「6月のADPはマイナス3.3万人」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- ドル円は「ADP雇用者数」の下振れで143円50銭まで下落。ただその後は財政悪化懸念や英国債が売られたことで金利が上昇。144円台前半まで反発。
- ユーロドルは上昇が一服。ほぼ1.17台で推移。
- 株式市場ではナスダックと、S&P500が再び最高値を更新。「ADP雇用者数」の下振れを受け、利下げ観測が高まる。
- 債券は売られる。英国債が売られたことに加え、財政悪化懸念も想定され、長期金利は4.27%台に上昇。
- 金と原油は続伸。
6月ADP雇用者数 → −33.0
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ドル/円 | 143.50 〜 144.20 |
---|---|
ユーロ/ドル | 1.1747 〜 1.1803 |
ユーロ/円 | 169.03 〜 169.54 |
NYダウ | −10.52 → 44,484.42 |
GOLD | +9.90 → 3,359.70ドル |
WTI | +2.00 → 67.45 |
米10年国債 | +0.035 → 4.277% |
本日の注目イベント
- 豪 豪5月貿易収支
- 日 高田日銀審議委員、三重県金融経済懇談会で講演
- 中 6月財新サービス業PMI
- 中 6月財新総合PMI
- 独 独6月サービス業PMI(改定値)
- 欧 ユーロ圏6月総合PMI(改定値)
- 欧 ユーロ圏6月サービス業PMI(改定値)
- 米 6月S&Pグローバルサービス業PMI(改定値)
- 米 6月S&Pグローバル総合PMI(改定値)
- 米 新規失業保険申請件数
- 米 5月貿易収支
- 米 6月雇用統計
- 米 6月ISM非製造業景況指数
- 米 ボスティック・アトランタ連銀総裁講演
- 加 カナダ5月貿易収支
本日のコメント
「マイナス3万3千人」・・・・。
「6月のADP雇用者数」の減少はやや驚きでした。市場予想が「9万8千人」だったことを考えると、予想よりも13万人以上下振れしたことになります。また、5月分も速報値の3万7千人から2万9千人に下方修正されており、ひょっとしたら、労働市場の減速傾向がすでに始まっている可能性も浮上してきました。速報値はぶれることが良くありますが、雇用者数が減少してマイナスだったことは、2023年3月以来のことです。ADPの担当者は、「レイオフは引き続き限定的だが、企業が採用や退職者の補充に慎重なことが雇用減少につながった」と説明しています。米マイクロソフトは2日、今年2度目となるレイオフを発表しています。9000人が対象となる見込みで、5月に実施された人員削減では6000人が対象になっていました。
トランプ大統領は2日、ベトナムとの貿易に関するディールを取りまとめたことを発表しました。ベトナムからの対米輸出品には20%の関税、ベトナムを経由した迂回輸出と見なされる製品には40%の関税が適用される一方、ベトナムは米国からの輸入品に対して、全ての関税を撤廃することで合意したと述べました。確かに、この内容では米国に極めて有利であり、日本が提唱している「ウィンウィンの関係」とは大きく異なります。トランプ氏は日本との合意は難しいと述べ、日本へはさらなる関税引き上げを示唆し、「30―35%を払うことになる」と述べていました。相互関税発動まで残り1週間を切り、石破首相の対応に注目していますが、昨日は参院選を前に、日本記者クラブで「党首討論」が行われ、そこでも関税回避に触れていました。「日本は米国における世界最大の投資国で、世界で最大の雇用を生み出している」と述べ、「他の国とは訳が違う」と発言していました。これは赤沢経済再生相が米国での7回の交渉の席で使った言葉だと思われ、米国側がこれを受け入れないことはすでに明白です。厳しい状況に立たされている日本ですが、「交渉期限の9日に、30―35%の相互関税が発動しないようにすることが日本の最優先課題となる。外務省幹部は『パッケージ更新はやってきた。これ以上何かを変えて米国が納得するなら既にやっている。次の一手は難しい』との認識を示している」と、日経新聞は報じています。
今夜の「6月の雇用統計」は極めて重要ですが、来週の関税期限までの日本の対応にも注意が必要です。「ADP雇用者数」が思いのほか悪かったことで、今夜の「雇用統計」にも不安が高まりますが、仮に市場予想(10.6万人)を大きく下回るようなら、今月の利下げはほぼ確定だと考えます。「トランプ関税の影響を読み切れない」とパウエル議長は先日のECBフォーラムで述べていましたが、同時に「利下げの可能性は排除しない」とも述べていました。FRBの責務の一つである「労働市場の健全な拡大」に変化があるようなら、たとえトランプ関税の影響が不透明な状況下でも、FRBが動くことは整合性が取れると考えます。リッチモンド連銀のバーキン総裁は2日FOXビジネスとのインタビューで、「経済指標は非常に堅調だ。経済が悪い方向に進んでいるという切迫感はない。また、経済環境全体に切迫感がない限り、霧の中を運転するように、ゆっくり進むのが妥当だ」とし、その上で、「現時点で政策金利を引き下げる緊急性はない」との認識を示していました。
本日のドル円は142円〜144円50銭程度を予想します。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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7/2 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「経済指標は非常に堅調だ。経済が悪い方向に進んでいるという切迫感はない。また、経済環境全体に切迫感がない限り、霧の中を運転するように、ゆっくり進むのが妥当だ」、「現時点で政策金利を引き下げる緊急性はない」 | -------- |
7/1 | パウエル・FRB議長 | 「(関税の行方に)われわれは注視している。夏にかけていくらかの数値が上がると予想している」と話し、その上で「ただし影響が想定より高いのか低いのか、あるいは遅いのか早いのかは、今後明らかになる可能性があるとして、それを確認する用意がある」、(月利下げについては)「検討は会合ごとに行われる。どの会合も選択肢から排除しないし、直接的に議題に上げることもしない。データがどう展開するかにかかっている」 | 利下げの可能性を排除しなかったことで、ドル円はやや売られる。 |
6/26 | コリンズ・ボストン連銀総裁 | 7月会合までに得られるデータは、あと1ヵ月分に過ぎない。それ以上のデータを確認したいと考えるだろう」 | -------- |
6/26 | グールズビー・シカゴ連銀総裁 | 「インフレが当局の目指す2%へと明らかに減速し、経済見通しを巡る不確実性が後退すれば利下げ再開もあり得る。良好なデータが得られており、関税の影響も限定的にとどまるかもしれないと楽観しているが、確証を待ちたい」 | -------- |
6/26 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「どの方向にせよ、性急に進むことには得るものがほとんどない。現在の経済の強さを踏まえれば、われわれには情勢の展開を辛抱強く見守り、見通しが明確になるまで待つ時間がある」 | -------- |
6/26 | デーリー・SF連銀総裁 | 「私の中心的な見方としては、秋ごろから金利の調整が開始できるというものであり、その考えは特に変わっていない」、「労働市場には減速の兆しはあるものの、悪化を示す警告サインは見られない」 | -------- |
6/25 | パウエル・FRB議長 | 「関税が消費者物価に及ぼす影響を金融当局としてまだ見極めきれていない。関税のうちのどの程度がインフレとして表面化するのか、前もって予測するのは非常に困難だ」 | -------- |
6/24 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「現行の金利はわずかに景気抑制的な水準だが、当局の目標達成までにはまだ一定の距離がある」、「政策金利はFOMCがごく緩やかな利下げで中立的な水準に戻す前に、かなりの期間据え置かれる可能性が高い」 | -------- |
6/24 | バー・FRB理事 | 「経済は現在、堅調な足どりを見せている。失業率は低水準で、インフレはFRBの目標の2%に向けて低下してきている」、「ただ今後を見据えると、関税の影響でインフレは加速すると予想する。短期のインフレ期待の高まり、サプライチェーンの調整、そして二次的影響により、インフレはやや長引く可能性がある」 | -------- |
6/24 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「関税やその他の政策論争がどのように進展するか見守るための、余裕と時間はある」 | -------- |
6/24 | ウイリアムズ・NY連銀総裁 | 「政策変更が労働市場とインフレに及ぼす影響を当局者が分析する間、金利を据え置くことは完全に適切だ」 | -------- |
6/24 | パウエル・FRB議長 | 「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、経済の進路についてより多くの情報が得られるのを待つ体制が整っている」、(7月の利下げの可能性について問われ)、「インフレ圧力が本当に抑制されたままだということになれば、早めに利下げに踏み切ることになるだろう」、「特定の会合を指すことは避けたい。経済は依然として強く、急ぐ必要はないと考えている」 | -------- |
6/23 | ボウマン・FRB理事 | 「インフレ圧力が抑制されたままであれば、政策金利を中立水準に近づけ、健全な労働市場を維持するために、次回の会合で利下げを支持する」、(「トランプ関税」について)、「関税などの政策によって重大な影響が出ているという明確な兆候はデータには表れていない。多くの企業が事前に積み増していたため、関税によるインフレへの影響は当初の予想より表れるまでに時間がかかり、影響の度合いも当初予想より小さくなる可能性が高いと考えられる」 | 中東情勢の好転もあり、ドル円は148円前後から146円台前半まで下げる。 |
6/18 | パウエル・FRB議長 | 「政策スタンスの調整を検討する前に、経済の見通しについてより多くの情報を持てる状況にある」、(経済の不確実性が高いことを踏まえ)、「誰もこうした金利の道筋に強い確信を持っていない。景気見通しに関する不確実性は低下したが、依然として高い」 | ドル円は144円台半ばから145円台に。 |
6/18 | FOMCの議事録 | 「最近の複数の指標は経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆する。失業率は低いままで、労働市場の状況は堅調を維持している。インフレは幾分高止まりしている」 | -------- |
6/11 | ベッセント・財務長官 | 「誠意を持って交渉している貿易相手国に対しては、発動時期をさらに延長する可能性が極めて高い、そうでない国に対しては延期をしない」・・議会証言で。 | -------- |
6/6 | トランプ・米大統領 | 「FRBの『手遅れ』は最悪だ」(『Too late 』at the Fed is a disaster )とSNSに投稿。「欧州は利下げを10回実施したが、われわれは一度も行っていない。彼にもかかわらず、我が国は好調だ。1ポイント利下げを実施せよ、ロケット燃料になる」 | -------- |
6/5 | ラガルド・ECB総裁 | 「私たちは、新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機など、複合的なショックに対応してきた金融政策サイクルの終盤に差し掛かっていると考える」、「現在、異なるプレイヤー、異なるパートナー、異なる政策を有する異なる時代に入っている。私たちは分析、評価、測定を継続し、2%の中銀目標を達成するため努力する」、(自身の任期満了前の辞任については)、「自らの使命を果たすこと、そして任期を全うすることを完全に決意している。私がECBを去る日はまだ来ない」 | ユーロドルは1.13台後半から1.1495まで買われる。 |
6/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | (このところ良好な物価データを目にしているものの)、「目にすべき進展という意味において、道のりはまだ長い。インフレに対する勝利宣言はまだしない」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書