今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「米雇用統計、5、6月分が大幅に下方修正」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • 発表された米雇用統計を受け、ドル円は150円台半ばから急落。7月分が予想を下回っただけではなく、6月、5月分も大きく下方修正されたことで、ドル円は147円30銭まで下げ、NY市場だけで3円以上ものドル安に。
  • ユーロドルも売られ、1.1392まで下落。
  • 株式市場では3指数が大きく下落。特にナスダック指数は472ポイント下げ2.2%を超える急落に。
  • 債券は急騰。長期金利は4.21%へと急低下。
  • 金は54ドル高。原油は大幅安。
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7月自動車販売台数 → 1641万台(年換算)
7月S&Pグローバル製造業PMI(改定値) → 49.8
7月失業率 → 4.2%
7月非農業部門雇用者数 → 7.3万人
7月平均時給 (前月比) → 0.3%
7月平均時給 (前年比) → 3.9%
7月労働参加率 → 62.2%
7月ISM製造業景況指数 → 48.0
7月ミシガン大学消費者マインド(確定値) → 61.7
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ドル/円 147.30 〜 150.60
ユーロ/ドル 1.1392 〜 1.1597
ユーロ/円 170.25 〜 171.98
NYダウ −542.40 → 43,588.58
GOLD +51.20 → 3,399.80ドル
WTI −1.93 → 67.33
米10年国債 −0.158 → 4.216%

本日の注目イベント

  • 米 6月製造業受注

本日のコメント

先週金曜日には一時150円92銭前後まで買われたドル円は、米雇用統計発表を受けて急落。3円を超える円高水準となる147円30銭まで売られました。7月の非農業部門雇用者数(NFP)は市場予想を下回る「7.3万人」でした。ただ、これだけであればそれほど市場は混乱することはなかったと思われますが、過去の速報値が大きく下方修正されたことが影響しました。6月分は速報値の「14.7万人」から「1.4万人」に、5月分は同「14.4万人」から「1.9万人」にそれぞれ大きく減少しました。合計で、「25.8万人」も下方修正されたこととなり、筆者もこれほど大きな修正は記憶にありません。驚きました。「速報値」は一体何だったのかという思いと、その信頼性が疑われることになります。そもそもこれほど「確報値」との差が大きくなるのであれば、「速報値」の発表は不要で、ただ市場を混乱させるだけではないかといった思いもあります。その信頼性はともかくとして、これが実態であれば堅調だと言われていた米労働市場はすでに変調をきたしており、減速していたことになります。

この結果を受けて、NY株式市場では主要3指数が大きく売られ、特に好調だったナスダックが大きく下げています。また債券市場では利下げを織り込み、政策変更の影響を受けやすい2年債が大きく買われ、金利が急低下。長期金利も大幅に低下しましたが、短い期間の金利がより低下したことでスティープ化が進みました。筆者はもともと年内1回の利下げ、それも9月に利下げがあり、それ以降はデータ次第だと予想していましたが、これで「9月は当確」だと思われ、しかも通常の25bpではなく「大幅利下げ」の可能性も出て来たと考えています。また、年内2回の確率もかなり高まったと思われます。

今回の異例な雇用統計の結果を受け、様々な動きもありました。直接関係があるとも思えませんが、FRBのクーグラー理事が8月8日付けで辞任すると発表されました。同理事の任期は2026年1月まででした。辞任の詳しい理由は分かっていませんが、同理事は、「物価の安定と力強く持続的な労働市場という2つの責務の達成に向け、極めて重要な時期に貢献できたことを特に誇りに思う」とコメントを発表していました。同理事の辞任を受けてトランプ大統領が吠えています。トランプ氏はSNSで、「『遅すぎ』のパウエル氏は、バイデン前大統領が指名したクーグラー氏と同様に辞任すべきだ。金利についてパウエル氏が誤ったことをしているのをクーグラー氏は知っている。パウエル氏は辞めるべきだ」と投稿しました。トランプ氏は、クーグラー理事の辞任について「非常に嬉しい」と述べており、これで空席になる理事の席に自身に忠実な人物を任命できることを意味していると考えられます。

また、トランプ氏は今回の雇用統計を受け、「共和党と私を貶めるため政治目的で利用した」と述べ、労働省労働統計局のマッケンターファー局長を解任しました。ブルームバーグは、「労働統計局長は大統領に任命されるが、同統計局は自らの業務を『独立』かつ『超党派的』と説明している。エコノミストやストラテジストは、この中立性こそが、データに対する国民や金融市場の信頼を支えていると指摘する。市場で数兆ドル規模の資金が動く可能性があるからだ」と説明していました。実際に上でも述べたように、金融市場は大きく変動しました。

米労働市場の減速が鮮明になったとしたら、FRBは少なくとも年内2回の利下げを行う可能性が高いと思われ、ドルが下落する可能性もそれなりに高いと思われます。ただ、忘れてはならないのが、トランプ関税によるインフレの芽がゆっくりと、しかし確実に大きくなっているという点です。クリーブランド連銀のハマック総裁はこの日発表された雇用統計を踏まえて「確かに失望を招く内容だった」としながらも、「FOMCの政策判断には自信を持っている。当局者は雇用とインフレという2つの責務のバランスを取る必要がある。だが、より大きな乖離が見られるのは、インフレの方だ」と話していました。

トランプ大統領は先週末、まだ具体的な関税率を決めていないスイスに対して、39%の関税を課すと発表しました。日本や韓国、EUに対する15%の関税率を大きく上回る税率で、世界的にも極めて高い水準で設定されました。ブルームバーグのデータによると、2024年におけるスイス産品の対米国輸出のうち、医薬品が約半分を占めています。米国にもファイザーなど世界的に大手の製薬会社がありますが、スイスにもノバルティスやロシュなど大手があり、スイス経済はそれら製薬会社に大きく依存しており、その影響は決して少なくはないようです。

本日は日経平均株価も1000円近く下げる可能性もありそうです。ドル円は146円30銭〜148円50銭程度を予想します。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
7/30 FOMC声明文 「経済活動の伸びは緩やかになった。景気見通しに関する不確実性は依然として高い。委員会は長期にわたって最大限の雇用と2%のインフレを達成することを目指し、2つの責務の両サイドに対するリスクに注意を払っている」 --------
7/30 パウエル・FRB議長 「解決すべき不確実性は非常に多い。そのプロセスの終わりが間近に迫っているという感触はない」、(利下げ次期については)、「9月については何も決定していない」 ドル円は買われ、149円54銭まで上昇。
7/24 ラガルド・ECB総裁 「現在の状況は良好だ。今は金利を据え置き、リスクが今後数か月の間にどう展開いていくかを見守ることが適切な状況にある」 --------
7/24 ECB声明文 「これまでのところ経済は全体として底堅さを示している。しかし、通商摩擦をはじめとする要因により、依然として先行きは極めて不透明だ」 --------
7/10 デーリー・SF連銀総裁 「2回の利下げというのが可能性の高いシナリオだと私はみているが、あらゆる当局の予測には不確実性が伴う」 --------
7/10 ペンス・元副大統領 「われわれは主に中国を対象に、相手の行動の変化を促すべく関税やその脅威を交渉手段として用いた。目的は本質的に貿易障壁を下げ、貿易を拡大することだった」、「トランプ氏は米産業政策の長期的な転換を進めており、恒久的かつ一方的な貿易関税が米国にとって長期的に有益だと見なしているとは、私は考えていない」、「自由市場を信奉する保守派として、私はそれには賛同できない」 --------
7/2 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「経済指標は非常に堅調だ。経済が悪い方向に進んでいるという切迫感はない。また、経済環境全体に切迫感がない限り、霧の中を運転するように、ゆっくり進むのが妥当だ」、「現時点で政策金利を引き下げる緊急性はない」 --------
7/1 パウエル・FRB議長 「(関税の行方に)われわれは注視している。夏にかけていくらかの数値が上がると予想している」と話し、その上で「ただし影響が想定より高いのか低いのか、あるいは遅いのか早いのかは、今後明らかになる可能性があるとして、それを確認する用意がある」、(月利下げについては)「検討は会合ごとに行われる。どの会合も選択肢から排除しないし、直接的に議題に上げることもしない。データがどう展開するかにかかっている」 利下げの可能性を排除しなかったことで、ドル円はやや売られる。
6/26 コリンズ・ボストン連銀総裁 7月会合までに得られるデータは、あと1ヵ月分に過ぎない。それ以上のデータを確認したいと考えるだろう」 --------
6/26 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「インフレが当局の目指す2%へと明らかに減速し、経済見通しを巡る不確実性が後退すれば利下げ再開もあり得る。良好なデータが得られており、関税の影響も限定的にとどまるかもしれないと楽観しているが、確証を待ちたい」 --------
6/26 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「どの方向にせよ、性急に進むことには得るものがほとんどない。現在の経済の強さを踏まえれば、われわれには情勢の展開を辛抱強く見守り、見通しが明確になるまで待つ時間がある」 --------
6/26 デーリー・SF連銀総裁 「私の中心的な見方としては、秋ごろから金利の調整が開始できるというものであり、その考えは特に変わっていない」、「労働市場には減速の兆しはあるものの、悪化を示す警告サインは見られない」 --------
6/25 パウエル・FRB議長 「関税が消費者物価に及ぼす影響を金融当局としてまだ見極めきれていない。関税のうちのどの程度がインフレとして表面化するのか、前もって予測するのは非常に困難だ」 --------
6/24 ハマック・クリーブランド連銀総裁 「現行の金利はわずかに景気抑制的な水準だが、当局の目標達成までにはまだ一定の距離がある」、「政策金利はFOMCがごく緩やかな利下げで中立的な水準に戻す前に、かなりの期間据え置かれる可能性が高い」 --------
6/24 バー・FRB理事 「経済は現在、堅調な足どりを見せている。失業率は低水準で、インフレはFRBの目標の2%に向けて低下してきている」、「ただ今後を見据えると、関税の影響でインフレは加速すると予想する。短期のインフレ期待の高まり、サプライチェーンの調整、そして二次的影響により、インフレはやや長引く可能性がある」 --------
6/24 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「関税やその他の政策論争がどのように進展するか見守るための、余裕と時間はある」 --------
6/24 ウイリアムズ・NY連銀総裁 「政策変更が労働市場とインフレに及ぼす影響を当局者が分析する間、金利を据え置くことは完全に適切だ」 --------
6/24 パウエル・FRB議長 「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、経済の進路についてより多くの情報が得られるのを待つ体制が整っている」、(7月の利下げの可能性について問われ)、「インフレ圧力が本当に抑制されたままだということになれば、早めに利下げに踏み切ることになるだろう」、「特定の会合を指すことは避けたい。経済は依然として強く、急ぐ必要はないと考えている」 --------
6/23 ボウマン・FRB理事 「インフレ圧力が抑制されたままであれば、政策金利を中立水準に近づけ、健全な労働市場を維持するために、次回の会合で利下げを支持する」、(「トランプ関税」について)、「関税などの政策によって重大な影響が出ているという明確な兆候はデータには表れていない。多くの企業が事前に積み増していたため、関税によるインフレへの影響は当初の予想より表れるまでに時間がかかり、影響の度合いも当初予想より小さくなる可能性が高いと考えられる」 中東情勢の好転もあり、ドル円は148円前後から146円台前半まで下げる。
6/18 パウエル・FRB議長 「政策スタンスの調整を検討する前に、経済の見通しについてより多くの情報を持てる状況にある」、(経済の不確実性が高いことを踏まえ)、「誰もこうした金利の道筋に強い確信を持っていない。景気見通しに関する不確実性は低下したが、依然として高い」 ドル円は144円台半ばから145円台に。
6/18 FOMCの議事録 「最近の複数の指標は経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆する。失業率は低いままで、労働市場の状況は堅調を維持している。インフレは幾分高止まりしている」 --------
6/11 ベッセント・財務長官 「誠意を持って交渉している貿易相手国に対しては、発動時期をさらに延長する可能性が極めて高い、そうでない国に対しては延期をしない」・・議会証言で。 --------
6/6 トランプ・米大統領 「FRBの『手遅れ』は最悪だ」(『Too late 』at the Fed is a disaster )とSNSに投稿。「欧州は利下げを10回実施したが、われわれは一度も行っていない。彼にもかかわらず、我が国は好調だ。1ポイント利下げを実施せよ、ロケット燃料になる」 --------
6/5 ラガルド・ECB総裁 「私たちは、新型コロナウイルス、ウクライナでの不当な戦争、エネルギー危機など、複合的なショックに対応してきた金融政策サイクルの終盤に差し掛かっていると考える」、「現在、異なるプレイヤー、異なるパートナー、異なる政策を有する異なる時代に入っている。私たちは分析、評価、測定を継続し、2%の中銀目標を達成するため努力する」、(自身の任期満了前の辞任については)、「自らの使命を果たすこと、そして任期を全うすることを完全に決意している。私がECBを去る日はまだ来ない」 ユーロドルは1.13台後半から1.1495まで買われる。
6/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 (このところ良好な物価データを目にしているものの)、「目にすべき進展という意味において、道のりはまだ長い。インフレに対する勝利宣言はまだしない」 --------
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和