |
4/24 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「6月までに明確かつ説得力のあるデータが得られ、その時点で進むべき正しい方向について判断できれば、委員会が動く可能性がある」 | -------- |
4/24 | ウォラー・FRB理事 | 「特に大規模な関税が再導入された場合、この先レイオフの増加や失業率の上昇が見られ始めても意外ではない。労働市場の悪化が顕著になれば、FRBの最大雇用の責務に基づき措置を講じることが重要だと考えられる」 | -------- |
4/23 | ベッセント・財務長官 | (日米通商交渉での)「通貨目標は一切ない」、「G7合意を尊重することを日本に期待している」 | ドル円は141円台後半から143円57銭まで買われる。 |
4/17 | ラガルド・ECB総裁 | 「貿易摩擦の激化が輸出を抑え、投資や個人消費に重荷になる」、「世界的な貿易混乱の拡大は、インフレ見通しの不確実性を高めている」 | -------- |
4/16 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「二重の責務の両面から圧力がかかることが想定される状況下では、インフレのさらなる高止まりのリスクと労働市場の減速に伴うリスクとの間でバランスを保つため、金融政策を現状維持とする根拠は強いと考える」、「明確さを得るのが困難な場合には、追加データを待つことが今後の道筋を見極める一助となるだろう」 | -------- |
4/16 | パウエル・FRB議長 | 「長期のインフレ期待をしっかり抑制し続け、物価水準の一時的上昇が継続的インフレ問題にならないよう確実に対処することが、われわれの責務だ」、「物価の安定がなければ、全ての米国民に恩恵をもたらすような長期にわたる力強い労働市場環境の実現は不可能だ」 | -------- |
4/4 | クルーズ・米上院議員 | 「政権が進める関税引き上げは、米経済にとって『巨大なリスク』となっており、来年の中間選挙で共和党が惨敗する恐れがある」、「世界各国からの輸入品に関税を課せば、国内の雇用は崩壊し、米経済に」深刻な打撃を与えることになる」 | -------- |
4/4 | ハセット・国家経済会議(NEC)委員長 | 「関税により米国の消費者物価が『幾分上昇するかもしれない』」、「エコノミストやFRB当局者、一部議員による懸念は行き過ぎだ」 | -------- |
4/4 | ベッセント・米財務長官 | 「新たな関税は必要な措置だ。リセッションを織り込まなければならない理由は見あたらない」 | -------- |
4/3 | ジェファーソン・FRB副議長 | 「政策金利のさらなる調整を急ぐ必要はない、というのが私の見解だ」 | -------- |
4/3 | クック・FRB理事 | 「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している。インフレ率が上昇し成長は鈍化するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」 | -------- |
4/2 | トランプ・米大統領 | 「長年にわたり、大半において米国の犠牲の下に他国が富と権力を得る中、勤勉な米国民は傍観者の立場を強いられてきた。だが、今後われわれが繁栄する番だ」 | -------- |
4/1 | フォンデアライエン・欧州委員長 | 「必ずしも報復したいわけではないが、必要であれば、強力な報復策を用意しており、それを用いる」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書