今日のアナリストレポート[月〜金 毎日更新]

「日銀、政治混乱でも年内利上げを排除せず」

ひと目で分かる昨晩の動き

NY市場
  • ドル円は欧州市場の朝方に急落し、一時146円30銭前後まで下落。日銀が、政治混乱でも年内利上げの可能性を排除しないとの報道にドル売りが加速。NYでは雇用者数の年次改定で下方修正されたものの、米金利の上昇に伴い147円台に戻す。
  • ドル安が進みユーロドルは買われたが、依然としてフランスの政局が重荷となり上値は限られた。
  • 株式市場では3指数が揃って上昇。雇用者数の年次改定で雇用者が大きく下方修正されたことで、年内数回の利下げ観測がさらに高まる。
  • 債券は反落。長期金利は4.08%台に上昇。
  • 金は連日で最高値を更新。原油は続伸。
ドル/円 146.52 〜 147.47
ユーロ/ドル 1.1704 〜 1.1763
ユーロ/円 172.18 〜 172.68
NYダウ +196.39 → 45,711.34
GOLD +4.80 → 3,682.20ドル
WTI +0.37 → 62.63
米10年国債 +0.048 → 4.088%

本日の注目イベント

  • 中 中国8月消費者物価指数
  • 中 中国8月生産者物価指数
  • 米 8月生産者物価指数

本日のコメント

米雇用者数の伸びは2025年3月までの1年間、従来の発表値よりはるかに低いものだった可能性が高いようです。米労働統計局が9日に発表した年次ベンチマーク(基準)改定では、3月までの1年間の雇用者増は91万1000人下方修正されそうです。下方修正幅は同統計史上で過去最大で、1カ月当たりでは7万6000人近い下向き改定となります。確報値の発表は来年2月に予定されていますが、実際の雇用の伸びは、最近鈍化し始める以前から、労働市場が既に軟化していたことになりそうです。ベンチマーク改定の発表前の段階では、雇用者数は3月までの1年間に約180万人増(季節調整前)でした。これは月平均では14万900人増となりますが、年次改定では、1カ月当たりの雇用の伸びがその約半分だったことが示されました。来週のFOMC会合からの、より積極的な一連の利下げにつながる可能性があるかもしれません。

NYではドルの上値が重い展開でしたが、昨日はロンドン市場の朝方にドル円が急落する場面がありました。ブルームバーグは、「日銀は、石破首相の退陣を受けて国内政治情勢が混乱する中でも、年内利上げの可能性を排除しない姿勢だ」と報じたことがトリガーでした。報道では、「事情に詳しい複数の関係者によると、日銀は新政権の政策を巡る思惑で神経質な市場の動向を注視している。経済・物価情勢は7月の最新シナリオに沿った動きと判断しており、年内に環境が整う可能性も引き続き視野に入れている。最大のリスク要因である米関税政策は、トランプ大統領が4日に日米合意を履行する大統領令に署名し、日銀は不確実性の一段の低下につながるとみている。米関税を踏まえた企業行動や新政権の政策など金融政策判断に重要な材料が、今秋以降にはそろってくる可能性が大きいという」といった内容でした。個人的には、今月の決定会合では利上げが見送られる公算が高いと思っていますが、10月には利上げがあると予想しており、報道内容には特に違和感は覚えませんでした。しかし市場は大きく反応し、ドル円は一時146円30銭前後まで売られました。ただ、これまでは底堅かった146円台半ばを下抜けしたことで、さらにドルが売られても不思議ではないような展開でしたが、NYでは底値から1円ほど反発しています。米金利の上昇に助けられたとは言え、ドルの底堅さにはやや驚きです。

イスラエルは9日、カタールの首都ドーハでイスラム組織ハマスの指導部を標的にした一方的な攻撃を行いました。米国の同盟国であるカタールへの攻撃は地域の緊張を一気に高め、米国が仲介するガザ停戦の取り組みを頓挫させる可能性があります。イスラエルの首相官邸は、イランの支援を受けるハマスに対する今回の措置は「完全にイスラエル独自の作戦だ」との声明を発表しています。ホワイトハウスのレビット報道官は、「大統領はカタールを米国の友人かつ強固な同盟国と考えており、今回のカタールへの攻撃を大変遺憾に思っている」と述べました。トランプ大統領は攻撃後、イスラエルのネタニヤフ首相およびカタールの指導者とそれぞれ会談したようです。レビット氏によると、トランプ氏はその際、カタール側に同様の攻撃が再び起きることはないと伝えています。ただレビット氏は、大統領がネタニヤフ首相に何らかの措置を取るかについては言及を避け、大統領の意に反する行動であったものの「和平の好機」だと述べていました。中東や欧州からも非難が相次いでいます。イスラエルと5年前に国交を正常化したアラブ首長国連邦(UAE)は地域の「安全保障に極めて危険な影響を及ぼすだろう」と警告。サウジアラビアも「犯罪行為」と非難しています。また、スターマー英首相はSNSに「優先すべきは即時停戦、人質解放、ガザへの人道支援の急拡大だ」と投稿し、マクロン仏大統領も「戦争が地域全体に拡大してはならない」と語っています。カタールは、イスラエルとパレスチナ側との仲介役を務める主要国の一つであり、ハマスとの間で断続的な停戦協議の中心的な役割を果たしてきました。

石破茂首相の退陣表明で次期自民党総裁選に向けた動きが活発になってきました。市場関係者は次のリーダーの有力候補と、予想される政策の相場への織り込みを既に開始しており、その中心に立つのが前回の総裁選で上位に入った高市前経済安全保障担当相と小泉農林水産相です。仮に高市氏が首相の座に座れば、政策スタンスは積極財政と金融緩和の組み合わせにより、市場ではハト派と見なされていることから、円相場は円安方向に向かう可能性が高いと思われます。一方小泉氏は、日銀の政策正常化を継続することに前向きとみられており、同氏が総裁選に勝利すれば、為替市場ではやや円高方向に振れるかもしれません。また、総裁選への出馬があり得ると見られている河野前デジタル相は、明確に「インフレ抑制や円の下支えに向け、日銀は利上げすべきだ」と話していました。

本日のドル円は146円30銭〜148程度を予想します。

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What's going on?

What's going on ?」とは・・・
会話でよく使われる砕けた言い方で「何があったんだ?」「どうなっているんだ?」というような意味。為替はさまざま事が原因で動きます。その動いた要因を確認する意味で「What's going on ?」というタイトルを付けました。
日時 発言者 内容 市場への影響
9/5 グールズビー・シカゴ連銀総裁 「もっと情報を得たい。私はまだ決めていない。インフレの数値が穏やかであれば、それだけ労働市場に集中しやすくなる」、「しかし最新のインフレ統計ではサービス部門でインフレ上振れが見られた。従ってそれが一時的なものであり、もっと深刻な兆候ではないことを確認したい」 --------
9/3 ムサレム・セントルイス連銀総裁 「完全雇用の労働市場とコアインフレがFRBの目指す2%を1ポイント近く上回っている環境と、やや引き締め的な現行の政策金利は整合する」、「現時点では政策においてバランスの取れたアプローチを取ることが重要であり、労働市場の支援やインフレ抑制のいずれかに偏り過ぎるべきではない。先行きを見通すと、労働市場は徐々に冷え込みながらも完全雇用に近い状態を維持するだろうが、リスクは下方向に傾いている」 --------
9/3 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「物価安定が依然として最大の関心事項ではあるものの、労働市場は十分減速しており、年内残りの期間において恐らく25ベーシスポイントの政策緩和が妥当になると考えられる」、「今後数カ月のインフレ動向や雇用市場の展開によっては、この認識は変わり得る」 --------
9/3 ウォラー・FRB理事 「次回会合で利下げを始める必要がある。その後は決まった道筋を踏まなくてもいい。人々は関税によるインフレをまだ懸念しており、状況を見極めながら進めることができる」、「米国の政策金利は現在、景気を刺激も抑制もしない中立金利を上回っており、金融政策が経済を抑制している」、「中立に近づきたいことは認識している。どれくらい利下げすべきかもおおよそ分かっていて、例えば100から150ベーシスポイントだ。ただ、その水準にどれだけの速さで到達するかは、入ってくるデータ次第になるだろう」 --------
8/27 ウィリアムズ・NY連銀総裁 「私の見解では、全ての会合が間違いなくライブだ」、(最大雇用と物価安定というFRBの2大責務に言及し)、「リスクは一段と均衡してきている」、(金利水準は)「やや景気抑制的だ」、「利下げを実施しても、依然としていくぶんか景気抑制的な状態を維持できるだろう。ただし、経済で実際に何が起きているのかを見極める必要がある」 --------
8/26 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「経済が緩やかな動きとなれば、金利調整は小幅にとどまるだろう。実際に経済が緩やかな動きになるかは分からない。それはその時に確認しなければならない。従ってこれは私の予測だが、予測は変わり得る」 --------
8/21 ポスティック・アトランタ連銀総裁 「労働市場の動向は気掛かりな要因となり得る」、「現時点でも基本的には同じ考えだ」、「ただ、足元の環境においては、あらゆる見通しや予測に幅広い不確実性が伴う」、「特定の見通しに固執しているわけではない」 ドルが買われ、債券と株は下落。
8/21 ハマック・クリーブランド連銀総裁 「米国のインフレは高過ぎる上、過去1年を通じて上昇基調にある」、「もし政策会合が明日開催されるとして、現時点の情報に基づけば、利下げの論拠は見当たらない」 ドルが買われ、債券と株は下落。
8/21 ブラード氏・前セントルイス連銀総裁 「金利は現時点でやや高過ぎる。2026年に向けて100bp程度の引き下げが可能だと考える。それは9月の会合での利下げから始まり、恐らく年内に追加利下げがあるだろう」 --------
8/14 ボスティック・アトランタ連銀総裁 「現時点での戦略的アプローチは『動いて、待つ』というものになるだろう」、「われわれの行動後、経済がどう動くか分かるまでに時間がかかるかもしれない。その間に、次にどのような行動を取るべきか鮮明になるだろう」、「労働市場が堅調を維持すれば、年内は1度の利下げが適切になるという見方はなお変わらない」、「いつ行動を起こすかについては予断を持っていない。特定の時期に固執していない」 --------
8/14 ムサレム・セントルイス連銀総裁 (9月の会合で)「私自身としてどういった政策を支持できるかを正確に述べるのは時期尚早だ」、(9月会合で0.5ポイントの利下げが正当化され得るかとの質問に)、「経済の現状や見通しを踏まえれば支持されない」、「データは、より持続的なインフレの可能性があるかどうかを示し始めている。労働市場には下振れリスクがある」、「私は両方の要素を意識している」、「われわれの2つの責務の間に緊張が見られる場合は、バランスの取れたアプローチで臨む必要がある」 --------
8/14 デーリー・SF連銀総裁 「0.5ポイントというのは、われわれが緊急性を認識しているように聞こえる。労働市場について私が感じているものとは違う緊急シグナルを発することになると懸念する」、「そうは見ていないし、遅れを取り戻す必要も感じない」 --------
8/13 ベッセント・財務長官 「9月の0.5ポイント利上げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろうと考えている。どのモデルを見ても、金利は恐らく150、175ベーシスポイント低い水準にあるできだろう」、「トランプ大統領も望んでいる」、「日本はインフレ問題を抱えており、確実に日本からの波及がある」、(日銀の植田総裁と話したこと明らかにしたうえで)、「これは総裁の見解ではなく、私見だが、日銀は後手に回っており、利上げするだろう」 株と債券が買われ、金利が低下したことでドル円は147円08銭まで下落。
8/12 バーキン・リッチモンド連銀総裁 「米経済の先行きに対する不透明感は薄れつつあるものの、FRBがインフレ抑制と雇用の下支えのどちらに重点を置くべきかは、依然として明確ではない」 --------
8/12 シュミッド・カンザスシティ連銀総裁 「経済が勢いをなお維持し、企業の楽観的な見方が強まり、インフレが当局の目標を上回る水準にとどまる中では、緩やかな引き締め状態にある金融政策スタンスを当面維持するのが適切だ」 --------
8/7 ポスティック・アトランタ連銀総裁 「年内に1回の利下げが実施される可能性が高いとの見通しは変わらない」、「関税の影響が一時的なものなのか、あるいはもっと持続的なものなのかという点が、現時点では恐らく最も重要な問題だ」、「この日発動された関税の影響が、一時的な物価上昇にとどまるという教科書的な関税の例に当てはまるには、いくらか会懐疑的な理由がある」、「これは一度きりで、ある朝目が覚めたら全ての関税が明らかになっているという話ではない。むしろ、関税が頻繁に変化することで、消費者の意識の中に関税や物価上昇見通しが浮かぶ期間が長くなり、インフレ期待が高まるリスクがある」 --------
8/6 カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 「景気は減速している。短期的にFF金利の調整を開始することが適切になる可能性がある」、「関税の影響が明確になるまで、どれくらい待てるのか、それが現在、私を悩ませている。最良の選択肢が、多少の調整を行い、その後に一時停止や方向転換を迫られる展開であっても、関税の影響が明確になるまで何もしないで待つより望ましい可能性がある」 --------
8/6 クック・FRB理事 「7月の雇用統計は懸念すべき内容だった。こうしたデータの修正は転換点でよく見られる傾向だ」 --------
8/4 デーリー・SF連銀総裁 (先週のFOMCの決定について)、「もう1会合見送る用意はあったが永遠に待つことはできない」、「インフレが加速・波及したり、雇用市場が持ち直したりすれば、2回未満の利下げでも十分かもしれないが、より可能性が高いのは、2回を超える利下げが必要になるかもしれないことだと考える。労働市場が弱い局面に入りつつある一方で、インフレへの波及が見られない場合、さらに措置を講じる準備も必要というのが私の見解だ」 --------
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外為オンラインのシニアアナリスト 佐藤正和