「8月のADP予想を下回る」
ひと目で分かる昨晩の動き
NY市場- 強弱な経済指標の発表にもドル円は堅調に推移し、終始148円台での取引が続く。今夜の雇用統計発表を前に、市場は9月利下げを完全に織り込んだ模様。
- ユーロドルは1.16台での膠着が続く。
- 株式市場は利下げ観測を材料に3指数が揃って上昇。S&P500は53ポイント上げ、最高値を更新。
- 債券は続伸し長期金利は4.16%台に低下。
- 金は7営業日ぶりに反落。原油は続落。
8月ADP雇用者数 → 5.4万人
7月貿易収支 → −78.3b
新規失業保険申請件数 → 23.7万件
8月ISM非製造業景況指数 → 52.0
8月S&Pグローバルサービス業PMI(確報値) → 54.5
8月S&Pグローバル総合PMI(確報値) → 54.6
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ドル/円 | 148.00 〜 148.77 |
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ユーロ/ドル | 1.1630 〜 1.1659 |
ユーロ/円 | 172.46 〜 173.21 |
NYダウ | +350.06 → 45,621.29 |
GOLD | −28.80 → 3,606.70ドル |
WTI | −0.49 → 63.48 |
米10年国債 | −0.056 → 4.161% |
本日の注目イベント
- 日 7月景気先行指数(CI)(速報値)
- 日 7月景気一致指数(CI)(速報値)
- 独 独7月製造業新規受注
- 欧 ユーロ圏4−6月期GDP(確定値)
- 米 8月雇用統計
本日のコメント
関税合意実現に向けて、大統領令の発令を促す目的で10回目の訪米を行った赤沢再生相の努力が報われたのか、トランプ大統領は4日、日本との貿易合意を実施する大統領令に署名しました。これにより、米国は自動車・同部品を含む大半の日本からの輸入品に対して最大15%の関税を課すことになります。一律関税は従来の税率に15%が上乗せされており、7月の日米合意に沿わない措置が発動されていました。自動車関税も引き下げで合意したものの、実施時期が明確になっていなかったことを踏まえ、米関税措置の交渉役を務める赤沢氏が訪米したものです。
雇用統計を前に昨日発表された経済指標は強弱まちまちでした。「8月のADP雇用者数」は5万4000人増で、市場予想の6万8000人を下回り、求人件数の減少や賃金上昇の鈍化といった最近の指標と一致し、労働市場が徐々に減速しつつある実態を裏付ける結果でした。ここ数カ月は雇用の伸びが大きく鈍化しており、失業者が新たな職を見つけるまでの期間も長引いています。また「失業保険申請件数」も増加しており、9月のFOMC会合での利下げを完全に織り込む形となっています。一方、米供給管理協会(ISM)が発表した8月の「ISM非製造業総合景況指数」は「52.0」と、半年ぶりの高水準でした。新規受注の指数は約1年ぶりの大幅な伸びを示し、活動の拡大と縮小の境目である「50」を上回っていました。
米司法省は、FRBのクック理事が住宅ローン申請で虚偽の情報を記載した疑いがあるとして、刑事捜査を開始しました。トランプ大統領がクック理事の解任を進める中、同氏に対する圧力が一段と強まっています。クック氏の弁護士は4日の声明で、クック氏に不正はなかったと改めて主張。「クック理事がこれまでに自身の不動産をどのように記載してきたかという点については、係争中の訴訟の中で既に対応を始めており、今後も引き続き説明していく意向だ。これらは詐欺に当たるものではない。しかし司法省にとっては、政治的な思惑に基づく新たな捜査を始めるのに理由は要らないようで、今回もまた、そのような対応を取ったようだ」と述べていました。一方、司法省は、解任差し止めを求めるクック氏からの仮処分申請に対し、トランプ氏による更迭を支持する新たな主張を裁判所に提出。解任はクック氏を排除し金利を引き下げるための口実だという弁護士側の主張に「根拠はない」と訴えていました。
トランプ大統領がFRB理事に指名したマイラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長は、上院銀行委員会で4日に開かれた承認公聴会で、同氏がトランプ大統領に従うだけの人物との民主党の懸念に反論しました。(ブルームバーグは、同氏の名前『Stephen Miran』を、昨日まで日本語名ではミラン氏と訳していましたが、本日からマイラン氏に変えています)マイラン氏は公聴会の質疑応答で、CEA委員長職を無給の休暇扱いとした上で、FRB理事として来年1月末までの任期を勤めるつもりだと述べました。「FRB理事就任が承認されれば、これまでFRBがそうしてきたように、私も独立して行動する」と、マイラン氏はスコット委員長(共和)の質問に答えていました。マイラン氏のFRB理事への就任が承認されれば、FRB理事7名のうち4名を「トランプ派」が占めることになり、18日の会合でも影響が出る可能性があります。トランプ氏も、その会合までに承認を取り付けたい意向のようです。
FRBによる利下げ観測に加え、遅れ気味ですが日銀の利上げ。さらにはトランプ大統領のFRBに対する執拗な介入と、ドルが下落する環境が目立ちますが、ドル円は148円台で堅調に推移しています。ドル円の水準に大きく影響する「日米金利差」も縮小しています。ドル円が139円88銭を記録した今年4月22日の日米金利差を調べてみると、金利差は「3.093%」(米国10年債4.408%−日本10年債1.315%)でした。昨日はその差が「2.556%」(4.161%−1.605%)まで縮小しています。こうなると、金利差からは現在の水準を説明できません。筆者は、長期的な視点ではドル高を予想していますが、その前にドルが売られる展開をイメージしています。このシナリオがもしかしたら「大外れ」となる可能性も、やや意識しなければいけない状況があるかもしれません。
本日のドル円は、雇用統計の発表を踏まえて146円50銭〜149円80銭程度を予想します。ブルームバーグのエコノミスト調査では、非農業部門雇用者数は7万5000人の増加にとどまると予想されています。実際にそうなれば、雇用の伸びは4カ月連続で10万人未満となります。失業率は4.3%に上昇し、2021年以来の高水準になると見込まれています。
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What's going on?
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 | 発言者 | 内容 | 市場への影響 |
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9/3 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | 「完全雇用の労働市場とコアインフレがFRBの目指す2%を1ポイント近く上回っている環境と、やや引き締め的な現行の政策金利は整合する」、「現時点では政策においてバランスの取れたアプローチを取ることが重要であり、労働市場の支援やインフレ抑制のいずれかに偏り過ぎるべきではない。先行きを見通すと、労働市場は徐々に冷え込みながらも完全雇用に近い状態を維持するだろうが、リスクは下方向に傾いている」 | -------- |
9/3 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「物価安定が依然として最大の関心事項ではあるものの、労働市場は十分減速しており、年内残りの期間において恐らく25ベーシスポイントの政策緩和が妥当になると考えられる」、「今後数カ月のインフレ動向や雇用市場の展開によっては、この認識は変わり得る」 | -------- |
9/3 | ウォラー・FRB理事 | 「次回会合で利下げを始める必要がある。その後は決まった道筋を踏まなくてもいい。人々は関税によるインフレをまだ懸念しており、状況を見極めながら進めることができる」、「米国の政策金利は現在、景気を刺激も抑制もしない中立金利を上回っており、金融政策が経済を抑制している」、「中立に近づきたいことは認識している。どれくらい利下げすべきかもおおよそ分かっていて、例えば100から150ベーシスポイントだ。ただ、その水準にどれだけの速さで到達するかは、入ってくるデータ次第になるだろう」 | -------- |
8/27 | ウィリアムズ・NY連銀総裁 | 「私の見解では、全ての会合が間違いなくライブだ」、(最大雇用と物価安定というFRBの2大責務に言及し)、「リスクは一段と均衡してきている」、(金利水準は)「やや景気抑制的だ」、「利下げを実施しても、依然としていくぶんか景気抑制的な状態を維持できるだろう。ただし、経済で実際に何が起きているのかを見極める必要がある」 | -------- |
8/26 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「経済が緩やかな動きとなれば、金利調整は小幅にとどまるだろう。実際に経済が緩やかな動きになるかは分からない。それはその時に確認しなければならない。従ってこれは私の予測だが、予測は変わり得る」 | -------- |
8/21 | ポスティック・アトランタ連銀総裁 | 「労働市場の動向は気掛かりな要因となり得る」、「現時点でも基本的には同じ考えだ」、「ただ、足元の環境においては、あらゆる見通しや予測に幅広い不確実性が伴う」、「特定の見通しに固執しているわけではない」 | ドルが買われ、債券と株は下落。 |
8/21 | ハマック・クリーブランド連銀総裁 | 「米国のインフレは高過ぎる上、過去1年を通じて上昇基調にある」、「もし政策会合が明日開催されるとして、現時点の情報に基づけば、利下げの論拠は見当たらない」 | ドルが買われ、債券と株は下落。 |
8/21 | ブラード氏・前セントルイス連銀総裁 | 「金利は現時点でやや高過ぎる。2026年に向けて100bp程度の引き下げが可能だと考える。それは9月の会合での利下げから始まり、恐らく年内に追加利下げがあるだろう」 | -------- |
8/14 | ボスティック・アトランタ連銀総裁 | 「現時点での戦略的アプローチは『動いて、待つ』というものになるだろう」、「われわれの行動後、経済がどう動くか分かるまでに時間がかかるかもしれない。その間に、次にどのような行動を取るべきか鮮明になるだろう」、「労働市場が堅調を維持すれば、年内は1度の利下げが適切になるという見方はなお変わらない」、「いつ行動を起こすかについては予断を持っていない。特定の時期に固執していない」 | -------- |
8/14 | ムサレム・セントルイス連銀総裁 | (9月の会合で)「私自身としてどういった政策を支持できるかを正確に述べるのは時期尚早だ」、(9月会合で0.5ポイントの利下げが正当化され得るかとの質問に)、「経済の現状や見通しを踏まえれば支持されない」、「データは、より持続的なインフレの可能性があるかどうかを示し始めている。労働市場には下振れリスクがある」、「私は両方の要素を意識している」、「われわれの2つの責務の間に緊張が見られる場合は、バランスの取れたアプローチで臨む必要がある」 | -------- |
8/14 | デーリー・SF連銀総裁 | 「0.5ポイントというのは、われわれが緊急性を認識しているように聞こえる。労働市場について私が感じているものとは違う緊急シグナルを発することになると懸念する」、「そうは見ていないし、遅れを取り戻す必要も感じない」 | -------- |
8/13 | ベッセント・財務長官 | 「9月の0.5ポイント利上げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろうと考えている。どのモデルを見ても、金利は恐らく150、175ベーシスポイント低い水準にあるできだろう」、「トランプ大統領も望んでいる」、「日本はインフレ問題を抱えており、確実に日本からの波及がある」、(日銀の植田総裁と話したこと明らかにしたうえで)、「これは総裁の見解ではなく、私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」 | 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は147円08銭まで下落。 |
8/12 | バーキン・リッチモンド連銀総裁 | 「米経済の先行きに対する不透明感は薄れつつあるものの、FRBがインフレ抑制と雇用の下支えのどちらに重点を置くべきかは、依然として明確ではない」 | -------- |
8/12 | シュミッド・カンザスシティ連銀総裁 | 「経済が勢いをなお維持し、企業の楽観的な見方が強まり、インフレが当局の目標を上回る水準にとどまる中では、緩やかな引き締め状態にある金融政策スタンスを当面維持するのが適切だ」 | -------- |
8/7 | ポスティック・アトランタ連銀総裁 | 「年内に1回の利下げが実施される可能性が高いとの見通しは変わらない」、「関税の影響が一時的なものなのか、あるいはもっと持続的なものなのかという点が、現時点では恐らく最も重要な問題だ」、「この日発動された関税の影響が、一時的な物価上昇にとどまるという教科書的な関税の例に当てはまるには、いくらか会懐疑的な理由がある」、「これは一度きりで、ある朝目が覚めたら全ての関税が明らかになっているという話ではない。むしろ、関税が頻繁に変化することで、消費者の意識の中に関税や物価上昇見通しが浮かぶ期間が長くなり、インフレ期待が高まるリスクがある」 | -------- |
8/6 | カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 | 「景気は減速している。短期的にFF金利の調整を開始することが適切になる可能性がある」、「関税の影響が明確になるまで、どれくらい待てるのか、それが現在、私を悩ませている。最良の選択肢が、多少の調整を行い、その後に一時停止や方向転換を迫られる展開であっても、関税の影響が明確になるまで何もしないで待つより望ましい可能性がある」 | -------- |
8/6 | クック・FRB理事 | 「7月の雇用統計は懸念すべき内容だった。こうしたデータの修正は転換点でよく見られる傾向だ」 | -------- |
8/4 | デーリー・SF連銀総裁 | (先週のFOMCの決定について)、「もう1会合見送る用意はあったが永遠に待つことはできない」、「インフレが加速・波及したり、雇用市場が持ち直したりすれば、2回未満の利下げでも十分かもしれないが、より可能性が高いのは、2回を超える利下げが必要になるかもしれないことだと考える。労働市場が弱い局面に入りつつある一方で、インフレへの波及が見られない場合、さらに措置を講じる準備も必要というのが私の見解だ」 | -------- |
外為オンラインのシニアアナリスト
佐藤正和
邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。
インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。
通算30年以上、為替の世界に携わっている。
・ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」出演中。
・STOCKVOICE TV「くりっく365マーケット情報」出演中。
・Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
・書籍「チャートがしっかり読めるようになるFX入門」(翔泳社)著書